【M&Aで企業価値を高める方法】1.収益を向上する

親族・従業員・第三者への承継を検討している経営者や後継者にとって、「資金調達」は避けて通れないテーマです。本コラムでは代表的な資金調達の手段とともに、特に金融機関からの融資に焦点を当てて解説し、横浜市が提供する融資制度を例に紹介します。
事業承継における資金調達の代表的な方法
事業承継時には、株式の買取り、事業資産の引き継ぎ、のれん代、設備投資など、さまざまな資金ニーズが生じます。以下は主な資金調達方法です。
1.自己資金の活用
後継者本人の貯蓄を活用する方法です。リスクは少ないものの、大規模な承継には不十分な場合があります。
2. 補助金の活用
事業承継時に発生するM&A仲介、デューデリジェンス、株価算定など専門家費用、設備投資などに関しては、補助金の活用が検討できます。事業承継・M&A補助金が代表的です。ただし株式の買取り、事業資産の引き継ぎなどに直接適用できるものは見当たりません。
3.分割払い・のれん代の活用
親族外承継やM&Aにおいては、株式等の取得代金を数年にわたり分割で支払う方法も使われる方法です。
4.金融機関からの借入
最も一般的かつ資金規模の大きな手段です。近年は、承継支援を目的とした融資商品が充実しており、公的保証制度の利用や、経営者保証のない制度も整備されつつあります。
このほかには直接の資金調達ではありませんが、必要資金を削減する方法として相続や贈与の活用があります。相続、暦年贈与や相続時精算課税、場合によっては事業承継税制など税制優遇を利用して株式や事業用資産を移動することで、必要資金を削減し、同時に相続税や贈与税の負担を抑えることも用いられます。
■ 経営者保証とは何か? そしてその見直しの流れ
中小企業が融資を受ける際、多くの場合「経営者保証」が求められてきました。これは、法人の返済が困難になったときに、経営者本人が連帯保証人として個人で責任を負う制度です。後継者にとっては心理的・金銭的な負担が大きく、承継の障害となることが少なくありません。
こうした背景から、金融庁・中小企業庁は「経営者保証に関するガイドライン」を、2013年12月5日に公表、2014年(平成26年)2月1日から適用が開始しました 。これにより経営者保証に依存しない融資への移行を強く推進しており、一定の財務要件やガバナンス体制を整えた企業に対しては、保証なしでの融資も可能となっています。
その一環として、各自治体や金融機関、信用保証協会でも、保証不要型の承継支援融資が普及してきています。
以下に一例として横浜市の取り組みを紹介します。
■ 横浜市の事業承継融資制度の概要と特徴
横浜市では、地域の中小企業の円滑な事業承継を支援するため、「横浜市中小企業融資制度」の中に【事業承継資金】という枠を設けています。この制度では、事業承継を目的とした資金調達を市が後押しする形で、低利かつ保証料補助付きの融資が提供されています。
<主な概要>
•対象者: 横浜市内で事業を営む中小企業者、または事業を引き継ぐ後継者
•資金使途: 株式取得、設備投資、運転資金など事業承継に関わる費用
•融資額: 2億8,000万円以内
•融資期間: 運転資金10年以内 設備資金15年以内
(据置12か月以内、ただし、融資対象2は据置18か月以内を含む)
•利率: 取扱金融機関の所定利率
詳細は以下を確認ください。
https://www.city.yokohama.lg.jp/business/kigyoshien/yushiseido/yushiseido/yushi.html
この制度の特筆すべき点は、一定の条件を満たせば「経営者保証が不要」となるタイプの融資枠が用意されている点です。
■ 経営者保証不要特別
横浜市の融資制度においても「経営者保証に依存しない融資」の推進がなされており、特定の条件を満たす場合には、後継者が個人で保証人となる必要がないスキームが利用可能です。
【経営者保証不要特別の主な要件】
(1)資産超過であること
(2)EBITDA有利子負債倍率(※)が10倍以内であること
※EBITDA有利子負債倍率 = (借入金 − 現金預金)/(営業利益 + 減価償却費)
(3)法人と経営者の分離がなされていること
(4)返済緩和している借入金がないこと
これにより、保証人なしの融資が可能となり、後継者の不安や資金負担を軽減するだけでなく、円滑かつ計画的な承継が実現しやすくなります。
詳細は以下を確認ください。
https://www.city.yokohama.lg.jp/business/kigyoshien/yushiseido/yushiseido/syoukei-keieisha.html
■ まとめ:早期の計画と制度の活用が鍵
事業承継は「人」と「お金」の問題を同時に乗り越えなければならない複雑なプロセスです。資金調達においては、従来の経営者保証に依存しない新しい融資制度や、地方自治体による手厚い支援策が整備されてきました。
事業承継を検討している経営者や後継者の方は、ぜひ一度、金融機関や専門家と相談しながら、こうした公的支援制度の活用を視野に入れて計画を立ててみてはいかがでしょうか。



