【事業承継の基本】3.親族間承継の進め方(現経営者視点)
事業承継を親族内から受けることは、自らがビジネスをリードする人生をおくりたいと考えている人にとっては大きなアドバンテージをもたらし得ます。一般的な事業承継での後継者が受けるメリットは「【事業承継の基本】1.事業承継のメリット―後継者視点」で記載していますが、特に親族間では以下の優位性があります。
・事業内容(ブランド・商品・サービス)に対するしての信憑性が高められる
よく「先祖代々提供してきた」事業などという表現がありますが、これは顧客目線で見た場合、とても安心できるものになります。顧客の側でも先祖がファンであった可能性もあり信頼感は高まります。事業を引き継ぐこと自体がそのブランド価値を高めるとも言えます。
その他にも、以下のメリットがあります。
・金融機関/取引先/従業員など関係者の協力は最も得やすい
・株や事業用資産の取得に相続・贈与などが使えるため、後継者側の資金準備が抑えられやすい。
・現経営者からの知識やノウハウの移転に時間が掛けられる。あるいは既に知識移転が進んでいる
以下に親族間の事業承継に関する後継者側の進め方を記載します。
【後継者側の進め方】
1.後継者の候補として現経営者から指名を受ける
後継者の指名をうける時点が事業承継の始まりになります。近年では親子間であっても現経営者から子息に後継者となることの提案をしていないことが増えてきています。上記のように親族から事業承継を受けることは大きなアドバンテージをもたらします。子息でなくても親族内の事業承継検討が必要と思われる経営者がいるのであれば、後継者候補側から現経営者に事業承継の提案をしてみるのも一つの案と考えます。
2.事業承継の見える化を現経営者と共に行う
事業内容や関係先、財務状況、人事状況など経営に関しては現経営者が基本的には把握していますが、視点の違う後継者が自分の考えで現在の事業内容や強み・弱み・機会・脅威などを整理することは重要になります。現経営者と後継者が「事業承継の見える化」を一緒になって行うことが事業承継の第一歩になります。
3.事業承継後のビジョンを明確にする
まず、事業承継後のビジョンを明確にすることが重要です。その時々の社会環境や顧客ニーズは変わっています。親族内での承継とはいえ、単なる世代交代ではなく企業の成長と存続を見据えた計画が求められます。事業承継後のビジョンを実現するのは後継者になります。この際に現経営者の考えを踏まえることで社内外の関係者の理解を得やすくなります。また後継者が複数となるケースもあります。この際は役割決めを行って進めます。
4.業務経験を積む
業務経験の提供や研修を通じて、必要なスキルと知識を習得します。業務経験では事業の中心となる業務だけでなく、顧客との関係づくりを行う営業、取引先との関係づくりを行う購買、金融機関との関係づくりや金の流れを把握できる会計、人事などを把握できる総務など、必要な業務を会社の事業内容などを踏まえキャリアを積んだうえで、経営者の片腕として経営者自身からその知見を体験し学ぶことをお勧めします。
5.経営者と必要な知識習得
経営管理や生産管理、販売管理、会計、人事、コミュニケーション、IT、WEBなどは会社内で基礎知識を得られない場合も多く、研修を受けることをお勧めします。中小企業大学校などが行っている「後継者塾」などを受けるのも一つの方法です。当社ではより身近な題材で学ぶことにより、知識を得やすくするため「自社を題材にした個別後継者教育」も行っています。
6.親族への説明と理解獲得
事業承継を円滑に行い、その後の事業を成功させるためには親族の協力は不可欠
です。そのためには親族への説明と理解を獲得することが必要となります。基本的に理解獲得は現経営者がリードしますが、後継者自身も事業をつなぐことへの決意を示すとともに、他の親族への思いやりを示すことは重要になります。必要によっては親族と役割分担したり、雇用を行うなども検討しましょう。
7.株式、会社及び個人資産の移転を受ける
株式や会社の事業用資産を贈与や相続、売買を通じた移転を受けます。基本的に移転をリードするのは現経営者となりますが、近年では贈与や相続に関する制限に関するわずらわしさを回避するため「マネージメント・バイ・アウト(MBO)」を使用する例も多くなっています。この際には後継者側が別会社を作って、金融機関などから資金を調達し現在の会社の株式を買収する形となります。
8.現経営者とともにステークホルダーへの説明
社員、取引先、金融機関などに事業をつなぐことを示し、事業承継後のビジョンを説明します。これにより事業継続による信頼を確保し、引き続きの協力依頼を行います。
9.承継後の事業開始
新しいビジョンによって後継者がリーダーシップを持って事業を開始します。必要に応じて現経営者のサポートを得て、円滑に経営に進められるようにします。
私のご支援先で、ニッチな技術力があり堅実な業績を上げているものづくり会社の社長さんがいらっしゃいます。社長さんからご子息に事業承継の話を全く持ちかけておらず、ご子息は都内のメーカーに勤務されていました。このご子息側から数年前に会社を引き継ぎたいとの申し出があり、社長さんは大変喜ばれて現在事業承継を進めておられます。
親族間の事業承継は前述した少子高齢化による親族内での後継者候補の減少や個人の意志を尊重するなど価値観の変化、親子関係の変化などの他、感情的な対立があるケースもあり、実施を難しくしていると考えられます。しかし後継者となる可能性を持っている人が、それを活用検討することは、その後の人生を大きく変えられる選択肢を持てることになります。一度ご検討されることをお勧めします。