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【令和のブラック企業】その実態と退職代行サービス利用データから現代の労働問題の考察する | アックスラーニング

岩崎重国

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テーマ:#労務問題 #新卒採用 #退職代行

近年、「退職代行サービス」という言葉が広く認知されるようになりました。このサービスは、退職を希望する労働者に代わって企業に退職の意思を伝えるもので、直接上司や人事担当者と対面せずに退職手続きを進められることから、一部の労働者に利用されるようになってきています。

株式会社マイナビの調査によると、2024年上半期(1~6月)の間に退職代行サービスを利用して退職した人がいた企業は全体の23.2%にのぼります。この数字は2021年の16.3%から年々増加しており、2022年は19.5%、2023年は19.9%と右肩上がりの状況です。この数字が示すのは、単なる退職方法の多様化ではなく、現代の労働環境における深刻な問題の表れではないでしょうか。本稿では、「退職代行モームリ」の代表取締役・谷本慎二氏の話をもとに、「令和のブラック企業」の実態と、そこから見える労働問題について考察していきます。
元ネタ:https://news.yahoo.co.jp/articles/c91f88b30e6bae2b775abdff7799cda4593ce9ae?page=1

1. 退職代行100回以上の企業も:データが示す深刻な労働問題

退職代行モームリを運営する株式会社アルバトロスによれば、退職代行サービスを利用された企業のうち約1割が、複数回以上利用されているといいます。さらに衝撃的なのは、中には100回以上も利用された企業が存在するという事実です。

「1位の会社は、モームリ創業から3年間で100回以上も利用されています。以前は10日に1回ほどのペースでしたが、最近また依頼者が一気に増えていて、数日に1度は連絡を入れているような状況です」と谷本氏は語ります。さらに「退職代行でこれだけ多いということは、実際の退職者はこの100倍以上はいると考えられる」とも指摘しています。

退職代行サービスの利用は氷山の一角に過ぎず、実際にはそれ以上の退職者が存在していることを考えると、こうした企業の離職率がいかに異常であるかが分かります。常識的に考えて、健全な労働環境が整っている企業であれば、このような数の退職代行サービスが使われることはないでしょう。

2. 「令和のブラック企業」ランキングから見えるもの

「退職代行モームリ」の利用データによれば、最も多く利用された企業は「人材派遣会社」で、以降は「コンビニチェーン」(65回)、別の「人材派遣会社」(57回)、「運送会社」(55回)、「自動車販売会社」(49回)と続きます。

ここで注目すべきは、上位企業の業種と規模です。谷本氏によれば、「40回以上利用された上位10社は、すべて従業員数が1500人を超える大企業」であり、「主にファストフード店や保険会社、家電量販店など、サービス業が目立つ」とのことです。これらの企業では「長時間労働のうえ待遇が悪く、人間関係によるストレスや、キャリアの展望が見えづらい」ことが退職の主な理由と考えられます。さらに「現場の労働環境やハラスメント問題が上層部に報告されない」といった組織の分断も、問題の解決を妨げる要因となっています。

3. 人材派遣業界の構造的問題

特に注目すべきは、人材派遣会社の圧倒的な多さです。ランキング10位以内に4社がランクインし、24回以上使われた上位40社のうち16社は人材派遣会社という驚異的な状況です。

人材派遣会社が多い理由について、谷本氏は「退職時の強引な引き止めがとにかく多いから」と指摘します。実際に、退職代行サービスが企業に連絡した際も、他の業種より相当渋る印象があるといいます。また、「派遣会社と派遣先の板挟み」になる構造的問題もあります。スタッフが退職や労務改善について派遣会社に申し出ても「派遣先と相談してくれ」と言われ、派遣先企業に伝えると「派遣元に言ってくれ」と言われる——このようなたらい回しによって、労働者の正当な要求が聞き入れられないケースが多々あるのです。

さらに、派遣会社にとって「スタッフが働くことで利益を得ている以上、簡単に退職されると売り上げがダイレクトに下がる」という事情があります。これが強引な引き止めの背景にあるのです。

