Mybestpro Members

岩崎重国プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

賃上げムードに悩む中小企業必見 :ネスレ日本の高岡流「経営改革」を学ぶべし | アックスラーニング

岩崎重国

岩崎重国

テーマ:#経営改革

賃上げムードに中小企業は難しい判断。
賃上げは、ただ給与を上げればよいのではなく利益が出ているからこそできること。利益を出すには経営者の努力だけではなく、従業員もともに頑張らなければならない。経営者は「賃上げなんて無理」と諦めていませんか?従業員は「うちの会社は給料悪い。賃上げも期待できない」と受け身になっていませんか?

「日本企業の中で利益を追求している良い会社を一つ挙げて」と筆者が問われれば、真っ先にネスレジャパンを挙げるでしょう。そこで、中小企業の多くが利益を上げ、賃上げにも成功する様に「働き方改革ではなく、経営改革を目指した」元ネスレ日本代表取締役社長の高岡浩三氏の代表的な経営改革を簡単に解説します。

1.ネスレ日本における高岡式「経営改革」

ネスレ日本は、世界最大の食品企業ネスレグループの一員でありながら、日本独自の雇用慣行や人事制度を持つ特異な組織でした。創業以来初の生え抜き日本人社長として高岡浩三氏が就任後、彼は「働き方改革」ではなく、より本質的な「経営改革」を断行しました。本稿では、高岡氏が推進した経営改革のエッセンスを抽出し、その改革が利益向上、社員のロイヤリティ向上、そして優秀な人材の獲得という「プロフィットチェーン」にどのように繋がっているのかを考察します。

1. 日本的経営の再定義:良いものを残し、グローバルで通用する組織へ
高岡氏は、終身雇用や企業内労組といった日本的経営の良い側面は維持しつつ、硬直化した人事制度や労働慣行を大胆に見直しました。目指したのは、社員が高い企業ロイヤリティを持ちながら、ワーク・ライフ・バランスを実現し、イノベーションが生まれる組織文化を醸成することでした。

2. 人事システムの抜本的改革:適材適所と成果主義
高岡氏は、ネスレ日本が抱えていた人事システムの課題を解決するために、以下の施策を講じました。
・採用の多様化: 新卒一括採用に加え、ミッドキャリア採用を拡大し、多様な経験を持つ人材を積極的に登用。インターンシップ制度を拡充し、学生が早期から企業と接点を持てるようにしました。
・企業年金制度の見直し: 年金制度を確定拠出年金に近い形に変更し、社員の自己責任を明確化。同時に、定年を65歳まで延長し、年金減額による社員の不利益を軽減。
・賃金体系の刷新: 1200以上のジョブディスクリプションを明確化し、年齢に関係なく、仕事内容と成果に応じた賃金を支払う「同一労働同一賃金」を推進。
・労働組合との連携: 従来の賃金闘争型労組から、社員の成長と企業業績向上に貢献する「第二の人事部」としての役割を期待し、労使間の建設的な対話を促進。

3. マーケティング思考の人事戦略:社員と学生の課題解決
高岡氏は、人事の仕事を「マーケティング」と捉え、社員や学生といった「顧客」が抱える課題を解決することに注力しました。顧客自身が認識している課題を解決する「リノベーション」だけでなく、潜在的な課題を発掘し、解決する「イノベーション」を重視しました。そのために、「新しい現実を見る」という独自のメソッドを実践し、ITやAIによるデジタル革命がもたらす影響を予測し、ホワイトカラーの人員削減などの施策を実行しました。

4. プレミアム戦略による高収益体質の確立:残業ゼロと給与アップの両立
高岡氏は、人口減少と高齢化が進む日本市場において、シェア拡大に頼るのではなく、高付加価値戦略に転換しました。「ネスカフェ」や「キットカット」といった主力ブランドをプレミアム化し、価格帯を上げることで収益性を高めました。
プレミアム戦略を支えたのが、Eコマースの強化です。自社ECサイトを通じて高利益率の商品を全国に販売することで、売上と利益の両方を拡大しました。

また、残業ゼロを実現するために、テレワーク環境を整備し、時間ではなく成果で評価する体制を構築。同時に、プレミアム戦略による収益向上を社員の給与に反映することで、残業代減少による不満を解消しました。

5. イノベーションカルチャーの醸成:全社員参加型アワードと役員育成
高岡氏は、イノベーションを生み出すためには、組織全体の文化を変える必要があると考えました。そこで、「イノベーションアワード」を立ち上げ、全社員が顧客の課題を発見し、解決策を考案する機会を提供しました。

さらに、役員にも審査だけでなく、アイデアを磨き上げ、プレゼンテーションする役割を担わせることで、組織全体でイノベーション力を高める取り組みを行いました。

2.サービスプロフィットチェーンへの接続:高収益、高収入、優秀な人材、高いロイヤリティ

高岡氏が推進した経営改革は、以下のサービスプロフィットチェーンを形成しネスレ日本の持続的な成長を支えています。

・経営改革による効率化とプレミアム戦略による収益性向上: 人事制度改革、業務効率化、プレミアム戦略によって、売上と利益が大幅に増加しました。
・利益の社員への還元: 収益向上分を社員の給与に反映することで、モチベーションとエンゲージメントを高めました。良い仕事をし、しっかりと社員へ還元させる、これがまさに賃上げに必要なことなのではないでしょうか?
・優秀な人材の獲得と定着: 公正な評価制度、働きがいのある環境、魅力的な給与水準によって、優秀な人材を獲得し、定着率を向上させました。
・高い社員ロイヤリティ: 企業への信頼感と愛着が深まり、より積極的に業務に取り組むようになりました。
・イノベーションの創出: 全社員がイノベーションに関わることで、組織全体の創造性と問題解決能力が向上し、新たな価値創造に繋がりました。

まとめ:
高岡氏のネスレ日本における経営改革は、単なるコスト削減や効率化に留まらず、社員一人ひとりの成長と幸福を追求する「人間中心の経営」でした。その結果、ネスレ日本は高収益体質を確立し、優秀な人材を獲得し、高い社員ロイヤリティを維持することに成功しました。高岡氏の改革は、グローバル企業における日本的経営の可能性を示唆する、貴重な事例と言えるでしょう。そして、賃上げに苦しむ中小企業が、どうやったら社員と経営者そしてステークホルダーとの間にサービスプロフィットチェーンが生まれるのか、冷静に考える機会を与えてくれますね。是非、参考にしてみてください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

岩崎重国
専門家

岩崎重国(CSコンサルタント)

アックスラーニング株式会社

都内および主要都市の上場企業、外資系企業等から組織開発、CS戦略コンサル、カスハラ対策、サービス調査等の依頼を長年、受けている。この業務経験・実績から、№1を目指す企業の社員研修、組織開発を支援する。

岩崎重国プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

CS戦略の立案と組織開発、サービス品質調査のプロ

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ群馬
  3. 群馬のビジネス
  4. 群馬の組織開発・人材開発
  5. 岩崎重国
  6. コラム一覧
  7. 賃上げムードに悩む中小企業必見 :ネスレ日本の高岡流「経営改革」を学ぶべし | アックスラーニング

岩崎重国プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