M&A市場は売り市場か? ~ 買い手視点でM&Aを成功させるための進め方~

齊藤肇

齊藤肇

テーマ:事業承継


中小企業M&Aの現場では、しばしば「売り手市場」と言われます。M&Aプラットフォームでは売り手1社に買い手が十数社のアプローチがあるなどとされており、良質な売却案件の獲得は競争が激化しています
しかし、こうした環境の中でもM&Aは、企業にとって非常に大きな成長のチャンスであることに変わりありません。本サイトの別コラム「【M&Aで企業価値を高める方法】1~4」でもご紹介したように、M&Aは販路拡大、人材確保、新規市場参入など多くの経営課題を一挙に解決し得る戦略となりえます
では、「売り手市場」とされる現在、買い手企業はどのようなアプローチを取れば、M&Aで成功を収められるのでしょうか。
ここでは、特に“ストロングバイヤー(知名度・資金力・信用力のある大手企業)”でない中小企業がM&Aを進めるための具体的な進め方を、買い手視点から解説します。
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売り手が重視する「譲渡の理由と心情」

まず、売り手の背景と心理を理解しておくことが重要です。
売り手の多くは、売れる価格も留意しますが、以下のような想いを優先する傾向があります。
•従業員の雇用を守りたい
•事業を絶やしたくない
•個人貸付など、経営者と会社の関係性を損なわないようにしたい
そのため、「安心して任せられる譲渡先かどうか」が重視される傾向にあります。そしてこの点で、資金力や安定性、知名度のあるストロングバイヤーに案件が集中しやすくなっているのが現状です。
では、ストロングバイヤーでない中小企業が、この状況の中でどのように動けばよいのでしょうか。
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ストロングバイヤーでなくても勝機はある― 買い手としての進め方 ―

1. 自社の強みを見極める

まず必要なのは、自社の強みを客観的に把握することです。特に尖った部分を絞った形で明確化することです。
売上規模や知名度が小さくとも、以下のような点が売り手から評価されることは多くあります。
•地域密着での信頼性やネットワーク
•独自の技術・商品・サービスを持っている
•従業員定着率が高く、良好な組織風土がある
•成長意欲が高く、明確なビジョンがある
強みを明確にすることで、「自社にふさわしい売り手(=シナジーが生まれる相手)」も見えてきます
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2. 経営力を高めるためのターゲット像を明確にする

M&Aは「何を買うか」より「なぜ買うか」が重要です。
買収対象を選定するにあたっては、自社の経営課題を明確にし、それを解決できる企業をターゲットにするべきです。
•新たなエリア展開が必要 → 地域に根ざした販売網を持つ企業
•技術強化 → 特定分野にノウハウのある小規模事業者
•組織課題の解決 → 優秀な人材を擁する老舗企業
反対に、「効果が見込めない領域」「管理が難しい分野」についても線引きをしておくことが、リスク回避につながります。
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3. 資金的な準備を明確にする

売却を検討する経営者は、「買収後の支払いやその後の事業継続に不安がある相手」とは交渉を進めたくないものです。そのため、資金計画の透明性と信頼性の確保は極めて重要です。
•自己資金・社内積立の準備
•金融機関との融資相談(事前の借入枠確保)
•補助金や制度融資(事業承継・成長枠など)の活用
これらを明確にしておくことで、売り手との信頼関係を築きやすくなります。
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4. 売り情報の入手ルートを広げる

良質な案件に出会うには、情報収集のアンテナを高く張ることが必要です。
•民間のM&A仲介会社
•公的支援機関(商工会議所・事業引継ぎ支援センター等)
•業界団体・同業種のコミュニティ
•M&Aマッチングプラットフォーム(TRANBI、BATONZなど)
数多くの情報に触れることで、比較・分析の目も養われ、チャンスを掴む確率が高まります。
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5. ノンネーム解除後のアプローチ

ノンネーム情報に関心を持ち、秘密保持契約を結んで詳細を確認する段階(ノンネーム解除)では、より実践的な見極めと交渉力が問われます。
•販売・製造・仕入れ・財務・従業員構成などの把握
自社の成長戦略と照らし合わせ、投資対効果や統合後の運営を具体的に想定します。
買収後、3年程度の月次収支と財務、キャッシュフローに関する計画は作成することをお勧めします。M&Aの効果を数値で見える化することで、最終的に「買収する!」という決断に踏み切ることができます。
•自社の将来像・M&A後のビジョンを示す
「この企業に任せれば安心だ」と売り手が思えるよう、自社の経営計画・財務状況・従業員体制などをわかりやすく伝えることが有効です。
•働く人の姿・職場の雰囲気も示す
特にトップ面談の段階では、単なる数字や制度だけでなく「どんな人たちがどのように働いているか」を示すことも、売り手側の安心感につながります。
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まとめ:戦略と具体的な計画、誠意がM&A成功を導く

売り手市場という現実はありますが、だからといってチャンスがないわけではありません。
戦略的な準備と、具体的に見える化し数値化した計画、誠実なアプローチがあれば、ストロングバイヤーでなくても十分に売り手から選ばれる存在になれます。 M&Aは一過性の取引ではなく、企業の未来を形作る重要な経営判断です。 自社の成長戦略に合った一社との出会いを目指しましょう!

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齊藤肇
専門家

齊藤肇(中小企業診断士、行政書士)

合同会社メイクイットワーク

「よいカタチで会社を譲りたい」との経営者の思いをかなえる事業承継を支援。経営を見える化し、適した手段と無理のない事業承継計画を策定。補助金申請など資金調達支援、後継者育成や相続課題にも対応しています。

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