お子さまの歯列矯正治療について
乳歯は自然と脱落します。永久歯の歯列不正や不正咬合を予防する目的で、歯科医師による抜歯が行われることがあります。ここでは、乳歯抜歯のうち、「バランシング乳歯抜歯」を解説します。
乳歯の抜歯については、
- むし歯などによって早期に乳歯を抜くとき
- 適切な時期に左右同時に抜くとき
- かみ合わせの問題で反対側(対合側)の乳歯を抜くとき
の3つの乳歯抜歯があります。とくに、乳歯の抜歯時期について、しばしば歯科医師は悩むことがあります。
英国小児歯科学会(BAPD)の乳歯抜歯ガイドラインから早期の抜歯による永久歯萌出スペース不足とそれに伴う影響を最小限に抑える意思決定の基準について示します。
用語について
コンペンセーティング乳歯抜歯
抜かないといけない乳歯の対合乳歯を同時に抜く考え。かみ合わせの干渉を除去する目的があります。ガイドラインではこの考え方を正当化しづらいとしています。
バランシング乳歯抜歯
抜かないといけない乳歯のちょうど左右反対側の乳歯を同時に抜く考え。これは正中のズレを最小限にすることを目的にしています。当院では「乳歯の左右同時抜歯」と和訳し、実際に行います。
乳歯の発達と役割
1.乳前歯の間隔
永久歯前歯の適切な配列を規定します。
2.霊長空隙/成長空隙
乳歯間に自然に発生する隙間。とくに上の乳側切歯と乳犬歯、下の乳犬歯と第一乳臼歯の間を霊長空隙といいます。
3.近心階段型または近心直線型
上顎第二乳臼歯遠心が下の第二乳臼歯遠心より前に位置しています。
リーウェイスペースに影響を与える因子
混合歯列では永久歯が萌えてくるスペースの確保が大切になってきます。子どもの年齢がまだ適切な乳歯抜歯時期に至っていないときに乳歯が失われると正中がズレてきたり、永久歯が違う位置から萌えてきたりします。乳歯間に存在する適切な空隙をリーウェイスペースといいます。
乳前歯(乳歯番AおよびB)
乳前歯の早期喪失は子どもの見た目に影響を与えます。永久歯の萌出に影響しません。よってバランシング乳歯抜歯は不要です。
乳犬歯(乳歯番C)
乳犬歯は正中に影響します。混合歯列に至った子どもの場合、バランシング乳歯抜歯(左右同時抜歯)を行います。
第一乳臼歯(乳歯番D)
混合歯列に至った子どもの場合、バランシング乳歯抜歯を行います。乳歯の左右同時抜歯により正中のズレや永久歯の偏位を予防できる可能性が高まります。
第二乳臼歯(乳歯番E)
バランシング乳歯抜歯を行う必要はありません。ただし、著しく乳歯の脱落が遅延する場合には後継永久歯の存在があれば抜歯を行います。後継永久歯が先天的にないとき、抜歯以外の選択肢も考慮します。
バランシング乳歯抜歯の制限
乳犬歯と第一乳臼歯を早期に喪失する、または混合歯列期に抜歯するときバランシング乳歯抜歯(乳歯の左右同時抜歯)を実施しなくてもよい状況が3パターンあります。
パターン1:正中にズレがない、霊長空隙/成長空隙が十分確認できる
乳前歯が抜歯された後、萌出された永久歯に正中のズレがないときはバランシング乳歯抜歯を回避できます。
パターン2:正中にズレがあり、霊長空隙/成長空隙を認めない
乳抜歯を行う以前に適切な矯正評価を行うべきです。小児矯正装置による治療が確立されるまで乳歯抜歯は延期します。
パターン3:正中にズレがあり、わずかに霊長空隙/成長空隙を認める
乳歯に動揺がないかどうか慎重に評価し、必要に応じ小児矯正装置による介入できる状況が担保されてから乳歯を抜歯します。
乳歯は天然のスペースメンテナー
乳歯は適切な時期まで保持することが理想です。小児矯正装置によるスペースメイキングは可能ですが、子どもが小児矯正治療に対し協力的であることが求められます。むし歯による乳歯の早期脱落を経験した子どもについては注意が必要です。口腔衛生管理を徹底する必要があります。
Dentistry.co.uk/Hannah Hook
乳歯の抜歯時期