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「管理職になりたくない」現象の背景と原因分析:日本のビジネス環境における課題と展望 | アックスラーニング

岩崎重国

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テーマ:#経営管理 #組織マネジメント #管理職

近年、日本企業において「管理職になりたくない」と考える社員が増加しています。日本能率協会マネジメントセンターの調査によると、「管理職になりたくない」という一般社員の比率は2018年の72.8%から2023年には77.3%へと4.5ポイント増加しました。また、「新入社員の指導・育成をしても自分の成長を実感しない」と感じる社員も7年連続で増加傾向にあります。この状況に対し、同センターは「管理職になりたくない人の割合は上昇か横ばいになるだろう」と危機感を示しています。

本稿では、管理職になりたくない社員が増加している原因を多角的に分析し、企業や人事部門が取るべき対策について考察します。

1.管理職離れの現状:データが示す深刻な実態

日本能率協会マネジメントセンターの調査結果は、管理職離れの深刻さを浮き彫りにしています。
「管理職になりたくない」一般社員の割合: 2018年の72.8%から2023年には77.3%へと増加
新入社員の指導・育成に対する自己成長感の低下: 2018年から7年連続で増加
管理職の業務量増加: 5割を超える管理職が業務量の増加を実感
これらのデータは、管理職の負担が増加し、やりがいを感じにくい状況が蔓延していることを示唆しています。管理職のなり手不足は、単なる個人のキャリア選択の問題ではなく、組織全体の課題として捉える必要があります。

2. 管理職離れの背景と現状

「管理職になりたくない」という意識が広がる背景には、現代社会における働き方の変化や価値観の多様化があります。従来は出世や昇進が明確なキャリアパスとして認識されていましたが、現在ではワークライフバランスを重視する傾向が強まり、管理職のポジションが必ずしも魅力的に映らなくなっています。

特に若手・中堅社員の間では、管理職に就くことで生じる責任の増大や長時間労働、ストレスの増加などのデメリットが、給与面などのメリットを上回ると考える傾向が強まっています。さらに、リモートワークの普及により、従来型の管理職の役割や存在意義そのものが問われる状況になっています。

❶プレイングマネージャー化による負担増
働き方改革やコンプライアンス強化の波を受け、管理職の業務は高度化・複雑化しています。部下のキャリアプラン支援に加え、創造的な業務に携わる時間が減少し、日々の業務に追われるプレイングマネージャー化が進んでいます。パーソル総合研究所の調査でも、業務量の増加を感じる管理職が5割を超えており、その負担の大きさが窺えます。

❷ロールモデルの不在とキャリアパスの不明確さ
武蔵野大学の宍戸准教授の調査によると、ロールモデルとなる上司の存在は、部下の昇進意欲に大きな影響を与えます。しかし、実際には「変革の推進」といったリーダーシップを発揮する管理職が少なく、部下は将来のキャリアに魅力を感じにくくなっています。また、昇進後のキャリアパスが不明確な場合、管理職になることへのモチベーションは低下します。

❸評価制度への不満と貢献感の欠如
多くの企業では、依然として年功序列型の評価制度が残っており、成果に見合った評価が得られないと感じる社員も少なくありません。特に、若手社員や優秀な人材は、自身の貢献が正当に評価されないことに不満を抱き、管理職を目指す意欲を失う可能性があります。

❹管理職の権限縮小と責任の増大
近年、企業における意思決定プロセスは複雑化し、管理職の権限が縮小する傾向にあります。一方で、コンプライアンス違反やハラスメントなど、管理職が負うべき責任は増大しています。権限がないにも関わらず、責任だけが重くなる状況は、管理職にとって大きなストレスとなり、なりたいと思えない要因となります。

❺周囲との関係性変化への不安
昇進は、周囲の社員との関係性を変える可能性があります。特に、年下の上司や同僚が昇進した場合、妬みや不満が生じ、人間関係が悪化するケースも少なくありません。このような状況を懸念し、昇進をためらう社員も存在します。

3.管理職の負担増加の実態

管理職離れの大きな要因として、管理職の負担増加が挙げられます。パーソル総合研究所の調査によると、業務量の増加を感じる管理職は5割を超えています。特に「働き方改革」の推進に伴い、管理職には以下のような新たな負担が生じています。

・部下の勤怠管理や労働時間の適正化
・コンプライアンスの強化に対応する事務作業
・部下のキャリアプラン支援
・多様な働き方への配慮
・メンタルヘルスケア

こうした負担の増加により、本来管理職が担うべき「創造的業務」や「戦略的思考」に充てる時間が減少し、管理職自身の満足度低下や疲弊につながっています。『罰ゲーム化する管理職』の著者であるパーソル総合研究所の小林祐児上席主任研究員は「管理職の元気のなさや『崩壊』の様子は改善されず、むしろ顕著になっている」と指摘しています。

4.リーダー気質の不足と現代の若手社員

武蔵野大学の宍戸拓人准教授の協力による調査では、「リーダー気質が高い人材」自体が少ないという実態が明らかになりました。「リーダー気質が低い社員」(5段階評価で3未満)が全体の3分の2を占めており、企業は管理職志向の人材の採用自体が難しくなっています。この背景には、以下のような要因が考えられます。

・個人主義的価値観の浸透
・チームより個人の成果を重視する評価制度
・デジタルネイティブ世代の自己完結型の仕事スタイル
・少子化による競争環境の変化
こうした状況下では、「自分はリーダーに向いていないと感じている社員」も昇進に前向きになってもらうための工夫が必要です。