筆者は、人材派遣業務や業務委託をしているテレマーケティング会社の顧問や業務アドバイザーをいくつかしていますが、テレマーケティング会社も人材派遣会社と同様な状況があると思っています。テレマーケティング会社は、業務委託費をクライアント企業から請求し、一席単価×勤務時間を基本として請求する仕組みです。ですので、テレマーケティング会社に所属する正社員やアルバイトスタッフが欠勤等すれば売り上げが下がることになりますので、体調が悪くてもカスハラ対応後にメンタルが崩れていても電話を取らせるような会社もあります。

さらにテレマーケティング会社は人事制度はあると言いますが、結局は業務委託費が固定されているため、能力や成果が高くても昇給の金額や機会が少ない会社が多く、数年先には優秀な方から離職するといったケースもあるようです。

4. パワーバランスの歪みがもたらす悪循環

人材派遣業界における問題の根本には、派遣会社と派遣先企業のパワーバランスの偏りがあります。「依頼者に話を聞くと、派遣元に労務環境の改善を訴えても相手にしてもらえなかったという声が非常に多い」と谷本氏は語ります。派遣会社にとって企業は顧客であり、お得意様です。そのため、スタッフが過酷な労働環境に置かれたり、パワハラやセクハラを強いられたりしても、クレームを言いにくい状況が常態化しています。特に、大規模な人員を雇用する大手企業であればあるほど、この傾向は顕著になります。

派遣会社の社員にとっても、スタッフの退職意向を派遣先企業に伝えることは大きなストレスとなります。「なんで急に辞めるんだ?ふざけるんじゃねえよ」と罵倒されることもあるといいます。この状況が「悪循環極まりない状態」を生み出し、多くの労働者が退職代行サービスに頼らざるを得ない状況を作り出しているのです。

5. 新卒社員の早期退職問題

さらに憂慮すべきは、新卒社員の早期退職の増加です。新年度初日の4月1日には、134人が「モームリ」を利用し、そのうち5件が新卒社員からの依頼でした。さらに2025年卒の新入社員からの依頼は、2日に8件、3日には20件と急増しているといいます。新卒社員が入社直後に退職を決意するという事実は、企業の採用活動や入社前の情報提供、そして入社後の受け入れ体制に大きな問題があることを示しています。

就職活動時の企業説明会や面接では、実際の労働環境や業務内容とはかけ離れた「美しい企業像」だけが提示され、入社後のギャップに耐えられない新卒社員が増えているのではないでしょうか。また、適切な研修や指導体制が整っていないことも、早期離職の原因となっています。

6. ブラック企業の特徴と危険信号

では、いわゆる「ブラック企業」には、どのような特徴があるのでしょうか。退職代行サービスの利用実態から見えてくる「令和のブラック企業」の特徴をまとめてみましょう。

  • 長時間労働と低賃金:過剰な時間外労働が常態化しているにもかかわらず、適切な残業代が支払われない
  • パワーハラスメントの横行:上司や先輩からの精神的・肉体的な嫌がらせが日常的に行われる
  • 強引な引き止め:退職の意思を伝えても、様々な理由をつけて認めない
  • 情報の非対称性:採用時の説明と実際の労働条件・業務内容に大きな乖離がある
  • 現場と上層部の分断:労働環境に関する問題が経営層に届かない組織構造がある
  • キャリアパスの不透明さ:将来のキャリア展望が示されず、成長が実感できない

これらの特徴がある企業は、「令和のブラック企業」として警戒すべきでしょう。特に就職活動中の学生や転職を考えている方は、これらの点に注意して企業研究を行うことが重要です。

7. 人事担当者が考えるべき採用と定着の課題

企業の人事担当者は、退職代行サービスの利用増加という現象から、何を学ぶべきでしょうか。

▼採用における透明性の確保
まず、採用活動においては、業務内容や労働条件、職場環境について正確かつ具体的な情報を提供することが不可欠です。美化された情報だけを提供して人材を集めようとすれば、入社後のギャップから早期離職を招くことになります。実際の業務内容や職場の雰囲気、キャリアパスなどについて、具体的なイメージを持ってもらうための工夫が必要です。例えば、インターンシップや職場見学の充実、現役社員との交流機会の提供などが効果的でしょう。

