空室が続いたとき、どう向き合うか ―自分の信念を貫くという選択―

相澤和久

相澤和久

テーマ:大家さん

こんにちは。行政書士の相澤和久です。

私は不動産会社に勤める傍ら、兼業で行政書士をして、自分でも小さな物件を所有している、“弱小大家”でもあります。

大家業において一番の悩み。
それはやはり「空室」ではないでしょうか。

特に、長く住んでくださっていた入居者が退去したあとの空室は、不安との戦いです。
次もすぐに決まるだろうと思っていたのに、案内は入ってもなかなか申し込みがない。

そんな状況が続くと、気持ちが揺らいでいきます。

なぜ「本当の理由」は見えてこないのか

「家賃が高いのかな?」
——周辺の募集賃料と比べても、そこまで高いわけではない。

「設備が古いのかな?」
——食洗機や浴室乾燥機はないけれど、その分、家賃はしっかり抑えている。

そんなふうに自問自答しながらも、空室が続くと、誰かに相談したくなるものです。

でも、そのアドバイスは実際にはあまり役に立たないことが多い。
なぜなら、そもそも“本当の理由”は誰にもわからないからです。

物件が決まらないと、不動産屋さんに「なぜですか?」と理由を尋ねたくなるかもしれません。

しかし返ってくる答えは、たいてい“後づけ”の推測です。

「家賃が少し高く感じられたかもしれません」
「設備面で気になる方もいるかもしれません」
「日当たりや間取りの印象が…」

けれども、仮にその理由を解消しても、申し込みが入るとは限りません。
結局、別の理由で断られることになります。

それもそのはず。

お客様自身が、自分でも「なぜこの物件を選ばなかったか」を、うまく言語化できていないことがあるからです。

部屋探しは、数字ではなく「感覚」で決まることの方が多いと思っています。

「なんとなく好き」「空気が合う」「ピンときた」。

それが決め手になる一方で、断るときは“何か理由をつけないといけない”から、何かを言っているに過ぎないこともあるのです。

自分の“ものさし”を持つということ

私も以前、空室期間が長引いたことがありました。
4年間住んでくれた入居者が転勤で退去となりました。

内装にはかなりこだわったので、次もすぐに決まると高をくくっていたのですが、想定外の4ヶ月空室。

焦った私は、家賃を1万円下げて募集し直しました。

その後すぐに高齢の単身女性から申し込みが入りました。

「アンティーク家具が合いそうな素敵な部屋。ぜひ住みたい」と。
また、彼女にとっては家賃が“安い”と感じられたようです。

そのとき、私は思いました。

「あと1ヶ月待っていたら、下げずに済んだのでは?」
「そもそも、自分は“この部屋には他にはない価値がある”と信じていたのに、なぜ妥協してしまったのか?」

こだわってつくった“自分らしい空間”だったのに、結局、私は“家賃”という数字で勝負してしまった。

信じきれなかった。
だから悔しかったのです。

その経験をきっかけに、私はこう考えるようになりました。
「信念を持つ」とは、頑固になることではなく、“自分の中にものさしを持つ”ことなのだと。

誰にこの部屋を届けたいのか

どんな暮らしをイメージして整えたのか

自分は、何を強みにしていたのか

この軸がしっかりあれば、少々空室が続いても、自分の判断にブレは生まれません。

美学を貫くことで“選ばれる大家”になる

いまの不動産業界は「高利回り」「費用対効果」など、効率優先の言葉であふれています。

けれど私は、それが全てではないと思っています。

「この大家さんの物件なら、安心できる」
「この部屋、なんか“いい感じ”がする」

そう思ってもらえる大家さんとは、数字の勝負ではなく、自分の信念や美学を貫いている人です。

そして最後に入ってくれるのは、その価値観に共感してくれる人。
そういう入居者さんは、長く丁寧に住んでくれます。

空室が続くと、誰しも焦ります。
でもそんなときこそ、自分の原点に立ち返ってみてください。

「この部屋を、どんな人に届けたかったのか?」
「自分は、どういう大家さんでいたいのか?」

その答えを見失わなければ、いつかきっと、あなたの部屋の価値を“本当に”わかってくれる誰かが現れます。

それこそが、唯一無二の大家業の醍醐味なのではないでしょうか。

大家業のこれからに備える—住まいと暮らしを守るために

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相澤和久
専門家

相澤和久(行政書士)

行政書士相澤和久事務所

不動産売買やファイナンシャルプランナーの豊富な知見を活用し、資産管理と遺言書作成などの相続対策から、遺言執行、不動産の売買までトータルにサポート。ライフサイクルに合わせた人生設計を後押しします

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