【M&Aで企業価値を高める】3.資金調達しレバレッジを利かす

齊藤肇

齊藤肇

テーマ:事業承継


【資金調達しレバレッジを利かすとは】

企業経営者のみならず、その家族、従業員、あるいは個人が資金調達の工夫によってM&Aを行って「事業承継」や「成長戦略」を行って企業価値を高める例が増えています。
その鍵となるのが、「資金調達しレバレッジを利かす」ことです。これは、自己資金だけでなく金融機関等からの借入を活用し、収益を生む企業を買収・保有しながら、その利益を配当などで回収、借入を返済して減らし、最終的に株式という“のこり価値”を得るという考え方です。

【投資としてのM&Aの特徴】

M&Aを投資と考えた場合、土地や金融資産、あるいは上場株式への投資などとは異なる側面を持っています。
土地や金融資産は、それ自体が継続的に収益を生むわけではなく、売却益や利子などが主なリターンとなります。一方、企業は日々の事業活動を通じて自らキャッシュフローを生み出す「収益資産」です。
株式投資という意味では上場株式への投資も考えられますが、基本的にこれは市場の値動きに委ねる受け身の投資です。M&Aでは自ら経営に関与し、戦略や販売、製造、人事、利益処分まで主体的にコントロールできます。金融機関への返済しつつ、最終的には企業の株式を“のこり価値”として手元に残す、というレバレッジの仕組みが活用できる点も、他の投資とは大きく異なる特徴です。
【利益を「配当」で回収、最終的には株式の価値が残る】
企業の利益処分は、株主総会の決議により決めることができます。つまり株式を取得した買収者は、事業の収益から定期的に配当を受け取りつつ、借入金の返済も可能になります。
やがて最も良い状況では借入金の返済は、無くなり株式が“無借金”で手元に残り、以降の利益はすべてオーナーに帰属する形になります。これが「のこり価値」の仕組みであり、レバレッジを利かせるM&Aの考え方です。

【レバレッジを活かすM&Aの考え方】

具体的な考え方を、以下に示します。(実際は金利、税や売買価格の変動などの要素が発生しますが、考え方をシンプルにお伝えするため、以下では考慮していません)
・買収企業 A社(収益 2千万円/年)
・買収価格 2億円(自己資金2千万円、借入金1億8千万円)
→上記を買収し、買収前と同じ収益を10年間継続した場合
・収益のうち1千8百万円を株主配当金とし、全額借入金返済に充てる
→結果として10年後
 金融機関からの借入金は解消し、A社(売却価値 2億円)を負債なしで取得する状況となる

【レバレッジを活用したM&A手法例:バイアウトファンド】

レバレッジを利かせたM&Aには、目的や担い手に応じていくつかの代表的な手法があります。出口として事業売却を行う点が一般の企業経営者の取り組みとは少し違いますが、企業価値を高める手法としてはわかりやすいのでバイアウトファンドの例を記載します。
バイアウトファンドは、投資家から集めた資金をもとに企業を買収し、経営改善・業績向上を通じて企業価値を高めた後、配当や企業の再売却(エグジット)によって利益を得る投資ファンドです。LBO(レバレッジ・バイアウト)と言われる手法を使います。

2.代表的なバイアウトファンド事例:「すかいらーく」再上場(ベインキャピタル)

外食チェーン「すかいらーく」は、2006年に米国の投資ファンド・ベインキャピタルなどにより約3,000億円で買収されました。その後、人員やメニューの見直し、業態転換などの経営改善が行われ、2014年には東証再上場を果たしました。
この間、ファンドは企業からの配当や上場による株式売却で利益を得ており、典型的なレバレッジド・バイアウト(LBO)の成功例とされています。

【中小企業や個人でも実施可能なスキーム】

多くの企業経営者は出口として事業売却ではなく、永続的な企業の成長を目指すことになりますが、「資金調達しレバレッジを利かし、企業価値を高める」という面では、中小企業でもM&A同様の仕組みは可能です。後継者不在の企業に対し、買収を行い、レバレッジを利かせた資金調達を組むことで、経営権を引き継ぎつつ、資本回収も見込めるM&Aを実現できます。
またこのレバレッジを利かした企業買収の考え方は親族内承継や従業員承継でも活用されてきています。以下があります。

1.MBO(マネジメント・バイアウト)

・担い手:経営者またはその親族
・主な目的:親族内での事業承継。経営権の強化、相続に伴う株式分散や遺留分など課題の回避
・特徴:借入を活用して株式を取得し、企業の利益から配当を得ながら返済。最終的に株式が手元に残る。

2.EBO(エンプロイー・バイアウト)

・担い手:従業員
・主な目的:従業員への事業承継。相続遺言での株式移動が難しい従業員への対応
・特徴:MBOと同様の仕組み。従業員が株式を保有し、収益を活用して借入を返済。経営参画と企業価値の享受が可能。

【成功のカギは「収益を生む事業」であること】

レバレッジを利かせたM&Aの前提となるのは、対象企業が安定した利益・キャッシュフローを生み出していることです。これがなければ配当による回収も返済も成立せず、レバレッジはリスクに転じます。
そのため、以下のようなチェックが重要です。
・継続的に黒字を出せているか
・経営者が代わっても同様の事業が再現できるか
・顧客基盤や競争力に強みがあるか

【まとめ】

資金調達のレバレッジを利かしたM&Aは“借りて、稼いで、返して、残す”手法です。
M&Aによる企業買収は、単なる事業承継や経営権取得ではなく、「収益を生む資産への投資」という側面を持ちます。
借入によるレバレッジをうまく使えば、自己資金の何倍もの企業を取得し、利益から投資を回収しながら、最終的に株式という“のこり価値”を手にすることができます
これは、第三者承継だけでなく、親族承継(MBO)や従業員承継(EBO)にも通じる考え方です。承継の方法が違っても、「収益によってレバレッジを返済し、価値を得る」という基本構造は共通しています。

将来のために事業を「買う」「引き継ぐ」選択を考えている方にとって、レバレッジを利かせたM&Aは、きわめて有効かつ実践的な戦略となります。

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齊藤肇
専門家

齊藤肇(中小企業診断士、行政書士)

合同会社メイクイットワーク

「よいカタチで会社を譲りたい」との経営者の思いをかなえる事業承継を支援。経営を見える化し、適した手段と無理のない事業承継計画を策定。補助金申請など資金調達支援、後継者育成や相続課題にも対応しています。

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