事業承継のけじめとなる「承継式」の意味と流れについて

齊藤肇

齊藤肇

テーマ:事業承継


先日、従業員に承継を決めた経営者の方から、その承継式の日付と場所についてご相談がありました。
事業承継というと、財務や株式の移転、金融機関との調整といった「数字の世界」が強調されがちです。しかし、それと同じく大切なのが「けじめ」としての承継の儀式です。経営者から後継者へ「正式に引き継ぐ」という表明は、社内外にとって心理的にも大きな区切りとなります。経営者にとっても、今後の新しい人生をスタートするスイッチになります。
本稿では、承継式の意味や場所選び、会社ごとの工夫、流れなどについて整理してみます。

1.承継式の意味

承継の儀式は単なる形式ではありません。以下の3つの意味があります。

社内外への表明

従業員や取引先に対し「この人が新しい経営者です」と明確に伝える場となります。これによって後継者が「経営者としての立場」を周囲に認めてもらうきっかけとなります。後継者にとっても責任を自覚する機会となります。

経営者本人のけじめ

長年経営を担ってきた先代が「ここで自分の役割を終える」と心の整理をつける場でもあります。承継は頭で理解していても、儀式を経ることで実感が伴います。新しい人生に頭を切り替えるスイッチになります。

伝統と未来をつなぐ象徴

社史の一部として残ることも多く、後年振り返った際に「このときが転換点だった」と語り継がれる出来事になります。

2.日付選びの工夫

経営者の方は日付にこだわりを持っている方が多いです。現実的には期の変わり目が考えられますが、創立記念日や誕生日など思い出になる日付や縁起のよい日付を選びます。

3.場所選びの工夫

儀式の雰囲気を左右するのが「場所選び」です。代表的には以下のような選択肢があります。

本社・工場

社員全員が集まりやすく、事業の現場に直結するため一体感が生まれます。

取引先や金融機関を招く場合の会場

ホテルの会議室や宴会場などを利用すると、外部に対する正式な発表の場となります。

神社や寺院

特に老舗企業や地域に根差した会社では「奉告祭」として神前で行うケースもあります。伝統を重んじる雰囲気を演出できます。

どの場所を選ぶにしても、「会社の歴史や価値観を映し出す場」であることが大切です。

4.会社ごとの工夫(会社選び)

承継儀式は一律の形式ではなく、会社の規模や文化に応じて工夫されています。

中小製造業の場合

工場内で機械の前に立ち、従業員全員に向かって先代が後継者を紹介するシンプルな形が多いです。現場の士気を高める効果があります。

サービス業や店舗型ビジネスの場合

店舗のオープンスペースで顧客も招き、地域の人々に「代替わり」を伝えることで信頼関係を強めるケースがあります。

成長企業・IT企業の場合

スタートアップ的な文化を重視し、カジュアルなイベント形式(社内報告会+懇親会)で行うこともあります。

要するに、儀式の「形」よりも、そこに込める「メッセージ」が重要です。

5.承継儀式の流れ


一般的な承継儀式の流れを整理すると次のようになります。

先代からの挨拶

「これまで支えてくれてありがとう」と社員や取引先に感謝を述べ、自らの退任を表明します。

後継者の紹介と決意表明

後継者が壇上に立ち、「どのような会社をつくっていくか」という未来志向の言葉を語ります。

承継証の授与

会社印鑑や社章、経営理念の額縁などを象徴的に受け渡すことがあります。これにより「承継の瞬間」が明確に示されます。

来賓・社員代表の祝辞

金融機関や顧問税理士、従業員代表などからの言葉が後継者を支える後押しとなります。

記念撮影・会食

写真や映像に残すことで社史資料にもなり、後の広報活動にも活用できます。

6.まとめ

事業承継の成否は数字や制度面だけでは決まりません。経営者・後継者・関係者の心に残る承継式を行っていただくことで「未来へのスタート」になります。経営者の方にとっても、よいけじめをつけて、今後の人生を良い思いでを持って開始していただきたいです。

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齊藤肇
専門家

齊藤肇(中小企業診断士、行政書士)

合同会社メイクイットワーク

「よいカタチで会社を譲りたい」との経営者の思いをかなえる事業承継を支援。経営を見える化し、適した手段と無理のない事業承継計画を策定。補助金申請など資金調達支援、後継者育成や相続課題にも対応しています。

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