カスタマーハラスメント対応研修の考え方 | アックスラーニング
2024年に発覚したフジテレビにおける人権侵害、コンプライアンス違反等の問題は、テレビ業界のみならずあらゆる企業にとって決して他人事ではないことです。そしてこれは、組織の根幹を揺るがす企業風土の問題として、私たち一人ひとりが真剣に向き合うべき課題を浮き彫りにしています。
本コラムでは、フジテレビの問題を起点に、「企業風土とコンプライアンス」というテーマを掘り下げ、若手ビジネスパーソンから経営層まで、幅広い層に向けて具体的な事例や対策を交えながら組織を健全に保つためのヒントを探ります。特に、2025年入社の新入社員や若手ビジネスパーソンは、こうした企業不祥事、人権侵害、コンプライアンス問題等を冷静に評価しご自身の職場ではそのような問題が起きないか?もし起きているとしたらどうすればいいかしっかりと考えてみてください。
目次
1.コンプライアンス問題はなぜ起きるのか?
報道によると、フジテレビのコンプライアンス問題は、一部の社員による個人的な逸脱行為もあるようですが、長年の間に沁みついてきた組織全体の体質、すなわち企業風土に根ざした問題である可能性が第三者委員会の報告書でも指摘されています。
具体的には、次の点が挙げられます。
・権力構造の歪み: 上司から部下へのパワハラ、部署間の連携不足など、組織内のコミュニケーション不足や閉鎖性
・リスク意識の欠如: コンプライアンスに関する研修や啓発活動が形骸化しているか皆無で、社員一人ひとりの倫理観や責任感が希薄になっている可能性が大
・内部通報制度の不備: 問題を早期に発見し、是正するための内部通報制度が機能していなかった、あるいは利用しにくい状況にあったと考えられる
これらの問題は、フジテレビに限らず、多くの企業に共通するリスクを孕んでいます。特に、長年培われてきた企業文化や慣習が、時代に合わなくなり、コンプライアンス違反の温床となるケースは少なくありません。
2.企業風土とは何か:見えない組織の価値観
企業風土とは、組織内で共有される価値観、行動規範、考え方の総体です。明文化されたルールやポリシーだけでなく「暗黙の了解」や「空気」として組織の隅々まで浸透している無形の要素を指します。
企業風土は以下のような特徴を持ちます:
持続性:一朝一夕には形成されず、長い時間をかけて醸成される
浸透性:組織のあらゆるレベルに影響を及ぼす
無意識性:メンバーが意識せずとも行動に影響を与える
伝播性:新入社員にも伝わり、組織文化として継承される
この企業風土がコンプライアンス意識を高める方向に働けば組織は健全に発展しますが、残念ながらフジテレビの事例では、「視聴率」や「番組制作の効率」を優先する風土が倫理的な問題を軽視する方向に働いてしまいました。その他にも「面白ければ良い」「芸能人との癒着」「一般ビジネスの常識とかけ離れた仕事」といった独特な企業風土もあったと考えられます。
3.企業風土がコンプライアンスに与える影響
企業風土とは、組織全体の価値観、信念、行動様式など、目に見えない文化的な要素の総称です。良い企業風土は、社員のモチベーションを高め、創造性を刺激し、組織全体の成長を促進します。しかし、悪い企業風土は、コンプライアンス違反を誘発し、企業価値を毀損するリスクを高めます。
負の連鎖の例:
「見て見ぬふり」文化: 問題があっても誰も指摘しない、あるいは指摘しても無視されるような環境では、不正行為がエスカレートしやすくなります
「成果至上主義」: 利益追求のために、倫理観やルールを軽視するような風潮は、様々なコンプライアンス違反につながる可能性があります
「同調圧力」: 上司や先輩の意見に異を唱えにくい雰囲気は、誤った意思決定を是正する機会を奪い、組織全体を誤った方向に導く危険性があります
これらの負の連鎖を断ち切るためには、トップから現場まで、組織全体で企業風土の改善に取り組む必要があります。
4.心理的安全性の確保:誰もが意見を言える組織へ
心理的安全性とは、「チームのメンバーが、対人関係においてリスクある行動を取っても安全だと感じられる状態」のことです。心理的安全性が高い組織では、社員は自分の意見や疑問を自由に発言することができ、建設的な議論を通じて、より良い意思決定を行うことができます。そして、より良い企業風土を作るためには、心理的安全性を確保していることが重要です。
