都市部のノウハウを地方へ、地方の強みを全国へー北日本新聞社(富山)からの取材について

「あと3年早ければ…」
これは、事業承継が前に進まない経営者がよく口にする言葉です。
中小企業の経営者の高齢化が進むなか、「誰に・いつ・どうやって事業を引き継ぐか」は避けて通れない重要課題です。しかし、いざ承継を決断しようとしたときには、すでに“旬”を逃していた──そんなケースが少なくありません。
従業員が離れ、顧客が減り、財務が悪化した状態では、たとえ意欲ある後継者がいても「継ぐ意味があるのか」と思われかねません。
本コラムでは、そうした事態を回避するための4つのチェックポイントを紹介します。
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チェック①:社員が前向きに働けているか?
たとえば、社長が60代半ばで「そろそろ承継を…」と考えているが、社員には何の説明もない。将来の不安から若手が辞めていき、気づけば残るのは高齢者ばかり。こうしたケースでは、仮に後継者候補がいたとしても、「この組織を再生できるのか」と引き継ぎをためらう可能性があります。
社員は“未来”を見て働きます。
経営者が自ら将来像を語り、後継者の存在や方向性を早めに示すことが、社内の信頼と安定につながります。社員の空気感が冷えてきたと感じたら、それは「旬を逃し始めたサイン」かもしれません。
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チェック②:顧客・取引先との関係が安定しているか?
たとえば、地域密着の飲食店や老舗の工務店など、長年の信頼で成り立っている業種では、「あの社長だから頼んでいた」という関係が多くあります。そうした場合、社長が突然引退して後継者が現れても、顧客が離れてしまうことがあります。
顧客との関係は“人”そのものです。
承継を見据えるなら、後継者が早い段階から表に出て、自然と顧客と顔の見える関係を築いていくことが重要です。「社長が代わっても安心」と思ってもらえるうちが、承継のベストタイミングです。
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チェック③:財務状況は健全か? 借入金は増えていないか?
たとえば、長年黒字経営を続けていた建設業の会社が、売上減少に伴い設備投資の資金繰りに苦しみ、借入が年商の1.5倍に膨らんでしまった──というケース。承継の話を進めようとしても、金融機関の借換えが通らず、後継者に大きな負担がのしかかります。
事業が黒字であっても、過度な借入や資金繰りの悪化は、承継の足かせになります。
後継者が「これは背負えない」と判断しても無理はありません。資金面に余裕があるうちに、承継体制を整えることが求められます。
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チェック④:後継者が“継ぎたい”と思える会社か?
たとえば、親族内承継を考えていた中小企業で、後継候補だった息子が「会社に未来が見えない」として他業界へ転職──というケース。設備は老朽化し、従業員の士気も低く、売上も縮小している状態では、「自分が継いでも再生できない」と判断されるのは自然です。
後継者にとっても「継ぐ価値がある会社」でなければ承継は成立しません。
経営者自身が、「何を残したいのか」「これからどう成長していきたいのか」を語れるかどうかが、“旬”を見極める大きなポイント
になります。
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まとめ:事業承継は「会社の再スタート」である
事業承継は
、単なる「引退の準備」ではありません。
それは、会社の未来をつくる「第二の創業期」であり、経営者としての集大成ともいえる重要なプロジェクトです。
そして、承継成功の鍵は“旬”を逃さないこと。
•社員が将来に希望を持って働いている
•顧客との信頼関係が続いている
•財務が健全で資金に余裕がある
•後継者が「継ぎたい」と思える魅力がある
これら4つが揃っているときこそが、事業承継のベストタイミングです。
「まだ早い」と思っている今こそ、実は最も良いタイミングかもしれません。



