積算と実行予算の違い
環境変化による財務への影響
中小企業は現在、原材料高騰、賃上げ、残業規制という3つの大きな環境変化に直面しています。
内装業の黒字企業の平均を例に見ると、売上高1億8,460万円で経常利益717万円を計上していますが、この利益から法人税納付や借入返済を行うと、実際の手元キャッシュは決して潤沢ではありません。
変動費と人件費がそれぞれ5%上昇すると(ケース1)、経常利益は84.4万円の赤字に転落します。さらに人件費が追加で5%上昇すると(ケース2)、経常利益は274.7万円の赤字まで悪化し、事業活動によるキャッシュの減少に加え、借入返済による資金流出が重なり、極めて深刻な財務状況となります。
環境適応への取り組み
この状況を改善するためには、価格転嫁が不可欠です。ケース2の状況を克服するには、売上を5.4%増加させる必要があります。しかし、値上げ交渉は容易ではありません。
薄利多売戦略も一つの選択肢として考えられますが、現場管理の負担増大、人材確保の困難さ、外注先の手配など、様々な課題があります。特に残業規制が強化される中では、この戦略の実行は極めて困難です。実際、受注優先で利益を軽視する企業の多くが赤字か低収益に陥っているのが現状です。
経営再設計の具体策
工事利益の最大化
見積前の積算最適化、適正価格での見積提示、実行予算の策定、原価管理の徹底が基本となります。これらは当たり前の活動に見えますが、現在の環境下では生存のための必須条件となっています。
顧客構造の見直し
適正な見積価格を受け入れない顧客への依存度を下げ、良質な施工を評価し、適正な対価を支払ってくれる顧客の開拓に注力することが重要です。
重点工事分野の最適化
各企業には、施工技術やマネジメント力、外注先との関係など、特有の強みを活かせる得意分野があります。この分野に経営資源を集中することで、収益性を高めることができます。
施工エリアの最適化
残業規制や割増賃金率の上昇を考慮すると、遠方での工事は採算が取りにくくなっています。近隣地域での元請工事獲得に注力するなど、戦略的なエリア設定が必要です。
働き方改革への対応
現場管理のデジタル化による移動時間の削減、業務効率化と外部リソースの活用、地域内の同業者との協力体制構築、外国人労働者の活用検討など、複合的な対策が必要です。
財務シミュレーションは必須
経営再設計を行う際は、それが財務に与える影響を具体的に試算することが重要です。売上高と利益率の予測、運転資金の必要額、設備投資計画、借入金の返済計画、キャッシュフローの見通しなど、総合的な検討が必要です。
まとめ
厳しい経営環境の中で生き残るためには、自社の特性を十分に理解した上で、実効性のある経営再設計が不可欠です。特に基本的な収益力の強化、顧客との適切な関係構築、効率的な事業運営体制の確立、人材確保・育成の仕組み作り、デジタル化による生産性向上などが重要です。
経営再設計は一度で完了するものではなく、環境の変化に応じて継続的な見直しと修正が必要です。財務面での影響を慎重に検討しながら、持続可能な事業モデルを構築することで、強靭な企業体質を築いていくことができます。