ノートやチラシの裏も?メモ書きのような遺言書の法的有効性
生前にされた「口頭の遺言」や「口約束」は、原則として遺言としての効力は認められません。
口約束自体は法律上まったく無意味というわけではありませんが、相続においては遺言書という厳格な方式に則って意思表示をする必要があるため、口頭で述べる遺言には大きなハードルがあります。確実に意思を反映させたい場合は、生前から適切な法的対策が不可欠です。
生前の口約束は相続で有効になるのか
生前の会話のなかで、「自分が亡くなったら、この家はお前に譲る」「預金は○○に渡してほしい」といった口約束がなされることは珍しくありません。
しかし、相続が始まった段階で、このような口約束がそのまま遺言として認められるかというと、答えは原則としてNOです。
口約束は法的に有効だが「遺言としては無効」
民法では、口約束の法的有効性が明記されています。
民法第522条(契約の成立と方式)
- 契約は、申込みと承諾があれば成立する
- 特別な定めがない限り、書面は不要
契約は当事者の意思表示が合致すれば成立し、必ずしも書面を必要としないとされているのです。
ただし、口頭での遺言は認められていません。その理由について確認していきましょう。
口頭の遺言・口約束が認められない理由
遺言は一般的な契約とは異なり、民法により厳格な方式主義が採られています。
遺言書の3つの形態である「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」のいずれも書面による作成が前提であり、口頭のみの遺言(口約束による遺言)は無効とされる点に十分注意しましょう。
口約束を遺言として実現できる例外的なケース
ただし、次のような事情がそろえば、結果として口約束に近い内容が実現する可能性はあります。
相続人全員が口約束の内容に同意する場合
相続人全員が「被相続人の意思だからこの内容でよい」と合意すれば、口頭での遺言であっても、遺産分割協議によって口約束の内容を実現することが可能です。
口約束の存在を裏付ける強力な証拠がある場合
裏付け証拠の代表的な例として、以下を挙げることができます。
- 録音データ
- メモ・手紙
- 第三者の証言
ただし、これらの証拠の立証ハードルは極めて高いことから、相続人が納得せず争いに発展することも珍しくありません。
生前にできる「口約束」を確実に実現するための対策
口約束を本気で実現したいのであれば、相続開始後に任せるのではなく、生前の対策が不可欠です。
対策① 遺言書を作成する
口約束の内容を遺言書として明文化することで、法的な効力を持たせることができます。
自筆証書遺言の基本要件
- 本文・日付・氏名をすべて自書
- 押印が必要
- 日付は特定可能な形で記載
※形式不備があると無効になるため注意が必要です。
遺留分への配慮も重要
特定の人に偏った遺言内容の場合、他の相続人の遺留分を侵害する可能性があります。遺言書作成時には、遺留分を含めた全体設計が不可欠です。
対策② 死因贈与契約を締結する
死因贈与とは「死亡を原因として財産を譲る」契約で、生前に当事者双方の合意により成立します。
書面で契約を作成するのが一般的であり、遺言に近い効果を持ちます。贈与契約であるため受贈者の承諾が必要です。
口約束による死因贈与に注意
理論上は口頭でも死因贈与は成立し得ますが、証拠がなければ相続人を説得できず、紛争化しやすいため、実務上は必ず書面化すべきです。
口約束を放置すると起こりやすい相続トラブル
口約束をしたあと、遺言書や贈与契約書など正式に文書化しないまま放置しておくと、いざというとき次のようなトラブルが起こりやすくなります。
- 「言った・言わない」の争い
- 特定の相続人だけが主張する不公平感
- 遺産分割協議の長期化
- 調停・訴訟への発展
口約束は、善意から生まれたとしてもトラブルの火種になりやすいのが実情です。
まとめ
生前の口約束は、「契約として成立する余地はあるが、遺言としての効力は原則認められない」という点を押さえておく必要があります。口約束を確実に実現したい場合は、遺言書の作成や死因贈与契約の締結など、法的に有効な形で意思を残すことが不可欠です。
相続は「気持ち」だけでは解決できない分野です。後々の争いを防ぐためにも、早めに専門家へ相談し、適切な形で準備しておくことを強くおすすめします。
当事務所では、遺言書作成・死因贈与契約・相続トラブル対応まで幅広くサポートしておりますので、ぜひ無料相談をご利用ください。



