相続で「通帳を見せない」相続人がいたときの対処法
「自分に万が一のことがあった時、残された家族に迷惑をかけたくない」。
そう考える方にとって、2025年4月1日施行の口座管理法(預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律)は大変役に立つことでしょう。任意ではあるものの、マイナンバーと預貯金口座をあらかじめ紐付けておくことで、相続時や災害時の資金確認の簡略化が期待できるからです。
ここでは、口座管理法の仕組みや手続きフロー、よくある疑問について説明していきます。
【2025年4月】口座管理法のしくみ
口座管理法の正式名称および成り立ちは以下の通りです。
- 正式名称:預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律
- 施行日:2025年4月1日
- 通称:預貯金口座付番制度
- 主体:預貯金者(任意)・金融機関・預金保険機構
- 目的:相続・災害時における口座探索の迅速化、行政効率の向上
本人の“意思”を尊重したマイナンバー活用
付番(紐付け)は強制ではなく任意ですから、将来的な家族の負担が心配なようであれば、自分の意思としてマイナンバーと口座情報を連携させるといいでしょう。同制度は国による個人資産把握を目的としたものではなく、限られた場面においてのみ口座情報を横断的に検索できる仕組みなのです。
口座管理法のしくみを構成する三者とは
- 預貯金者:マイナンバーと口座を登録するか判断
- 金融機関:付番希望を確認・情報を預金保険機構へ通知
- 預金保険機構:複数行に散在する口座情報を集中管理・照会
マイナンバーと口座を紐づける4つのメリット
マイナンバーと預貯金口座を紐づけることで、次のようなメリットを享受することができます。
マイナンバーと口座情報の紐付けによる4つのメリット
マイナンバーと口座情報の紐付けにより、万が一の場面で家族が財産状況を把握しやすくなります。
1.複数口座をまとめて管理
複数の金融機関と取引している場合、いずれか一行で手続きすれば、預金保険機構が他行にもマイナンバー情報を通知します。金融機関ごとに追加申請する手間はありませんので大変便利です。
2.相続人の口座探しを大幅短縮
相続時口座照会を利用すれば、相続人が各金融機関で個別に手続きしなくても残高の有無を把握することが可能です。
【相続時口座照会】
被相続人名義の口座情報を預金保険機構に対して請求できるしくみです。手続きは、被相続人が紐付けを行ったいずれかの金融機関に対して行えば、すべての登録口座情報を入手することができます。
3.災害時でも資金が引き出しやすい
通帳・キャッシュカードを失っても、避難先の金融機関で本人確認およびマイナンバー照会が可能になります。
4.公金給付の手続きが迅速化
給付金申請時に口座情報を再入力する必要がなく、行政側の口座確認も速やかに完了し公金給付が行われます。
【2024年4月】口座登録法のしくみ
口座管理法と混同しやすいですが、別制度として2024年4月に施行された口座登録法があります。正式名称は「公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律」で、金融機関を経由した受付は2025年4月より開始しました。
公金受取口座の登録制度
主に公金給付をスムーズにするための制度で、利用者はマイナンバーに対して、1人につき1つの口座を登録することができます。これにより、給付金を受け取る際の手続きが大幅に簡略化されます。
口座管理法との違い
すでに述べた通り、口座登録法は公金受取口座を任意で登録するもので、マイナンバーと紐付けることによって利便性を高める効果が期待できます。
一方、口座管理法は、口座開設時などを行う際に「口座情報とマイナンバーを紐付けるか金融機関が利用者に確認を行う」ことを義務づけた制度です。ここで紐付けを行うことにより、いざ災害が起こったときや相続が起こり手続きが必要になったときでも、預金保険機構がマイナンバーに紐付けられた口座情報を一括で提供してくれます。
相続時口座照会のステップと手数料
被相続人名義の口座情報を一括で確認できる「相続時口座照会」の手続きや手数料などについて確認していきます。
相続時口座照会の手続き
相続時口座照会の手続きの流れについてみていきましょう。
- 相続人が任意の金融機関窓口で申請
- 金融機関 → 預金保険機構へ照会依頼
- 預金保険機構 → 全国の銀行に横断検索
- 結果を相続人へ郵送通知(国内住所限定)
手数料と手続き期限
- 手数料:1回につき 5,060円(税込) ※照会件数に関係なく一律
- 返金可否:口座が見つからなくても返金なし
- 手続き期限:被相続人死亡後10年以内に行うこと
口座管理法や相続時口座照会に関する疑問
口座管理法や相続時口座照会は2025年4月に開始したばかりで、まだ馴染みがないかもしれません。よくある疑問点に答えていきます。
Q1. マイナンバー登録は強制ですか?
完全任意です。登録しなくても通常取引は可能ですが、口座照会・災害時検索の対象外となります。
Q2. 相続時口座照会で全金融機関を把握できますか?
付番済み口座(マイナンバーと紐付けた口座)だけが検索対象です。登録漏れの可能性がある場合は個別照会が必要です。
Q3. 国が残高を監視するのでは?
付番(マイナンバーとの紐付け)で行政が取得するのは「金融機関名・口座番号等」に限定されており、口座残高や取引履歴は照会されません。
専門家が勧める「事前準備の3ステップ」
当行政書士法人ではさまざまな相続ケースを取り扱ってきましたが、相続手続きを行う相続人の負担を軽減するためにも、ご本人様は以下のような事前準備を行っておくことが大切だと考えています。
付番有無の家族共有
- 登録する/しないを家族で話し合い、意思を共有・記録
口座整理&不要口座の解約
- 休眠口座を減らしておくと照会コスト(5,060円)の削減にも直結
遺言・家族信託と合わせて設計
- 付番しても“分配ルール”までは定まらないため、遺言書・信託契約で受取人や配分方法を可視化
まとめ
口座管理法を活用すると、
- 相続人の口座探索コストを劇的に削減
- 災害時の生活再建資金を迅速に確保
- 公金給付もスムーズ
という3つのメリットが得られます。マイナンバーと口座の紐付けは本人の自由ですが、家族の精神的・金銭的負担を軽くしたいなら、早めの付番+遺言等の総合対策を検討してみましょう。
当行政書士法人では、相続手続き・遺言書案作成・家族信託設計などを網羅し、生前対策から相続対策までワンストップで支援しています。初回相談は無料ですので、準備の第一歩としてぜひお気軽にご相談ください。



