髄膜炎・脳炎の症状-突然の発熱、頭痛、意識障害、けいれんなど
いのうえ内科脳神経クリニックの井上です。
本日は脳腫瘍についてです。
頭痛の基礎知識としての11回目のコラム。
【概要】
頭痛の頻度が増え、その時間が長くなり、やがて嘔吐や視野狭窄などが出れば脳腫瘍かもしれません。
脳腫瘍とはどんな病気か?
その原因や治療法などを紹介します。
脳腫瘍の種類「原発性脳腫瘍」と「転移性腫瘍」
脳腫瘍は、頭蓋骨内にできた腫瘍を総称したものです。
脳腫瘍には2つのタイプがあります。
脳内および脳周辺の組織から腫瘍ができた「原発性脳腫瘍」と、肺などの他の臓器で発症したがんが転移して脳に腫瘍が発生する「転移性脳腫瘍」の2種類があります。脳腫瘍全体の8割強が原発性脳腫瘍です。
日本国内では、人口10万人当たり3.6人の割合で原発性脳腫瘍
日本国内では、人口10万人当たり3.6人の割合で原発性脳腫瘍が発生。
実際の患者数は、10万人当たり10~15人ぐらいと言われています。
転移性脳腫瘍は、肺からの割合が半数と多く、乳がんからの転移が10%程度ということがわかっています。
脳腫瘍を疑う症状について
脳腫瘍は、腫瘍ができた場所によって症状が異なりますが、「頭痛」はすべての脳腫瘍に共通する症状です。
その理由は、頭蓋骨内側にできた脳腫瘍が大きくなるにつれて、頭蓋骨の内側の圧力が増し、脳が圧迫され脳実質がダメージを受けるからです。
頭痛以外には、嘔吐や目がかすむといった症状がよく見られます。
通常、人間の頭蓋骨内圧は睡眠中に高くなる傾向があるため、早朝や起床時に頭痛や嘔吐などの症状が強く出るのが特徴です。
このような症状を、「頭蓋内圧亢進症状」と。
加えて
両目の耳側の視野が欠ける「うっ血乳頭」や、3人に1人が「てんかん発作」を起こすとも。
発作にはさまざまな症状があり、「大発作」は、眼球が瞼に半分かくれるほど上に行ってしまい、体が硬直して意識を失います。
「小発作」は、意識ははっきりしているにもかかわらず、片方の手足が無意識に動いてしまいます。
「精神運動発作」を起こすと、一点を見つめたまま、ぼーっとした状態で反応がなくなります。
この他に、聴力低下や耳鳴り、判断力の低下、人格や性格が変わることもあります。
頭蓋内圧亢進症状とともに、脳腫瘍が発生した場所によって脳の機能が阻害されるためにさまざまな症状が出始めます。
これらの症状は「局所症状」と呼ばれています。
局所症状例は、脳腫瘍のできた場所別に次のようなものがあります。
・頭頂部→感覚障害
・前頭葉→認知症、尿失禁、失語
・視神経→視野、視力障害
・側頭葉→失語
・下垂体→無月経、乳汁分筆、性欲低下、顔貌や体形変化
・後頭葉→視野障害
・小脳→失調歩行
・脳幹→運動麻痺、眼球運動障害
脳腫瘍の原因
脳腫瘍はいくつか種類があるため、現時点では脳腫瘍が発症する原因を特定できるものはわかっていません。
遺伝子の変化や生活習慣が、脳腫瘍の発症や進行に関連していると考えられています。
ただし「転移性脳腫瘍」の場合、他の臓器で発生したがんが、脳に転移したものと考えられています。
このタイプの脳腫瘍は、脳のさまざまな部位に脳腫瘍が発生することが多くなります。
脳腫瘍の治療
脳腫瘍は、増殖速度や広がり方を調べて悪性か良性かを判断し、悪性度のグレード別に治療を行います。
悪性と診断される脳腫瘍は、大脳、小脳、脳幹、脊髄に発生し、増殖速度が速く周囲にしみ出るように広がっていて、正常組織との境界がはっきりしないものです。
増殖速度が遅く、正常組織との境界が明瞭な腫瘍で、脳の附属器官に発生したものは、良性と診断されています。
脳腫瘍は、できた場所が脳の外側か内側か、悪性のグレード別にその呼び名も変わり、治療法が変わっていきます。
主な治療は、手術で腫瘍を除去するのが基本ですが、これに加えて抗がん剤、放射線療法が併用されることもあります。
近年では、免疫療法や陽子線治療、重粒子線治療なども行われるようになっています。
脳腫瘍の分類
グレード別に脳腫瘍を分類すると次のようになります。
【グレード1】
髄膜種
神経鞘腫
非機能性下垂体腺腫
など
いずれも5年生存率は97%以上の良性腫瘍。
【グレード2(この段階から悪性腫瘍と診断されます)】
星細胞腫(アストロサイトーマ)
乏突起神経膠腫(オリゴデンドログリオーマ)
など
腫瘍の成長が遅く、付近の組織内へゆっくりと広がっていく特徴があります。
【グレード3】
退形成性星細胞腫(悪性星細胞腫、高悪性度星細胞腫)
退形成性乏突起神経膠腫
など
腫瘍の成長が早く、付近の組織内に広がる可能性が高いものです。
外科手術と化学療法、放射線療法を併用して治療を行います。
退形成性星細胞腫は、
原発性脳腫瘍の約5%
全ての神経膠腫の15%
をしめます。
悪化すれば膠芽腫になることもあります。
退形成性乏突起神経膠腫は、近年発見率が高くなってきた脳腫瘍です。
40代~50代の前頭葉や側頭葉に発生しやすく、グレード2の乏突起神経膠腫を患った人が7~8年後に発症することがあります。
グレード3の脳腫瘍は、いずれも麻痺症状があるのが特徴です。
【グレード4】
膠芽腫(こうがしゅ)(多形成膠芽腫)
中枢神経系悪性リンパ腫
など
膠芽腫は、原発性脳腫瘍の9%、全神経膠腫の36%を占め、発症部位は前頭葉35.4%、側頭葉24.8%、頭頂葉17.8%、小脳2.2%、脳幹1.4%となっています。
45歳~65歳くらいの男性の大脳半球・前頭葉に多く発生します。
浸潤性が強いため、脳脊髄液にのって、がん細胞が全脊髄へ広がり症状悪化が早い特徴があります。
早いスピードで頭痛、痙攣、認知症、運動麻痺、性格変化などの症状が現れるため、早急な治療が必要です。
5年生存率は10.1%と低くなります。
中枢神経系悪性リンパ腫の5年生存率は42.3%です。
脳腫瘍は早期発見が治癒のポイント
脳腫瘍は、頭痛もちの人でも、吐き気やしびれを伴うなど「いつもと何か違う」と感じた時、すぐに医療機関で検査を受けることで発見できる疾患です。
発症から時間が経過すれば、手術などで一旦は回復しても再発するリスクは高くなりますし、予後のリハビリなど患者本人だけでなく家族の負担が大きくなります。
発症原因も「遺伝子の変異」や「生活習慣」と具体的に特定できる原因はなく、普段の生活で予防することが難しい病気です。
日ごろから生活習慣を整え、定期的に検査を受けることで少しでも脳腫瘍を早期発見することが、この病気の対処法とも言えます。