・リーダーシップの変革: リーダーは、部下の意見を積極的に聞き入れ、失敗を許容する姿勢を示す必要があります
・フィードバック文化の醸成: ポジティブなフィードバックだけでなく、建設的な批判も積極的に行われるような文化を醸成する必要があります
・多様性の尊重: 性別、年齢、国籍、価値観など、多様な背景を持つ社員が、互いを尊重し、協力し合えるような環境を整備する必要があります
・傾聴の姿勢: 他者の意見を注意深く聞き、理解しようとする姿勢は、心理的安全性を高める上で非常に重要です
心理的安全性が高い組織は、コンプライアンス違反を未然に防ぐだけでなく、社員の創造性やエンゲージメントを高め、組織全体の成長を促進します。
5.コンプライアンス研修の再設計:知識から行動へ
コンプライアンス研修は、社員一人ひとりの倫理観を高め、コンプライアンスに関する知識を習得するための重要な機会です。しかし、従来の研修は、一方的な講義形式が多く、受講者の関心を引かず、効果が低いという課題がありました。
コンプライアンス研修を再設計するためには、以下の点に留意する必要があります。
参加型の研修: グループワーク、ロールプレイング、ディスカッションなど、受講者が積極的に参加できるような形式を取り入れる必要があります
事例に基づいた研修: 過去のコンプライアンス違反事例、特に自社のケースを分析し、具体的な教訓を学ぶ必要があります
多様なテーマ: ハラスメント、情報漏洩、インサイダー取引など、様々なテーマを網羅する必要があります
継続的な研修: 定期的に研修を実施し、社員の意識を高め続ける必要があります
eラーニングの活用: 時間や場所にとらわれずに学習できるeラーニングを活用することで、研修の効率を高めることができます
コンプライアンス研修は、知識を習得するだけでなく、行動変容を促すためのものでなければなりません。例えば、筆者がおこなうコンプライアンス研修などでは、事前に参加者プロフィールをレクチャーしていただき、参加者の在籍期間中での不祥事の有無や働き方等を特性を理解し、グループ分けや質問構成の検討、ディスカッション時の発言内容の確認をします。そして、研修後には数か月間の課題を提示し、研修後もコンプライアンス体制を考え行動変容を促すプログラムを仕組み化させています。数時間だけのコンプライアンス研修を単発でおこなう形式では行動変容は生まれませんし、実務経験がある講師はそのような単発研修を提供しないでしょう。
6.若手ビジネスパーソンに期待すること:未来を担う世代の役割
若手ビジネスパーソンは、企業の未来を担う世代として、コンプライアンス意識を高め、組織文化の変革を担うことが期待されています。
具体的には、
・倫理観の向上: 社会人としての倫理観を常に磨き、不正行為を見過ごさない強い意志を持つ必要があります。
・積極的な発言: 疑問や意見があれば、積極的に発言し、建設的な議論を促す必要があります。
・ロールモデルとなる: 周囲の社員の模範となるような行動を心がけ、コンプライアンス意識を高める必要があります。
・学び続ける姿勢: コンプライアンスに関する知識を常にアップデートし、自己啓発に努める必要があります。
・変化への対応: 社会の変化に対応し、新しい視点や発想を取り入れることで、組織文化の変革をリードする必要があります。
若手ビジネスパーソン一人ひとりが、コンプライアンス意識を高め、積極的に行動することで、企業全体の健全性を高めることができます。
まとめ:
フジテレビのコンプライアンス問題を教訓に、「企業風土とコンプライアンス」について深く考えることは、私たち一人ひとりの責任とも言えるでしょう。組織全体の意識改革、心理的安全性の確保、内部通報制度の再構築、コンプライアンス研修の再設計など、様々な取り組みを通じて、健全な企業風土を醸成し持続可能な成長を目指しましょう。また、コンプライアンスは、単なる法令遵守ではなく、企業価値を高め社会的な信頼を得るための重要な戦略です。企業風土を改善し、コンプライアンスを徹底することで、組織はより強くより魅力的な存在へと進化することができます。