▼新人教育・フォロー体制の整備
新入社員が孤立せず、安心して仕事に取り組めるような環境づくりも重要です。体系的な研修プログラムの提供、メンター制度の導入、定期的な1on1ミーティングなど、新入社員をサポートする仕組みを整えることが求められます。また、業務の進捗や精神的な負担について定期的にチェックし、問題があれば早期に対応できる体制を作ることも大切です。

▼フィードバック文化の醸成
社員の声を積極的に聞き、問題点を改善していく「フィードバック文化」の醸成も重要です。退職代行サービスが多用される企業の多くは、社員の声が上層部に届かない組織構造を持っています。匿名でも意見を出せる仕組みや、定期的な従業員満足度調査の実施、改善提案制度の充実など、社員の声を経営に反映させる仕組みづくりが必要です。

8. 働く人たちが知っておくべきこと

一方、働く側も自分自身を守るために知っておくべきことがあります。

▼労働者の権利を知る
まず、労働基準法をはじめとする労働関連法規について基本的な知識を持つことが重要です。残業代の請求権、有給休暇の取得権、ハラスメントからの保護など、労働者には様々な権利が法律で保障されています。これらの権利を知っておくことで、不当な扱いを受けた際に適切に対応することができます。

▼退職の自由と手続き
退職は労働者の権利です。民法では、期間の定めのない雇用契約の場合、労働者はいつでも退職の申し入れができ、2週間後には契約が終了すると定められています。企業が「忙しいから」「代わりの人がいないから」などの理由で退職を認めないのは、法的には問題があります。退職は労働者の権利であり、強制的に引き留めることはできません。

退職を考える場合は、就業規則を確認して必要な手続きを把握しておくことが大切です。多くの企業では「退職届」や「退職願」の提出、引継ぎ期間の設定などが定められています。可能であれば、これらの正規の手続きを踏むことが望ましいですが、パワハラなどで直接の対応が難しい場合は、退職代行サービスの利用も選択肢の一つとなります。

▼相談窓口を知っておく
職場で問題が発生した場合の相談窓口を知っておくことも重要です。社内であれば人事部や労働組合、社外であれば労働基準監督署や総合労働相談コーナー、弁護士会の労働問題相談などが利用できます。

また、近年は「ブラック企業被害対策弁護団」などの団体も活動しており、専門的な支援を受けることができます。一人で抱え込まず、適切な相談先に助けを求めることが問題解決の第一歩です。

▼自己防衛としての記録
職場でのハラスメントや違法な労働条件に直面した場合、証拠として記録を残しておくことが有効です。業務指示のメールや残業時間、ハラスメント行為の日時・内容・目撃者などを日記のように記録しておくと、後の交渉や訴訟の際に役立ちます。

録音については、法的なグレーゾーンもあるため注意が必要ですが、自分が参加している会話を録音すること自体は違法ではないとされています。ただし、利用方法によっては問題が生じる可能性もあるため、専門家に相談することをお勧めします。

9. 健全な職場環境構築のための企業の取り組み

退職代行サービスの利用が増加している現状を改善するためには、企業側の積極的な取り組みが不可欠です。

▼透明性のある企業文化の醸成
経営層と現場の間で情報や課題が適切に共有される「透明性の高い企業文化」の構築が重要です。定期的な全社ミーティングや部門間の交流、オープンな議論の場を設けることで、問題点が隠蔽されない環境を作りましょう。

特に人材派遣業においては、派遣スタッフの声を直接聞く機会を意識的に設け、派遣先との関係性に左右されない公正な対応ができる体制づくりが求められます。

▼ハラスメント対策の徹底
パワーハラスメントやセクシャルハラスメントは、離職の大きな原因となります。2020年6月からパワハラ防止措置が法制化されたことも踏まえ、以下の対策を講じることが重要です。

  • 明確なハラスメント防止方針の策定と周知
  • 管理職を対象としたハラスメント防止研修の実施
  • 相談窓口の設置と適切な対応体制の整備
  • 問題発生時の公正な調査と処分

