【事業承継の基本】6.従業員承継の進め方(後継者視点)

中小企業経営者の高齢化が進む中、「後継者がいない」という課題に直面している企業が増えています。特に近年では、経営者の子や親族が必ずしも家業を継ぐ時代ではなくなりつつあり、「親族内承継が難しい」といったケースが一般的になっています。帝国データバンクの「全国「後継者不在率」動向調査(2024年)」でも親族内承継の減少は顕著になっています。
https://www.tdb.co.jp/report/economic/succession2024/
「親族内承継が難しい」場合には、従業員承継が次の選択になってきますが、それも見当たらない「後継者がいない企業」に残された選択肢として、急増しているのが「第三者承継(M&A(企業の合併・買収)」です。今回は、後継者がいない中小企業が事業を継続させるための選択肢として、第三者承継・M&Aの活用について説明します。
【廃業という選択のリスク】
帝国データバンクの調査では、2023年の休廃業・解散件数は59,105件とされていますが、中小企業白書によると、そのうち約半数は黒字のまま廃業しているとしています。
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2024/chusho/b1_3_5.html
「後継者がいないから」という理由で廃業を選ぶ企業が多いのですが、これは社会にとっても企業にとっても、以下のように大きな損失となります。
・長年かけて築いた顧客や取引先との信頼関係が断絶される
・地域など社会の中で果たしてきた役割が欠けてしまう。
・社員の雇用が失われる
・設備やノウハウが引き継がれず消滅する
このような「もったいない廃業」を防ぐ手段として、第三者への承継が大きな注目を集めています。
【第三者承継とは?ー親族・従業員以外への事業引継ぎ】
「第三者承継」とは、親族や従業員以外の外部の人間に事業を引き継ぐ方法です。これには以下のようなパターンがあります。
・M&Aによる他企業への売却
・個人投資家や起業希望者への承継(いわゆる「アントレプレナー型」)
・地域金融機関や専門機関によるマッチングによる承継
これらは従来の親族内承継に比べて「承継候補の幅が広い」「一般的に現預金などを多く得られる」といったメリットがあります。特に、買い手となる企業にとっては、販路や人材、技術を一気に獲得できるという利点があり、事業規模の拡大にもつながります。
【M&Aによる承継の流れとポイント】
M&Aというと「大企業同士の合併」といったイメージを持つ方も多いかもしれませんが、実際には中小企業のM&Aも数多く行われています。
※中小企業におけるM&Aの流れは以下を参照してください。
・売り手視点の進め方
https://mbp-japan.com/kanagawa/makeitwork01/column/5184747/
・買い手視点の進め方
https://mbp-japan.com/kanagawa/makeitwork01/column/5184995/
この一連のプロセスを通じて、企業は「高く売る」だけでなく、「大切にしてきた理念や従業員を守る」ことも目指すことができます。
【どんな企業が売却対象になるのか?】
「うちみたいな小さい会社が売れるはずがない」と考える経営者も多いのですが、実はそうとも限りません。
たとえば、
・地元に根ざした飲食店や工務店
・独自の取引先を持つ卸売業
・特定技術を持つ製造業
・社員が安定して働いている介護施設や建設業
など、「地域密着」「技術特化」「安定経営」といった中小企業は、買い手にとって非常に魅力的な存在となり得ます。
【選択肢を知ることが第一歩】
後継者がいないからといって、すぐに廃業を選ぶのは早計です。現代では第三者承継という選択肢が現実的なものとなっており、専門家や支援機関の力を借りることでスムーズな承継が可能になります。
「会社を誰かに任せたい」「従業員や取引先に迷惑をかけたくない」とお考えの経営者こそ、一度、第三者承継やM&Aの可能性について検討してみてはいかがでしょうか。
【相談先について】
経営者ではたくさんのM&A仲介会社などからアプローチを受けている方も多いと思います。すぐに個別に直接のお話することに抵抗がある場合には、まずは近くにいる専門家(税理士や中小企業診断士)、金融機関などに相談してみることも考えましょう。また各都道府県では事業承継・引継ぎ支援センターを設置しており、さまざまな事業承継の専門家による相談対応や支援を(基本は無料で)行っています。利用することも検討しましょう。



