空室が長引いたとき、まず見に行く ―売り場を整えない人に、お客は来ない―
こんにちは。行政書士の相澤和久です。
私は不動産会社に勤める傍ら、兼業で行政書士をして、自分でも小さな物件を所有している、“弱小大家”でもあります。
「何もしない大家さん」は、本当に理想か?
最近では、大家業を「仕組化」「外注」「自動化」といった言葉で語られることも多くなってきました。
管理会社にすべてを任せ、大家自身は手間をかけずに収益だけを得る。
これもひとつの理想形として紹介される場面もあります。
たしかに、合理的な考え方だと思います。
年齢を重ねると、現場に出るのが億劫になるのは当然のこと。外部の力を借りるのは、立派な経営判断です。
ただ、ふと思うのです。
「何もしない大家さん」は、本当に経営者といえるのでしょうか?
今日のテーマは、そんな素朴な疑問から始まります。
任せることと、関心を失うことは違う
所有戸数が増えてくると、すべてを自分でこなすのは現実的ではありません。
だからこそ、管理会社というパートナーがいてくれるわけです。
ただ、気をつけたいのは、「任せる」がいつの間にか「関わらなくなる」に変わっていないかということ。
たとえば、ある日こんな連絡が来ることがあります。
「203号室の田中さんから“エアコンから水が漏れる”と言われたので修理しました。費用は2万円で、今月の賃料から差し引いてあります」
こうした連絡に、「ああ、大ごとにならずに済んでよかった」と安心して終わってしまう——
そんな経験は、私にもあります。
でも実は、そこにこそ経営判断のヒントが隠れているのではないかと思うのです。
クレームの裏にある“判断のきっかけ”
2万円という金額を見て「軽微な修理かな」と感じるかもしれませんが、それが出張費程度で済んでいたとしたら、応急処置で終わってしまった可能性もあります。
水漏れの原因はさまざまです。
- ドレン管や排水口の詰まり
- 排水ホースの脱落
- 勾配の不具合や逆勾配
- フィルターの汚れ
- 配管内の結露 など
仮にフィルターの清掃不足が原因だったとしたら、入居者へのアナウンスで解決できたかもしれません。
逆に、設備や施工の問題なら、こちらがしっかり対応すべき内容になります。
つまり、原因によって「誰が負担するべきだったのか」も変わるのです。
こういった判断も、大家自身が関心を持たなければ、すべて管理会社任せになってしまいます。
「現場の声」は、どこに集まっているか?
実はこうした小さな事例こそが、大家業の宝の山だと思っています。
- どんなときにクレームが出るのか
- どんな入居者は我慢し、どんな人が離れていくのか
- 退去理由の裏にある、本当の理由とは?
その答えを持っているのは誰か。
——管理会社です。
なぜなら、動いた人に情報は集まるからです。
そして、すべてを任せきってしまえば、その知見や気づきは大家に届くことなく、時間とともに失われていきます。
「顔の見える大家」になる工夫
とはいえ、「入居者と関わりましょう」と言われても、ハードルが高く感じられるかもしれません。
でも、そんなに大げさなことをする必要はないんです。
たとえば:
- 更新時の書類に、簡単なアンケート用紙を1枚入れてみる
- 退去立ち合いに同席して、ひとこと「住み心地はいかがでしたか?」と聞いてみる
そんなちょっとした関わりの積み重ねが、管理会社の姿勢を変え、入居者の感じ方を変えていきます。
「回す経営」から「息づく経営」へ
「何もしなくても回る」ことが、必ずしも大家業のゴールではないと思っています。
むしろ何もしない状態が続けば、いつしか誰にも頼られない存在になってしまう。
管理会社からも、入居者からも、場合によっては家族からも。
経営とは、最後の判断を引き受けることでもあります。
その役割を放棄してしまえば、大家業は単なる投資物件の所有にとどまってしまうかもしれません。
経営に「温度」を取り戻す
物件は商品であり、家賃は数字です。
でも、そこに暮らすのは“人”です。
- なぜこの部屋を選んでくれたのか?
- 住んでみて、どこが良かったのか?
- 何が、心に引っかかったのか?
そうした感覚の断片に耳を澄ます姿勢こそが、私は温度のある経営だと思っています。
まとめ:まだ主役であり続けるために
- 情報は、自分の手で取りにいく
- 入居者の声を、管理会社任せにしない
- 経営者としての意思を、日常の中で表す
この3つを意識するだけで、
「何もしない大家」から「関わり続ける大家」へと、少しずつ戻っていけるはずです。
任せること自体は悪いことではありません。
でも、「この物件は自分の顔でもある」という意識を、これからも持ち続けていたいと思うのです。
大家業のこれからに備える—住まいと暮らしを守るために



