【事業承継は目的ではなく手段】投資対象手段としてのM&A

「うちの会社って、もし売るとしたらいくらになるんだろう?」
最近、そんな相談が増えています。事業承継や引退後の選択肢として、M&Aを考える中小企業の経営者が多くなってきました。
親族内での承継では、株式の移動は“時価”で行うこととされていますが、第三者に行うM&Aでは、最終的な売却価格は買い手との交渉で決まります。その価格は、DCF法(将来の利益を現在価値に換算)やEBITDA倍率法(利益に倍率をかける方法)などで目安を算出します。これには顧問税理士や専門家の力を借りるのが安心です。
とはいえ、まずは自分でも「大まかな価値」を知っておきたいという方も多くいらっしゃいます。今回は、専門家に依頼する前にできる、簡単なM&A評価の考え方をご紹介します。
1. 中小企業の評価で重視されるのは「利益を生む力」
中小企業のM&Aでは、会社の価値は単なる資産額ではなく、「将来にわたって利益を出し続けられる力」に重きを置いて評価されます。これは、買い手側にとって「この会社を買って利益を得られるか」が最も重要な判断材料になるからです。
よく使われる評価手法としては、EBITDA倍率法やDCF法などがあります。今回は比較的シンプルなEBITDA倍率法をベースに、概算を出す方法を見ていきましょう。
2. 簡易評価ステップ:自社の価値をざっくり把握する方法
【ステップ①】EBITDAの算出
まずは、過去3年程度の営業利益に、減価償却費を加えて平均値を出します。(法人であれば営業利益は損益計算書、減価償却費は損益計算書または販売費および一般管理費・製造原価報告書に記載があります)
例:
営業利益の平均が 1,000万円
減価償却費が年 300万円
→ EBITDA=1,300万円
【ステップ②】業種ごとの倍率(マルチプル)をかける
業種や会社の特性により異なりますが、中小企業ではEBITDAの2〜5倍程度が一般的な目安です。
EBITDA 1,300万円 × 倍率3 = 3,900万円
これが「営業権(のれん)」を含む、会社の事業価値の概算となります。
【ステップ③】資産・負債を加味する
手元の現預金や不動産などの資産から負債を差し引いた時価純資産を加算することで、全体の評価額が見えてきます。(法人であれば貸借対照表に「純資産の部」として記載があります)
営業価値 3,900万円 + 純資産 1,000万円 = 会社の簡易評価額 4,900万円
3. 実際の価格は“交渉”で決まる
上記が簡易的な試算になります。ただし、M&Aの実務では「この評価額=売却価格」になるわけではありません。純資産に関しては実際の時価がいくらになるのかの観点が加わりますし、実際の取引価格は、買い手との交渉の中で調整されていきます。
例えば、
・特定の取引先への依存度が高い
・社長が中心で属人的な経営になっている
・流行に左右されやすく売上の継続が見通せない
といった点があると、引き継いだあとの事業の再現性は低くなり、リスク要因として評価が下がる要素になります。
一方で、
・地域に根ざした高い信用力
・安定した売上と利益
・熟練した社員の定着
などは上乗せ評価につながることもあります。
つまり、会社の“数字”だけでなく、“定性的な魅力”もM&A価格を左右してきます。
4. 評価は「売却の準備」だけでなく「経営の棚卸し」にもなる
会社の簡易評価を試みることは、「いくらで売れるか」を知るだけでなく、「自らの事業の価値を知り」経営を客観視する貴重な機会にもなります。
たとえば、
・取引先に偏りがある
・財務内容や収益構造が複雑で見えづらい
・経営者に頼りきりの体制である
といったリスクに気づくことで、改善点や将来の選択肢が広がります。
また、売却を前提としなくても、資金調達や事業承継の準備、または補助金申請などの際に役立つこともあります。
5. まとめ:まずは“見える化”から始めてみませんか?
M&Aを検討している、あるいは漠然と将来に備えたいという経営者の方にとって、「企業価値の“見える化」は第一歩です。
まずは「自らの事業の価値を知り」見える化を進めることをお勧めします。



