【M&Aで企業価値を高める】2.事業の再現性を高める

齊藤肇

齊藤肇

テーマ:事業承継


M&Aによって事業を成長・拡大させることを目指す企業にとって、「企業価値をどう高めるか」は極めて重要なテーマです。業績が良い、商品に魅力があるといった要素も大切ですが、M&Aの買い手企業が本当に重視するのは、その事業が将来にわたって安定して収益を生み続けられるかどうかという点です。仮に現社長のカリスマ性や個人的な人脈に依存して利益を出している場合、その仕組みが引き継げなければ、買い手にとっての「価値」は大きく下がってしまいます。
つまり、事業の「再現性」が高いかどうかです。これは、経営者が代わったとしても、地域や担当者が変わっても、同じように事業が機能し、利益を出し続けられる仕組みがあるかということを意味します。この再現性の高さこそが、M&Aにおける企業価値を大きく左右します
M&Aでは再現性が高い事業は、マルチプルの形でその売買価格に表れます。例えばM&A売買の目安となる計算方法にEBITDA倍率法があります。この計算は以下で行われます。
(年間営業利益+年間減価償却費)×マルチプル(3~9年)
再現性が高い事業は、このマルチプルを高くすることができます
さらに、M&Aは再現性を「評価されるため」だけでなく、自社に再現性を備える手段として活用できるという視点も重要です。
ここでは、M&Aを通じて再現性のある企業を築いていくための6つの視点をご紹介します。

1.【業務の仕組み化】

M&Aによってオペレーションの質と効率を一気に高める
業務が個人の経験や勘に依存していると、担当者が交代するたびに業績が不安定になる恐れがあります。そこで、すでに業務の標準化やマニュアル整備が進んでいる企業をM&Aで取り込むことにより、自社内の属人性を大きく減らすことができます。
たとえば、効率的な業務プロセスを持つ企業を傘下に入れ、そのノウハウやITツールをグループ全体で活用することで、誰が担当しても同等の品質と成果を生み出せる体制を構築できるようになります。
こうした仕組みの整備は、企業としての安定性と持続性を強く後押ししてくれます。

2.【顧客基盤の安定化と分散】

地域・業種を広げることで収益の偏りを減らす
売上が特定の顧客や地域に集中している企業は、どうしても景気変動や取引終了といったリスクに晒されやすくなります。M&Aを活用すれば、異なる地域や顧客層を持つ企業を取り込むことで、販売先の分散や売上構成の安定化を図ることができます。
たとえば、名古屋を中心に展開している企業が、東京の事業者を買収することで、首都圏の新たな市場を獲得し、顧客層や販売チャネルが一気に広がります。
このような地域・顧客の多様化は、収益の安定性を高めると同時に、どの地域でも同様に成果を上げられる事業の仕組みづくりとなります。

3.【人材・組織体制の強化】

組織力のある企業を取り込むことで、チーム運営に厚みを持たせる
人材の育成や組織体制の強化は、自社内だけで構築するには時間がかかります。
M&Aでは、すでに教育制度や評価制度、組織運営が成熟している企業を迎え入れることで、人材の厚みを加えることができます。
特に、中堅層や専門職がバランスよく揃った企業との統合は、事業運営を個人の力に頼らない「チームで回せる体制」への転換を促します。このような人材基盤の補強は、将来にわたって安定したサービス提供を実現する重要な土台となります。

4.【収益モデルの持続性強化】

継続的な利益を生む仕組みを取り込み、全体の収益性を高める
一時的な売上ではなく、将来にわたって安定的に利益を生み出せる構造を持つことは、企業の価値を大きく左右します。
特に、1億円以上の営業利益を継続的に計上できる企業は、M&A業界では魅力を飛躍させる投資対象とされています。
M&Aでは、定期課金モデルや保守契約など、ストック型収益構造をもつ企業を取り込むことで、グループ全体としての収益の持続性を高めることができます。利益の波が小さくなればなるほど、事業運営の見通しは明確になり、企業としての信用や評価も安定していきます。

5.【外部ネットワークの安定確保】

信頼ある仕入先・販売チャネルを自社に加える
取引先や外注先との関係性が経営者個人のつながりに依存していると、M&A後の運営に不安が残ります。一方、長年にわたって安定した取引を続けている企業をM&Aで迎えることで、その信頼関係と取引体制をそのまま自社の資産として取り込むことが可能になります。
こうしたパートナーとのネットワークが新たに加わることで、経営者が変わっても事業が円滑に回る体制が築かれ、対外的な信用も一段と高まります

6.【知的資産・ブランドの蓄積】

無形の強みを活用し、事業を他地域でも再現可能に
ブランド力やノウハウ、顧客情報といった無形資産は、事業の競争力を支える大きな柱です。M&Aでは、こうした知的資産を豊富に持つ企業を取り込むことで、自社の価値を短期間で高めることができます。
たとえば、高い顧客満足度と支持を得ているサービスブランドを取得し、その接客手法や営業スキームを他の地域や事業所にも展開することで、元々自社が持っていた商品力の高さに加えどこでも同様のサービス品質を提供できる体制が整います
こうした取り組みは、企業としての一貫性やブランド価値の維持にもつながります。

M&Aは「価値を受け継ぐ」だけでなく、「価値を創る」手段です
M&Aというと、かつては“事業承継”や“出口戦略”の文脈で語られることが多くありました。しかし今や、M&Aは自社に再現性を備え、企業価値を高めていくための積極的な成長手段として、多くの企業に活用されています
業務の仕組み、顧客の分散、収益の安定、人材の層、ブランドの展開など、これらは、時間をかけて自社で築くこともできますが、M&Aという選択を通じて、短期間で一気に整えることも可能です。
「もっと強い企業になりたい」 「持続可能な価値をつくりたい」 そう考える経営者の方にとって、M&Aは新たな成長と再現性の創出を実現する、非常に有効な選択肢となります

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齊藤肇
専門家

齊藤肇(中小企業診断士、行政書士)

合同会社メイクイットワーク

「よいカタチで会社を譲りたい」との経営者の思いをかなえる事業承継を支援。経営を見える化し、適した手段と無理のない事業承継計画を策定。補助金申請など資金調達支援、後継者育成や相続課題にも対応しています。

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