信号や
その3
そんなことを繰り返しながら、千キロメートル以上の運転練習をして、私は甲種電気動力車運転免許試験と呼ばれる国家試験を受けた。本番の国家試験では、駅での停車時の衝撃を測定するために、運輸省の試験官が3人乗り込んだ電車に大中小の三つの将棋の駒を床に立てる。大の駒が倒れれば、即不合格で試験終了、また来年となる。
また、停車時には、停止位置との誤差を巻尺で測定したり、スピードメータを隠された状態で、例えば「時速30kmの運転をしてください」との指令が試験官から飛んでくる。自動車の運転免許と違ってかなりの知識と技術が要求される。
私は同期とともにその試験に合格して、約半年の間、実際に電車の運転士をやっていた。
実際に電車運転士の本務に付いた大卒の新入社員は、私たちが最初で最後だったようだ。
以前は、教習所で練習して国家試験までを受けた後、本来の部署に配属される。
それが、今回は実務の運転士が不足する事態になり、新入社員が、次の運転士が誕生するまでの間、実際にお客様を乗せて営業運転をすることになった。
普通であれば、駅の勤務を2~3年経験して車掌になり、早い者でもその車掌を2~3年経験してから運転士になる。
それが、入社半年で運転士になった。
会社史上初のなんとも頼りない電車の運転士が誕生した。