ハラスメントが発生した場合、迅速かつ適切に対応することで、被害の拡大を防ぎ、職場の信頼回復につなげることができます。

▼ワークライフバランスの推進
長時間労働が常態化している企業では、業務効率化や人員配置の見直しを行い、適切な労働時間管理を実現することが不可欠です。また、柔軟な働き方を可能にするテレワークやフレックスタイム制度の導入も効果的です。育児・介護休暇の取得促進や、有給休暇の計画的付与など、従業員のライフステージに合わせたサポート体制を整えることで、長期的な人材定着につながります。

▼キャリア開発支援の充実
「キャリアの展望が見えない」という理由で退職する社員も少なくありません。社内でのキャリアパスを明確に示し、スキルアップのための研修機会を提供することで、社員の成長意欲を高めることができます。定期的なキャリア面談の実施や、部署異動の機会提供、資格取得支援制度の充実など、社員の成長をサポートする仕組みづくりが重要です。

10. 新しい時代の健全な雇用関係に向けて

「退職代行サービス」という現象は、日本の雇用慣行が大きく変化していることの表れでもあります。終身雇用・年功序列を前提とした従来の雇用モデルから、より流動的で多様な働き方を認める新しい雇用関係への移行期にあると言えるでしょう。

▼相互信頼に基づく雇用関係の構築
これからの時代に求められるのは、企業と労働者が対等なパートナーとして相互に尊重し合う関係性です。一方的な忠誠や服従を求めるのではなく、双方にとってメリットのある関係を築くことが重要です。そのためには、労働条件や評価基準の明確化、成果に応じた公正な評価と報酬、オープンなコミュニケーションなど、信頼関係の基盤となる要素を整えることが必要です。

▼多様な働き方の尊重
フルタイム勤務だけでなく、副業・兼業、フリーランス、ギグワーカーなど、多様な働き方を認め、それぞれのライフスタイルに合わせた柔軟な労働環境を提供することも重要です。特に若い世代を中心に、「ワークライフバランス」や「自己実現」を重視する傾向が強まっています。こうした価値観の変化を理解し、対応することが、優秀な人材の確保と定着につながります。

▼社会全体での取り組み
ブラック企業問題の解決は、個別企業の努力だけでなく、社会全体での取り組みが必要です。行政による労働法規の適切な執行や、消費者・取引先による「ブラック企業」への経済的圧力、メディアによる問題の可視化など、様々な立場からの働きかけが重要です。また、教育機関においても、労働者の権利や健全な職場環境について学ぶ機会を提供することで、将来的なブラック企業の減少につながるでしょう。

まとめ:
退職代行サービスの利用増加は、日本の労働環境における深刻な問題を浮き彫りにしています。特に、「100回以上も退職代行サービスを利用された企業がある」という事実は、一部の企業における労働環境の異常さを如実に示しています。しかし、この問題を単に「ブラック企業」対「被害者としての労働者」という二項対立で捉えるのではなく、社会全体の課題として認識し、解決に向けて多角的にアプローチすることが重要です。

企業にとっては、退職代行サービスの利用が増えていることを深刻な警告として受け止め、職場環境の改善や人材育成の見直しを進める契機とすべきでしょう。人材の定着と生産性向上は表裏一体であり、健全な労働環境の構築は企業の持続的成長にとって不可欠な要素です。

働く側も、自らの権利を知り、適切に主張することの重要性を認識すべきです。問題に直面した際は、退職代行サービスの利用も含め、自分を守るための行動を躊躇わないことが大切です。そして、働く側は自身の都合を企業側に押し付ける場合、相当のビジネススペックが無いと採用されない可能性が高いことも自覚すべきでしょう。ご自身の都合や希望を優先するあまり、会社からすれば我儘な社員に映り、互いに勤務の継続が困難になるリスクもあります。

個人と企業が互いを尊重し、共に成長できる健全な雇用関係の構築——。それこそが「退職代行サービス」という現象が私たちに示唆している本質的なメッセージなのではないでしょうか。持続可能で誰もが安心して働ける労働環境の実現に向けて、社会全体での継続的な取り組みが求められています。

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岩崎重国
専門家

岩崎重国(CSコンサルタント)

アックスラーニング株式会社

都内および主要都市の上場企業、外資系企業等から組織開発、CS戦略コンサル、カスハラ対策、サービス調査等の依頼を長年、受けている。この業務経験・実績から、№1を目指す企業の社員研修、組織開発を支援する。

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