【M&Aで企業価値を高める】3.資金調達しレバレッジを利かす

近年、多くの中小企業が深刻な課題として挙げているものの一つに「人材不足」があります。特に建設業・製造業・介護・物流・ITといった人手依存型の業界では、人材の確保ができず、技術や顧客があるにもかかわらず事業の継続が難しくなるケースが年々増えています。
経済産業省のデータでも、労働人口は右肩下がりが続き、2030年には644万人の労働力不足が予測されています。こうした状況の中、「事業を譲るかどうか」「後継者がいるかどうか」ではなく、今や企業経営の現実的課題として、M&Aが人材確保の手段として注目されています。
■ 人手不足がもたらす経営環境の変化
かつて事業承継やM&Aといえば、「後継者不在により廃業を避けるための売却」というイメージが強くありました。しかし、今は状況が変わりつつあります。
現在は、
・人材採用がうまくいかない
・採用コストが高騰している
・技術継承が追いつかない
・受注したくても人員不足で対応できない
といった観点から、「事業承継を会社を守るための経営戦略」として考えられるようになっています。
■ 「買収」は採用戦略の一つ
近年増えている動きが、人材確保を目的とした買収型M&Aです。
採用難の中、「外部で採用するより、既に育った人材ごと企業を受け入れたほうが早い」という判断です。特に以下の分野では顕著となっています。
・建設:有資格者が不足。監理技術者・職人の確保が困難
・製造:技術者の高齢化、技能継承の遅れ
・介護:法定配置基準、人材コスト負担増
・IT:経験者採用の難易度が高い
採用広告に数百万円かけても応募ゼロというケースが多い環境では、「企業と人材を丸ごと迎える」という手段が、現実的で効率的な選択肢となっています。
■ 売却側にもメリットがある
一方、売却側にとっても、単なる事業承継ではなく、
・従業員の雇用が守られる
・評価制度や教育制度が整った企業に入ることで従業員のキャリアが伸びる
・経営資源を得ることで事業が拡大する
・売却益を得られる
といったメリットがあります。
特に地域企業においては、単に会社を残すのではなく、「従業員の未来を守る選択肢」としてM&Aを検討する経営者も増えています。
■ 買収と売却の両方で検討するケースも
最近では、
「買収できる会社があれば買いたい。なければ自社を売却して従業員の未来を守る」
というように、買い手と売り手の双方で戦略的に検討するケースも増えています。
特に中小企業にとって、企業単体で採用・教育・制度改革を進めるのは負担が大きく、グループ化により事業基盤を安定させる動きが活発になっています。
■ まとめ:M&Aはゴールではなく経営の選択肢
事業承継やM&Aは、決して「売却=終わり」ではありません。
むしろ今は、人材・技術・地域経済・未来を守るための選択肢として位置づけられています。
採用が難しい時代だからこそ、経営者が考えるべきテーマは、 「会社をどう残すか」ではなく、 「社員・顧客・技術・ビジネスをどう未来につなげるか」 が重視されています。
そのための手段としてのM&Aを、早い段階から選択肢に入れておくことが、今の経営環境では重要になっています。



