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事業や法人の売買によって「資産」や「負債」を再構成することにより財務体質を改善し、企業価値を大きく向上させることが可能です。
今回は、この代表的な6つの方法と、それぞれの実際の企業事例をご紹介します。
1.不採算事業の切り離しを行う
【概要】
企業は多くの事業を展開している中で、すべての事業が同じように成長し、利益を生むとは限りません。収益性の低い事業を継続することは、経営資源(人材・資金・時間など)の分散を招き、全体の効率を下げてしまいます。M&Aにより、こうした「不採算事業」を他社に譲渡・売却することで、経営資源を収益性の高い中核事業へ集中させることが可能になります。これにより、企業全体の採算性と資本効率が改善し、結果として企業価値の向上につながります。
【事例】日立製作所 × コニカミノルタ
日立製作所は、2018年に画像診断装置事業をコニカミノルタに売却。この事業は収益性が低く、成長も鈍化していたため、日立は選択と集中を進め、成長分野であるITや社会インフラに注力。結果として企業価値向上に寄与した。
2.財務体質の改善(負債の圧縮)
【概要】
企業が過剰な借入金を抱えている場合、財務リスクが高まり、金融機関からの信頼性や将来的な投資余力にも悪影響を及ぼします。M&Aによって資産の売却や事業再編を行うことで、その資金をもとに負債を削減し、自己資本比率や債務償還能力といった財務指標を改善することが可能です。健全な財務体質は、信用力の向上を通じて取引先や金融機関からの評価を高め、長期的には資金調達コストの低減にもつながります。
【事例】JAL(日本航空)再建時の企業買収・再編
JALは破綻後、産業再生機構の支援で再建が進められ、不採算部門や関係会社の統廃合をM&A形式で実施し、資産売却を進めた。これにより債務圧縮と財務体質の改善が進み、2012年には再上場を果たした。
3.優良資産の取得による成長加速
【概要】
企業が持続的に成長していくためには、競争優位性のある事業や高収益なビジネスモデルを取り込むことが有効です。M&Aを通じて、技術力、ブランド、顧客基盤、人材といった“目に見えにくい資産”を含む優良な企業を取得することで、既存事業とのシナジーが生まれ、自社単独では得られなかった成長を短期間で実現することができます。これは“時間を買う”経営判断とも言え、企業価値の飛躍的な向上に寄与します。
【事例】ソフトバンクグループ × ARM(アーム)買収
ソフトバンクはイギリスの半導体設計大手ARMを約3.3兆円で買収。IoT時代を見据えた戦略的投資であり、高収益かつ成長性の高い資産を取得することで、将来の企業価値を大きく引き上げた。
4. のれんの償却による利益調整と将来負担の軽減
【概要】
企業が他社を買収する際、買収価格が純資産を上回る場合に発生する「のれん(営業権)」は、将来にわたって費用として計上されていきます。こののれんを計画的に償却していくことで、会計上の利益をコントロールしたり、税務上の節税効果を得ることができます。また、初期に積極的に償却することで、将来的な負担を軽減し、安定的な財務運営を実現できます。これは、M&A後の企業価値維持・向上に向けた重要な会計戦略といえます。
【事例】伊藤忠商事 × ファミリーマート完全子会社化
伊藤忠はファミマを完全子会社化した際に発生したのれんを数年間で償却し、長期的には減価償却負担が軽くなることでキャッシュフローが改善。資本効率の向上にもつなげた。
5.グループ内再編による税効果の活用
【概要】
グループ企業が複数存在する場合、それぞれの会社が独立して納税していると、ある会社で生じた赤字(欠損金)を他の黒字会社で相殺できないケースがあります。M&Aやグループ内再編を通じて持株会社体制や完全子会社化を行うことで、税制上の「グループ通算制度」を活用できるようになり、損益の通算や税額控除の適用が可能になります。これにより、グループ全体での税負担を最適化し、キャッシュフローの改善を図る
ことができます。
【事例】トヨタ自動車 × ダイハツの完全子会社化
トヨタはグループ内での業務再編を進め、ダイハツを完全子会社化。グループ全体の損益通算を可能にし、税負担を軽減。軽自動車部門の効率的な資産活用とシナジーも実現した。
6.資産の再評価によるバランスシートの強化
【概要】
企業が保有する資産は、帳簿上の評価額と実際の市場価値が乖離している場合があります。M&Aを契機として資産の再評価を行うことで、これまで簿価に隠れていた含み益を顕在化させ、純資産を増加させることができます。これにより、自己資本比率が高まり、財務健全性が向上することで、外部からの信用も強化されます。また、再評価された資産は、将来的な資金調達や資産流動化の際にも有利に働きます。
【事例】日本郵政 × かんぽ生命・ゆうちょ銀行再編
日本郵政は持株会社として民営化後、グループ再編を進め、かんぽ生命やゆうちょ銀行の保有資産を再評価。IPO(新規上場)を通じて時価評価に近づき、企業価値が市場で正当に評価されるようになった。
まとめ
M&Aは、「他社を買う・売る」という表面的な行為にとどまらず、自社の将来を見据えた戦略的な意思決定のひとつです。とりわけ、資産・負債の見直しを伴うM&Aは、財務体質の改善、経営資源の最適化、税務メリットの享受など、企業価値を高めるための多くの可能性を秘めています。
重要なのは、目先の利益や規模の拡大だけを目的とするのではなく、自社の中長期的な経営方針や成長戦略とどのように整合するかを見極めたうえでM&Aを活用することです。
また、M&Aを進める際には、財務・税務・法務の各専門家と連携し、精緻なデューデリジェンス(調査)とシナリオ設計を行うことが成功のカギとなります。