5.ロールモデルの重要性

調査結果から、ロールモデルとなる上司の存在が部下の昇進意欲に大きな影響を与えることが明らかになりました。魅力的な上司と働くことで「あの人のようになりたい」という憧れが生まれ、管理職になることへの動機付けになります。では、どのような上司がロールモデルになり得るのでしょうか。15の異なるリーダーシップ行動が持つ影響を調べた結果、以下の5つの行動がカギとなっていました。

・変革の推進:新しいアイデアを積極的に取り入れ、組織の変革を主導する
・ネットワーキング:部門を超えた人間関係を構築し、情報収集や調整を行う
・ビジョン提示:明確な方向性を示し、部下を鼓舞する
・支援的行動:部下の悩みに寄り添い、必要なサポートを提供する
・育成行動:部下の成長を促す指導や機会提供を行う
これらの行動を実践する上司は、部下からロールモデルとして認識される確率が高く、結果として部下の昇進意欲を高める効果があります。

6.打開策:管理職の業務負担軽減と経営層の役割

こうした課題に対して、どのような対応策が考えられるでしょうか。

▼管理職の業務負担の適正化
調査結果によれば、「上司の業務負担が過剰」である度合いが低いと、部下は昇進への不安が低くなる傾向があります。しかし、ここで留意すべきは、ミドルアップダウンとのバランスです。単に業務量を減らすのではなく、管理職を雑多な日常業務から解放し、リーダーとして価値を生む仕事に集中できる環境を整えることが重要です。

具体的な方策としては:
・管理職の事務作業を軽減するデジタルツールの導入
・適切な権限委譲と分散型リーダーシップの推進
・アドミニストレーターやアシスタントの配置による管理業務のサポート
・管理職の人数と範囲の適正化(スパン・オブ・コントロールの見直し)

▼経営層によるビジョン提示
「管理職になると周囲との関係性が変わる」という不安に対しては、会社全体のビジョンや方針の浸透が効果的です。調査では、会社のビジョンが明確に示されている場合、上司が変革を推進しても部下は昇進への不安が高まらないことが示されています。

経営層に求められる役割は:
・明確な企業ビジョンの策定と浸透
・管理職の役割と価値の再定義
・管理職に対する適切な評価と報酬制度の設計
・管理職の成長をサポートする仕組みづくり

7.これからの時代に必要な管理職育成プログラム

管理職になりたくない症候群を解消し、次世代のリーダーを育成するためには、従来の管理職育成プログラムを見直す必要があります。

❶早期からのリーダーシップ教育、タレントプールの用意
若手社員の段階から、小規模なプロジェクトリーダーなどの経験を通じて、リーダーシップに対するポジティブな経験を積ませることが効果的です。失敗しても安全にフィードバックを得られる環境を整え、徐々にリーダーシップスキルを育成します。

❷段階的な管理職移行プログラム
いきなり管理職になるのではなく、副リーダーやサブマネージャーなど、段階的に責任を増やしていくポジションを設けることで、昇進への心理的ハードルを下げることができます。

❸メンタリングとコーチングの強化
現役の管理職がメンターとなり、将来の管理職候補者をサポートする仕組みを構築します。また、外部コーチングの導入により、管理職の悩みや課題に対する客観的な助言を得られる環境を整えることも効果的です。特に新任管理職に対しては、移行期の不安を軽減するための手厚いサポートが必要です。

❹新しい管理職のあり方の模索
従来型の「指示命令型」管理職だけでなく、「ファシリテーター型」「コーチ型」など、多様な管理職モデルを認める組織文化を醸成することも重要です。特に若手世代は、自律性を重視する傾向があるため、チームの自律性を支援する新しいタイプのリーダーシップが求められています。

❺テクノロジーを活用した管理職支援
AIや各種マネジメントツールを活用して、管理職の日常業務の効率化を図ることも有効です。データ分析による客観的な意思決定支援や、コミュニケーションツールによるリモート環境でのチームマネジメントなど、テクノロジーの活用は管理職の負担軽減に貢献します。

まとめ:
「管理職になりたくない」と感じる社員の増加は、単一の要因ではなく、複数の要素が絡み合った結果です。働き方改革による業務負担の増加、リーダーシップの不足、ロールモデルの欠如、経営層のビジョンの不足など、組織全体での総合的な対策が必要です。具体的には、業務の効率化、教育・研修の充実、フラットな組織構造の推進、経営層による明確なビジョンの共有、ワークライフバランスの推進、テクノロジーの活用、多様性とインクルージョンの推進、経済的インセンティブの見直し、キャリアパスの多様化などが挙げられます。

これらの対策を講じることで、管理職への意欲を高め、組織全体のパフォーマンス向上につなげることが可能です。ビジネスパーソンや人事担当者は、これらの課題を認識し、積極的に改善策を実行することで、持続可能な組織成長を実現することが求められます。特に、経営層のリーダーシップと社員一人ひとりの意識改革が鍵となり、組織全体で「管理職になりたい」と思える環境を整えることが重要です。

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岩崎重国
専門家

岩崎重国(CSコンサルタント)

アックスラーニング株式会社

都内および主要都市の上場企業、外資系企業等から組織開発、CS戦略コンサル、カスハラ対策、サービス調査等の依頼を長年、受けている。この業務経験・実績から、№1を目指す企業の社員研修、組織開発を支援する。

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