【M&A買収で決算書を見るときの着眼点】貸借対照表編〜リスクと価値を見抜く財務分析とは〜

齊藤肇

齊藤肇

テーマ:事業承継


M&Aで買収を検討する際、ノンネーム情報で大まかな業種や収益モデルを把握した後、実名開示依頼を行う形になります。このあと売り手との秘密保持契約(NDA)を締結したあと、多くの場合は初めて対象企業の決算書の中身を確認できるようになります。
そのひとつが貸借対照表(バランスシート)です。
「企業の健康診断書」とも言える貸借対照表には、その企業がこれまで築いてきた資産構成・負債の重み・自己資本の体力が如実に現れます
今回は、M&Aの初期フェーズで貸借対照表をチェックする際に注目したい4つのポイントをご紹介します。

1.自己資本比率と債務超過リスク

・着眼点

自己資本比率(純資産÷総資産)は、企業の財務の健全性を示す指標です。ここで注視すべきは、自己資本が十分にあるか、それとも債務超過に陥っているかです。

・メリットの確認

自己資本が多ければ、金融機関からの信頼も厚く、借入余力や経営の安定性が高いと判断されます。買収後の資金調達や投資もスムーズに進めやすくなります。会社の金融機関の借り入れに関する経営者保証が不要になる可能性も大きくなります。

・リスクの確認

債務超過にある企業では、金融機関との取引が制限され、追加借入が困難になる可能性があります。また、信用不安によって取引先や従業員に悪影響が出るケースもあります。現実的に債務超過になっている企業には買い手が付きづらいのが実情です。会社の金融機関の借り入れに関する経営者保証は避けづらくなります。

・対応策

債務超過の企業を買収する場合には、財務リストラ(経営者からの貸付に関する債権放棄やDES(デットエクイティスワップ)等)を計画に盛り込めないか、法人譲渡ではなく事業譲渡にするかなども検討が必要です。

2.負債の規模と返済負担

・着眼点

貸借対照表の「短期借入金」「長期借入金」など、有利子負債の総額と返済スケジュールを確認します。金融機関など第三者からの借入金なのか、役員からの借入金なのかは重要なチェック項目になります。また収益に見合った借入かどうかが重要な判断材料です。

・メリットの確認

借入金か大きくても適切に使われていれば、事業拡大のための投資がスムーズに進んでいる健全な企業といえます。設備投資やM&A資金に対して戦略的に借入を活用する企業も多くあります。

・リスクの確認

収益力を超える過剰な借入がある場合、買収後の返済負担が重くのしかかり、資金繰りが悪化するリスクがあります。

・対応策

キャッシュフローと借入残高を見比べ、「何年で返済できるか」の目安を持つことが大切です。必要に応じて借換交渉や条件変更の可否も事前に確認しましょう。役員からの借入金であれば上記の財務リストラも検討できないか確認を行います。

3.運転資金の効率と資金繰り

・着眼点

売掛金・棚卸資産・買掛金のバランスから、運転資金が効率よく回っているかを確認します。在庫過剰や売掛回収遅れがあると、見た目の利益に反して資金繰りが苦しいことも考えられます。

・メリットの確認

在庫回転が早く、売掛回収もスムーズであれば、日々のキャッシュフローにゆとりがあり、健全な資金繰りが実現されている企業です。

・リスクの確認

売掛金が滞留していたり回収条件が支払いに比較して不利になっている、あるいは在庫が多すぎる場合、利益が出ていても資金がショートする可能性があります。

・対応策

売掛回収サイトの長さ、在庫回転率などを分析し、必要なら買収後に運転資金管理の改善計画を立てましょう。

4.資産の中に事業に貢献しないものがないか

・着眼点

貸借対照表上の「資産」の中には、事業に直接関係のない不動産、社用車、社長の個人利用資産などが含まれていることがあります。それらが実際に収益に寄与しているかを精査します。

・リスクの確認

こうした非事業資産は、買収後の維持費(固定資産税やメンテナンス費用)だけがかかり、収益には貢献しないことがあります。帳簿価額と実勢価値に乖離があるケースも要注意です。

・メリットの確認

不要資産を明確に区分し、譲渡契約から除外することで、スリムで効率的な買収が可能になります。

・対応策

資産内容を一つ一つ精査し、「事業に必要な資産かどうか」を判断しましょう。必要に応じて、会社分割・事業譲渡スキームで不要資産を切り離す方法も有効です。

【まとめ】

M&Aにおいて貸借対照表を確認することは、数字の裏にある経営の実態を見抜く作業です。
特に自己資本、借入金、運転資金、資産構成の4点を押さえておくことで、買収後に想定外のリスクに直面する確率を大幅に下げることができます。 「この会社のバランスシートは何を語っているか」 そう問いかけながら、冷静に数字を読み解くことが、M&A成功への第一歩となります

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齊藤肇
専門家

齊藤肇(中小企業診断士、行政書士)

合同会社メイクイットワーク

「よいカタチで会社を譲りたい」との経営者の思いをかなえる事業承継を支援。経営を見える化し、適した手段と無理のない事業承継計画を策定。補助金申請など資金調達支援、後継者育成や相続課題にも対応しています。

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