高齢者の入居を断ることは正しい運営なのか? ――「長く住んでもらえる喜び」と「大家としての覚悟」

相澤和久

相澤和久

テーマ:大家さん


こんにちは。行政書士の相澤和久です。
私は不動産会社で働きながら、行政書士として相続や不動産に関するご相談を受けています。
そして、自分自身も区分マンションを所有する“弱小大家”の一人でもあります。

賃貸経営の現場では、「高齢者の入居はリスクが高い」と語られる場面が少なくありません。
体調の急変、孤独死、相続のトラブル……。だから、できれば若い人に住んでもらいたい。
そう感じている大家さんも多いのではないでしょうか。

でも、私は声を大にして言いたいのです。
高齢者だからといって、機械的に「お断り」してしまうのは、あまりにもったいない。
そして、受け入れるのであれば、それなりの“覚悟”と“備え”が必要だということも。

「長く住んでもらえる」という価値

高齢者の入居は、長期入居につながりやすい傾向があります。

私が所有する区分マンションでも、若い単身者の入居があった一方で、高齢の単身女性が入居されたことがありました。
その方は部屋をとても気に入り、「ここが終の棲家になるかも」とおっしゃってくださいました。

結果的に、若い方よりも長く住み続けていただいています。
若い人は転勤や結婚、転職などで環境が変わりやすいもの。
一方で、高齢者の生活は比較的安定しており、本人が快適に感じていれば、物件を移る理由がないのです。

もちろん、高齢者を受け入れるからといって、すぐに利回りが上がるわけではありません。
でも、大家業というのは、「人の暮らしを預かる仕事」でもあります。
その視点に立てば、“長く住んでもらえる”というのは、数字以上にありがたいことだと私は思うのです。

覚悟と備えが、受け入れのカギ

とはいえ、高齢者の入居を受け入れるには、それなりの準備と覚悟が必要です。

特に重要なのが、「退去=相続」になる可能性を想定しておくこと。
もし入居者が室内で亡くなられた場合、

  • 原状回復を誰が行うのか
  • 相続人とどう交渉するのか
  • 残置物は誰が片づけるのか

こうした問題に直面します。

事前に契約内容で取り決めておく、緊急時の連絡体制を整えておく、こうした備えがあるかどうかで、大家の負担は大きく変わります。

高齢者入居の3つの視点|入口・居住中・出口

① 入り口(契約・審査)

まず確認したいのは、身元引受人の有無。
これは連帯保証人とは異なり、生活支援や連絡調整などを行ってくれる人のことです。

家賃保証会社の利用だけではカバーできない部分があるため、身元引受人がいない場合は、緊急時の対応が難しくなることも。

加えて、継続的な収入があるか、家賃を無理なく支払えるかを確認することも大切です。
高齢者は、年金のほかに私的年金や貯蓄を活用している方も多く、可処分所得は意外と高いこともあります。

年齢だけで判断せず、「この人なら安心して貸せるか?」という視点で冷静に審査する姿勢が求められます。

② 入居中(日常対応)

高齢者に限らず、入居後の対応は「信頼関係」がすべてです。
日々のやり取りが少ない中でも、ちょっとした気配りや確認を大切にしたいものです。

例えば:

  • 更新時に本人の体調や生活状況に変化がないかさりげなく聞く
  • 緊急連絡先が変わっていないか確認する
  • 更新の際は、電話をつないで緊急連絡先に報告する

また、緊急時駆けつけサービス見守りシステムの導入も一つの手段です。
月額1,000円〜2,000円ほどで、電気使用量の異変や特定の電球の消灯などから異常を察知する仕組みもあります。

それらの仕組みを「安心材料」として入居者に提案するのも、大家としてのやさしさのひとつです。

③ 出口(退去・相続)

高齢者が退去する場合、相続が関係してくるケースが少なくありません。
そのため、契約終了・原状回復・残置物処理といった流れを、あらかじめ整理しておくことが大切です。

特に有効なのが、死後事務委任契約任意後見契約の活用です。
これらは、相続人がすぐに動けない・分からない場合でも、葬儀や家財の処分などの事務手続きを専門家が担ってくれる仕組みです。

もちろん、すべての入居者に求めるものではありません。
ですが、相続を想定して事前に備えるという姿勢を持つことが、トラブル回避につながります。

このような契約は、大家や管理会社が担うべきものではないため、行政書士などの専門家に相談し、必要な情報提供をしておくことをおすすめします。

「覚悟を持った経営」が選ばれる時代へ

高齢者の入居を受け入れるということは、ある意味で**「覚悟を持った経営」**です。
何かあったらどうしよう……と不安を抱えながらも、

  • 空室率を下げ
  • 地域に貢献し
  • 入居者と信頼を築く


そうした大家こそ、これからの時代に求められる存在だと、私は思っています。

数字だけを追い求めるよりも、「ここに住んでよかった」と言ってもらえる部屋づくりをしたい。
終の棲家に選ばれることは、大家にとって誇るべきことではないでしょうか。

まとめ|「断る」のではなく「備える」大家へ

高齢者の入居をどう考えるかは、大家としての姿勢が問われるテーマです。

  • リスクを「知らない」から断るのではなく
  • リスクを「理解し、備えた上で受け入れる」

それが、私の考える“筋を通した賃貸経営”です。
何かあったとき、慌てないように。
困ったとき、頼られるように。

「断る」のではなく、「備える」。
この発想が、これからの大家のスタンダードになっていくと信じています。

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相澤和久
専門家

相澤和久(行政書士)

行政書士相澤和久事務所

不動産売買やファイナンシャルプランナーの豊富な知見を活用し、資産管理と遺言書作成などの相続対策から、遺言執行、不動産の売買までトータルにサポート。ライフサイクルに合わせた人生設計を後押しします

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