中古住宅の値引き交渉のタイミングとは?成功するためのポイントを解説
FP協会主催の無料相談会では、限られた60分という時間の中で相談を終えなければなりません。
また、その後お客様がどのような行動を取ったのか、その結果がどうなったのかを知ることはできません。
つまり、言いっぱなしで終わってしまうのです。
多くの場合、一般的なアドバイスをするだけで終わりますが、中には具体的な相談をされる方もいます。
今回は、特に印象に残った相談についてご紹介します。
この相談は今でも強く記憶に残っています。
どのような行動を取られたのか非常に気になるお客様でした。
しかし、相談後の行動について知ることはできません。
相談の始まり
相談テーマやお客様のプロフィールは事前に把握していました。
○○在住の年配夫婦とその息子さんが、自宅を取り壊して自宅兼賃貸マンションを建てる計画について、第三者の意見を求めているという内容です。
正直、この手の相談は得意ではありません。
多くの場合、建築会社が作成したキャッシュフロー表や想定収支表を見ながら議論することになります。
しかし、それらの数字をいじることにあまり意味を感じないのです。
今回も同じような相談になるだろうと、私は勝手に決めつけていました。
相談当日
ご家族3名が来訪。
息子さんは40歳前後、両親は70〜80代で、まだまだお元気そうな様子でした。
座席は、息子さんが中心、左にお母さん、右にお父さんという配置でした。
「守秘義務がありますので、安心してご相談ください。」
そう伝え、相談が始まりました。
息子さんが話の中心を担い、自宅は○○線○○駅から徒歩3分の平屋建てで、老朽化と耐震性への不安があることの説明がありました。
そして、両親が安心して暮らせるように建て替えを検討し始めたとのことでした。
最初は大手ハウスメーカーに相談し、5階建てマンションの最上階に両親の住居を設け、それ以外はワンルームタイプという計画でした。
しかし、契約当日にお父さんの気持ちが変わり、収支に不安を感じて契約を見送りました。
その後、息子さんは知り合いの設計事務所に相談し、南欧風デザイナーズマンションを提案されました。
さらに、4階には自分の住居を設け、将来的に賃貸にもできるように設計したとのことでした。
「30年間のキャッシュフロー表も作成してもらいました。これなら借入金も返済できそうです。専門家の視点で問題がないか確認してほしいのです。」
やはり事前の想定どおり、キャッシュフロー表の相談でした。
キャッシュフロー表の落とし穴
キャッシュフロー表は作成者の意図によって大きく内容が変わります。
保険会社のものは支出を多めに見積もり、貯蓄性保険の加入を促します。
一方、不動産会社のものは支出を少なく見積もり、住宅ローン返済を楽に見せる傾向があります。
今回のキャッシュフロー表も、賃料設定が相場より高く、入居率90%が30年続くという非現実的な前提が組まれていました。
明らかに、借入金返済が問題なく見えるよう作られていたのです。
「ところで、なぜ不動産賃貸事業を始めようと思ったのですか? 老後の年金だけでは不安だからですか?」
そう尋ねると、息子さんは「容積率いっぱいに建てないともったいないし、賃貸にすれば実質タダで建て替えられる」と答えました。
これは息子さん自身の考えではなく、ハウスメーカーの営業トークをそのまま信じているようでした。
私はここで、この相談の本質が見えた気がしました。
事前のプロフィールで息子さんがフリーターであることを知っていたため、そこにも違和感を覚えていました。
3つの提案
「私がもしご両親にアドバイスするなら、3つのプランを提示します。」
1.敷地を売って住み替える
老後資金の不安があるなら、購入物件の予算を下げる。
2.建て替えはするが、自宅は別の場所に賃貸で住む
物件を完全に賃貸にし、売却しやすくする。
3.敷地を貸す(借地にする)
先祖代々の土地を守りながら収益を得る。
「そもそも、1億円近い借金を背負って賃貸業を始めることが、ご両親の安心につながるのでしょうか?」
この言葉に、お母さんが初めて口を開きました。
「お父さんは借金したくなくて契約しなかったんだよね。」
お母さんは、お父さんが当時どれほど悩んでいたかを語り始めました。
お父さんは何も言いませんでしたが、きっと大きな借金を背負うことへの不安が強かったのでしょう。
相談の結末
60分はあっという間に過ぎました。
建て替えプランを続行するか白紙に戻すかの結論は出ませんでしたが、そもそもFP協会の無料相談会は結論を出す場ではありません。
キャッシュフロー表の数字を微調整しても、本質的な問題は解決しません。
しかし、この相談を通じて、ご両親にとって本当に安心できる暮らしとは何かを考えるきっかけを提供できたのではないかと思います。