【M&Aで決算書を見るときの着眼点】損益計算書編~自社とのシナジーを見据えた売上と費用の分析ポイント~

齊藤肇

齊藤肇

テーマ:事業承継


M&Aを検討する際、対象企業の損益計算書(PL:Profit and Loss Statement)の読み解きは非常に重要です。特に「売上と費用」の分析は、企業価値の適正な評価や、将来的な統合効果(シナジー)の見極めに直結します。

本コラムでは、損益計算書を見る際の5つの主要な着眼点を、自社の現業との連携(シナジー)という視点も含めて解説します。

1. 売上の構成と継続性を見極める

まず注目すべきは売上高の構成とその継続性です。売上が毎年安定しているか、一時的な大口顧客に依存していないかを確認します。

例えば、売上高1億円の企業で、特定の顧客1社からの売上が5,000万円を占めていた場合、その顧客を失えば売上が半減します。このような場合、実質的な売上の再現性にはリスクがあるため、シナジー効果を見込むにも慎重な判断が求められます。

また、自社が持つ既存の販売チャネルや顧客基盤に、対象企業の商品・サービスをクロスセルできる場合は、売上増加のポテンシャルがあります。たとえば、自社が関東圏で展開しており、対象企業が関西で強い販売網を持っている場合、地域的シナジーによる売上拡大が見込めます。

2. 売上総利益率(粗利率)の水準と改善余地

売上総利益率(=売上総利益÷売上高)は、商品力や価格競争力、コスト管理能力を示す重要指標です。業種により適正水準は異なりますが、同業平均と比較して高い粗利率であれば、差別化された価値提供ができている可能性があります。

例:売上高1億円に対して粗利率が25%(粗利2,500万円)なら、原価は7,500万円ということになります。ここで、自社では同じ業種で粗利率が30%である場合、対象企業の商品原価の見直しや仕入ルートの統合によって、利益率の向上が見込める可能性があります。

逆に粗利率が低下傾向にある場合、過度な価格競争や原材料コストの高騰などが背景にあることも多く、今後の収益性に注意が必要です。

3. 販管費の内訳と統合による削減可能性

販売費及び一般管理費(販管費)は、固定費の大部分を占めるため、統合後のコストシナジーが最も現れやすい項目です。内訳を見て、どの費用が重いのかを把握することが重要です。

たとえば、広告宣伝費が1,000万円と高額な企業があった場合、自社では既に強いブランド力や販促チャネルを持っていれば、買収後は広告費を抑えた運営が可能です。また、総務・経理などのバックオフィス部門で重複する人員がある場合、統合によって間接費の削減が可能となり、実質的な営業利益の改善につながります。

4. 役員報酬・福利厚生などのオーナー関連費用

中小企業のPLでは、オーナー経営者の役員報酬が高額に設定されているケースが多くあります。これは節税のための税務戦略として一般的ですが、実質的な利益評価をするうえでは調整が必要です。

たとえば、役員報酬が年1,200万円(毎月100万円)となっていても、業務内容から判断して市場水準が月50万円程度である場合、差額の600万円は「オーナー利益」として実質的に企業の稼ぐ力とみなすことができます。

また、家族従業員への給与や私的な支出が福利厚生費などに計上されていることもあるため、これらを洗い出して調整すると、営業利益の実態に近づくことができます。

5. シナジー後の利益インパクトを試算する

最後に重要なのは、対象企業単独でのPL分析にとどまらず、自社との統合後にどう利益が変化するかをシミュレーションすることです。

たとえば、対象企業が単独で営業利益500万円、自社が2,000万円とします。統合によって販管費が年400万円削減され、売上が1,000万円拡大する見込みがある場合、追加で粗利300万円(粗利率30%の場合)が加わります。

この場合、
500万円(対象企業の営業利益)
+ 400万円(コスト削減)
+ 300万円(売上シナジー)
= 合計1,200万円の利益インパクトが見込めることになります。

このように、損益計算書の数字をただ受け取るだけでなく、「統合後どう変わるか」を定量的に見ることが、M&A成功の鍵となります。

まとめ:PL分析は“未来の利益構造”を描くための手段

損益計算書の分析は、過去の経営成績を振り返るだけでなく、未来の収益構造を予測するための重要な手がかりです。単に「黒字か赤字か」ではなく、どこにシナジーの可能性があるか、どこを強化・効率化すれば利益が出せるかという視点で読み解くことで、M&Aの本当の価値が見えてきます。

損益計算書には経営判断や市場環境、組織の特性が反映されています。自社との相性を冷静に見極め、シナジー効果を最大化できるM&A戦略を描くために、PLの深堀りを欠かさないようにしましょう。

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齊藤肇
専門家

齊藤肇(中小企業診断士、行政書士)

合同会社メイクイットワーク

「よいカタチで会社を譲りたい」との経営者の思いをかなえる事業承継を支援。経営を見える化し、適した手段と無理のない事業承継計画を策定。補助金申請など資金調達支援、後継者育成や相続課題にも対応しています。

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