モーラナイフを宮村流表の法則で研ぎ直す

宮村和秀

宮村和秀

テーマ:ナイフ

私のお客様の中には、釣り船の船頭さんや山の猟師さんがいらっしゃいます。彼らは日常的にモーラナイフを使用しており、それぞれの仕事や生活に欠かせない道具となっています。船頭さんは魚を締めるために、猟師さんは仕留めた獲物を捌くためにモーラナイフを使います。
そんな猟師のお客様から、以前このような話を聞きました。
「モーラナイフを機械研ぎをする研ぎ屋さんに研いでもらったんや。研ぎ終わったナイフで新聞紙を切ってみると、すっと切れた。研ぎ屋さんも『よー切れるやろ』と言うてた。でもな、実際に獲物を捌こうとしたら、まったく刃が入らへんのや。全然切れんかった。」
この話を聞いたとき、私はすぐにその原因が想像できました。新聞紙を切るのと、獲物を捌くのとでは求められる刃の性質が違います。新聞紙をスパッと切れるようにすることと、肉や筋を確実に捉えて切り進むことは、まったく別の研ぎ方が必要です。そこで、そのナイフを私が研ぎ直すことになりました。
研ぎ直した後、お客様に感想を聞くと、「楽によー切れて助かったわ」と喜んでおられました。つまり、ナイフの性能を最大限に引き出すためには、単に鋭くするだけではなく、用途に適した研ぎ方を施すことが重要なのです。
今回は、モーラナイフを宮村流表の法則を用いて研ぎ直します。これは刃の表側を研いでで研ぎ終える研ぎ方です。特に今回は最もシンプルな方法で裏は研ぎません。使用する砥石も天然仕上げ砥石の浅黄のみです。

研ぐ前の状態を確認する

研ぎ直しを始める前に、ナイフの現在の切れ味を試し切りで確認します。使うのは人参です。
人参に刃を当ててみると、まったく切れません。力を入れて押し込もうとしても、滑るばかりで食い込みません。この状態では魚を締めることも、獲物を捌くことも困難でしょう。

宮村流表の法則で本刃付け

いよいよ研ぎに入ります。今回の研ぎのポイントは「表だけを研ぎ、裏は研がない」こと。つまり、最もシンプルな宮村流表の法則で研ぎ直します。
角度は22.5度。 これは、宮村流において汎用的に用いられる角度であり、切れ味と耐久性のバランスが取れるように設定されています。
砥石にナイフの表を当て、角度を保ちながら慎重に研ぎます。ワンストロークでしっかりと研ぎます。 力加減を適切にコントロールしながら、一回だけ研ぎ直します。
次に再び試し切りを行います。

研ぎ直し後の試し切り

研ぎ上がったモーラナイフで、再び人参を切ります。
今度は、刃がスッと入り、切先でも、真ん中でも、元の部分でも同じようによく切れます。これは、ナイフの刃のどの部分にも均一な本刃付けが出来ている証拠です。つまり、魚を絞めたり、獲物を捌いたりする現場でも、スムーズに作業ができる状態に仕上がったということです。
宮村流表の法則による本刃付けにより、鋭利で強く、長切れする刃を作ることができました。 これによって、ナイフは単に鋭いだけでなく、実際の使用においても高いパフォーマンスを発揮することができます。

刃物は研ぎ直してこそ生きる

どんな刃物でも、使い続ければやがて切れ味が落ちます。それを放置していては、ナイフ本来の性能を発揮できません。しかし、適切に研ぎ直すことで、ナイフの寿命は格段に延びます。
研ぎ直しの方法を誤ると、ナイフは本来の性能を発揮できません。新聞紙を切るだけの刃では、実際の現場では使いものにならないことがあるのです。これは、日常的に刃物を扱う職人や漁師、猟師にとって非常に重要なことです。彼らが求めるのは、「試し切りでの鋭さ」ではなく、「実際に使ったときの切れ味」なのです。
宮村流の研ぎ方は、単に刃を薄くして鋭くするだけでなく、用途に合わせた最適な刃をつけることを目的としています。そのため、今回のように表だけを研ぎ、裏を研がないという方法も、ナイフの特性を活かすための手段の一つなのです。
ナイフは適切に手入れし、研ぎ直すことで、一生物の道具になります。使い捨てるのではなく、大切にメンテナンスすることで、そのナイフは長く信頼できる相棒となるでしょう。

まとめ

今回、モーラナイフを宮村流表の法則で研ぎ直しました。
研ぐ前の状態 → 人参もまともに切れない。
研ぎの方法 → 宮村流表の法則。22.5度の角度で浅黄砥石を使用。
研ぎ直し後 → 切先から元まで均等に切れ、鋭く長持ちする刃が完成。
このように、刃物は研ぎ方次第で性能が大きく変わります。 「新聞紙を切れる刃」と「実際の作業で使える刃」は異なります。重要なのは、使う人にとって最適な刃をつけることです。
私は、これからも大切な刃物を最善の状態に研ぎ直し、お客様に長く愛用していただけるよう努めていきます。

Facebook宮村和秀でモーラナイフの研ぎ直し動画を公開しています。

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宮村和秀
専門家

宮村和秀(刃物研ぎ師)

包丁の宮村

40年の研さんで築き上げ、今なお進歩を続ける独自の刃物研ぎメソッド「宮村流」は機械を使わない完全手研ぎで、刃物の切れ味復活させます。

宮村和秀プロは神戸新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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