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ゆっくり、はやく、丁寧に

北條智之

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テーマ:剣道

私は社会人になっても、よく叱られてきました。日ごろ温和だと知られていた人が激昂され、周囲が驚いたこともありました。自分に至らないことがあるのは承知しておりますが、やはりお叱りを受けると気落ちします。そんなとき、いつも剣道の稽古をしていたときを思い出すのです。

剣道を小学生の頃に始め、その後私は柔道も始めました。同じ武道でも剣道と柔道では内容が異なり、そのことが後年勉強になりました。剣道については、一番長く続けたこともあって、稽古で習った言葉や立ち振る舞いで記憶に残っていることが多いです。私はスキーも得意としていますがスキーと剣道を並べると「準備が大切」という共通点があります。例えば、剣道は道具がなければ稽古ができないと言っても過言ではありません。レンタルや最低限の道具があれば体験することは可能ですが、サッカーやバスケットボールのようにボール1つあれば…!とはいきません。防具や稽古着、竹刀を揃えようとしたらまとまった出費が必要です。どのスポーツも準備が大切ですが、剣道について言えば、その準備にまつわるハードルはやや高い印象です。

また、武道では段位という技量を評価するシステムがあります。初段からはじまり弐段、参段とステップアップしていきます。そのランク分けが八段まで存在し、全て昇り詰めるとなれば途方もない年限と努力が求められます。面白いことに、剣道の場合は純然たる勝負の強さだけで段位は上がってはいきません。昇段ルールの一つに定められた修練期間を課すというのがあります。仮に八段まで到達したいと考えたら、最低でも20年以上はかかります。そのため、剣道を続けている人間は、1回1回の試合よりも昇段そのものを剣道人生最大の目標としていることが多いのです。勝ち負けの評価が注目される他の競技スポーツと大きく異なる点でしょう。

剣道の稽古中、よく指導された言葉が「ゆっくり、はやく、丁寧に」でした。今もってその真意を理解しているわけではないのですが、心に残っています。よく感じるのが剣道と歯科医療は通じるということです。準備がすごく大切で、それが一番のハードルであることや勝ち負けのように白黒のはっきりすることよりも時間をかけてじっくり評価すること。歯科治療も剣道の技に似ていて、ゆっくりでも、はやくでもいけません。そして、当たり前ですが丁寧であることが求められます。歯科診療所の運営も剣道とこじつけることができます。剣道の団体戦は、それぞれの個人戦の集合体でしかありません。でも、いい流れや悪い流れという言葉があって、個々のスタンドプレーがチームを形作っていきます。歯科診療も、歯科医師だけでなく歯科衛生士や歯科助手、歯科技工士など複数が関わってきますが、お互いに補完しあうようなチームプレーという言い訳は歯科診療においては通用しません。あるとしたら、スタンドプレーからなるチームワークでしょうか。

剣道は決して道場だけで完結するものではないのです。オリンピック競技種目でもある柔道などとは違い、試合の勝ち負け以上に、剣道を通していかに自己を修練できたか、人間性を向上できたかが問われてきます。なぜならば、どんなに試合で勝っても、世間から注目を浴びたり、ましてやそのことで生活の糧を得られるようになることはありません。仕事や学業を通じて実社会に貢献できるようでないとそもそも日々剣道することすら叶わない。日本では剣道の競技人口は増えていると聞きませんが、世界に目を移すとじわじわ増えているのだそうです。他の競技スポーツとは違う魅力が評価されているのだとしたら、私もあらためて剣道の魅力についてじっくりと考えていきたいです。

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北條智之
専門家

北條智之(歯科医師)

北上インプラントデンタルオフィス

インプラント歯科学の権威、ウルリッヒ・ヨース博士の治療法を専門的に学んだ知識と3DCTなど先進設備で、グローバル・スタンダードな治療を心掛けています。

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