部分矯正の適応とリスク
2022年、私はデジタル矯正の分野でPostgraduate Diploma(PG.Dip.)を取得しました。PG.Dip.とはイギリスやカナダ、オーストラリアなどで授与されています修士論文や卒業研究を省いた卒後教育の修了証書のことです。さて、デジタル矯正の分野についてですが、主としてクリアアライナーを用いた矯正治療について包括的に学べるものとなっています。日本において昨今はマウスピース矯正として知られている矯正装置のことです。
実際には、デジタルを活用した矯正治療はマウスピース矯正に限ったものではありません。今回は当院で使用しているデジタル矯正についてご紹介いたします。
● クリアコレクト
「目立たない装置がほしい!」と強く希望された場合、選択肢のひとつとなるのがマウスピース矯正です。クリアコレクトは2006年アメリカ・テキサス州の矯正歯科医Willis Pumphrey先生によって開発されました。2017年、世界最大のインプラントメーカーの1つであるストローマン社によって運用されることとなり、装置の安定供給と品質管理が高まりました。
ストローマン社は、インプラントに用いている高い安全管理と研究開発技術をクリアコレクトについても応用しており現時点で当院におけるマウスピース矯正の第1選択と考えています。
● インビザライン
1997年に誕生した世界初のマウスピース矯正システムです。当院でも2009年の導入以来多数の臨床例があります。システム導入のハードルも低いため、対応している歯科診療所も県内に多くあり最寄りの歯科診療所で手軽に治療を受けられるのが特徴です。
● インシグニア
2019年、国内承認を受けた新しいマルチブラケットタイプの矯正装置システムです。症例が限られてしまうマウスピース矯正と違い、基幹となるのはマルチブラケットシステムのためほぼ全ての症例に適応できます。マウスピース矯正との最大の違いはより短い治療期間と幅広い症例選択にあります。従来法のマルチブラケットシステムとデジタルを完全に融合させたものと言えるでしょう。
全頭蓋CTデータと口腔内スキャナーを融合させ、的確な診断と高い治療精度が期待できます。
デジタル矯正=マウスピース矯正のことだと思われていますが、マウスピース矯正は矯正装置の一手段に過ぎません。「目立たない装置がいいな」という希望を曲解または歯科医師が拡大解釈し、用いている矯正装置がマウスピース矯正に限定している例も散見されます。全ての人がマウスピース矯正のみで治るということは決してありません。様々な手段を駆使して、歯並びを治したい・きれいにしたいという患者さんのご希望にできるだけ近づける。そのための、デジタル矯正と私は理解しています。