事業承継は「目的」ではなく「手段」―大切な視点として感じること

齊藤肇

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テーマ:事業承継


日頃、事業承継に関するご相談を受ける中で「事業承継は手段であって、必ずしも目的ではない」ことに気づかされます。専門家としては株式の移動や後継者育成、資金調達のスキーム、M&Aの相手探しといった具体的な方法論に目が向きがちですが、それらはあくまで手段にすぎません。相談者の本当の目的を見誤ってはいけないと強く感じています。
例えば「子供に事業を譲りたい」という相談を受けることは多くあります。専門家としては、株式の移転や後継者教育の計画などがまず頭に浮かびます。しかし実際にお話を伺うと、「自分がいなくても、子供が自分の判断で経営を担えるようにする」ことが目的であり、株式移動はその一部でしかなく、本来のゴールはもっと先にあるのだと実感します。
また「事業を譲渡したい」という言葉の裏にも、さまざまな目的が隠れています。借入金を整理したいという切実な思いであったり、「事業を譲り受けたい」であれば新たに創業したいという前向きな挑戦であったりします。そうした背景に気づくと、単なる譲渡スキームの提案にとどまらず、金融機関との交渉や不動産の売却、譲受であれば副業やゼロからの創業支援といった、別のアプローチが見えてきます。同じ言葉でも、その人にとっての意味はまったく異なるのだと気づかされます
専門知識を持つがゆえに、つい「これは株式の問題だ」「M&A相手探しだ」と手段に落とし込んで考えてしまうことがあります。しかし、それでは相談者の真意をすくい取れないこともあります。だからこそ「この方は本当に何を望んでいるのか」を把握し、解決方法が適切なのかを、その目的に照らし合わせて確認していく必要があります。
事業承継に携わっていると、制度やスキームに詳しくなるほど、答えをすぐに提示したくなります。けれども、相談者の想いを丁寧に聞き取り、言葉の奥にある本音に寄り添うことを忘れてはいけないと感じています。

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齊藤肇
専門家

齊藤肇(中小企業診断士、行政書士)

合同会社メイクイットワーク

「よいカタチで会社を譲りたい」との経営者の思いをかなえる事業承継を支援。経営を見える化し、適した手段と無理のない事業承継計画を策定。補助金申請など資金調達支援、後継者育成や相続課題にも対応しています。

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