特許表示の意味について
こんにちは。弁理士の福島です。
特許庁で公開されている「事例から学ぶ 意匠制度活用ガイド」(6)について、お話したいと思います。
https://www.jpo.go.jp/system/design/gaiyo/info/document/2907_jirei_katsuyou/jirei_katsuyou.pdf
六つ目の事例は、株式会社ワコールさんです。
この会社さんは、「インナーウェアからスポーツウェアまで、高い機能性が求められる衣料品の製造・販売を行って」いる会社さんです。
この記事では、「CW-Xが持つ代表的な機能は、腿の締め付け(緊締)部を適切に配置することで、脚の動きをサポートする機能です。製品の本体部と緊締部の構成が、CW-Xの大きな特徴であるため、デザインの側面から意匠権、構造的な側面から特許権によって保護を図っています。」とあります。
新商品は、新しい機能によって、機能面、構造面での特許権と、デザイン面での意匠権の保護が可能になる場合があります。
特許権でカバー出来ない部分を意匠権でカバーすることで、新商品の模倣を出来るだけ保護することが可能になります。
この記事では、「意匠権については、権利範囲の最大化を狙い、全体意匠のみならず、部分意匠、関連意匠も駆使して、特徴的な緊締部のデザインのバリエーションを保護しています。」とあります。
意匠には、部分意匠制度や関連意匠制度があり、特許には無い保護制度が用意されています。
一見、意匠権の権利範囲が狭いように思うところがありますが、制度の使い方では、特許権よりも広い権利範囲を狙うことが出来ます。
この記事では、「2013年頃のこと、CW-Xに酷似した模倣品が、日本市場に出回るようになりました。模倣品は中国で製造され、複雑な流通経路を経て日本に流入し、国内では主にインターネットを通じて販売されていました。これらの模倣品は、外観は酷似するものの、正規品に期待される機能がないばかりか、素材や縫製が粗悪なものでした。」とあります。
一般的に、模倣品は、正規品よりも品質が悪いことが多いものです。その理由は、模倣者は、正規品の売れ行きに相乗りするかのように、模倣品を市場に出して、売上を取得するというケースが多いからでしょうね。模倣品に品質を求めた場合は、費用対効果が出てこないからです。そういった意味では、模倣品を市場から排除することは、正規品の製造販売者にとって重要事項と言えます。
この記事では、「ワコールでは、意匠権と特許権は補完的な関係にあると考えており、これらをうまく組み合わせた保護(いわゆる「知財権ミックス」)を積極的に検討するようにしています。例えば、実際に発生したCW-Xの模倣品の例では、サポートラインの配置がやや真正品と異なっていたため、特許権侵害の主張は難しかったものの、デザインが酷似していたことから、意匠権侵害を主張し、販売の差止めなどに至ったこともありました。これは正に知財権ミックスが功を奏した事例です。」とあります。
このように、新商品に特許権と意匠権の両方で保護出来れば、このような対応が可能と思います。特許権侵害の場合は、文言(機能)によって、侵害に該当するかどうかの判断が難しいのですが、意匠権侵害の場合は、見た目、図面によって、侵害に該当するかどうかの判断をするため、比較的、スムーズに立証出来るというのも意匠権の特徴と言えます。
模倣品は、特許権で示される機能、品質を満たし難いものですが、特許権よりも、むしろ、意匠権での保護が有効と言えますね。
----アシスタントの質問----
今回のケースは特許権と意匠権、それぞれの権利を組み合わせることによって、それが強みとなり、模倣品排除につながったということで、やはり適切な
知的財産権を取得することが大切だと感じました。
この場合は、特許権と意匠権でしたが、特許権と実用新案権の組み合わせというものもあるのでしょうか。
これから知的財産権を取得しようと考えている企業も多いと思いますが、公的支援などはあるのでしょうか。
----私の回答----
実用新案権の取得は、特許権の取得よりも、比較的ハードルが低いのが一般的です。
特許権の取得は、高い基準で判断される一方で、実用新案は、それほど高い基準で判断されないからです。
これは、逆に言うと、実用新案権は、権利範囲が広く、特許権は、権利範囲が狭い、ということも出来ます。
実務的には、実用新案権は、簡単な構造で取得し、特許権は、高度な構造で取得するという流れになり、
これは、意匠権と同様に、組み合わせて取得することは可能です。
中小企業庁や弁理士会でも、知的財産権取得関連経費として、補助金申請の経費に計上することが可能です。
新しいビジネスを構築する場合は、補助金申請に加えて、知的財産権の取得も視野に入れて頂ければと思います。