外国にもカスハラってあるの?諸外国のカスタマーハラスメント事情について | アックスラーニング
近年、従業員に対する顧客からの理不尽な要求や暴言、威嚇行為などを指す「カスタマーハラスメント(通称:カスハラ)」が社会問題として注目されています。調査によれば、接客業に従事する労働者の約7割が何らかのカスタマーハラスメントを経験しているという結果も出ており、その対策は企業にとって喫緊の課題となっています。そこで、各社各団体が対策を検討している中、長年にわたり不当要求対策などのコンサルティングにあたってきて行政機関や小売店、お客様相談室やコンタクトセンターに至るまで幅広い業種業態の支援をしてきた筆者の立場から、カスタマーハラスメント対策が打ちにくい業界と打ちやすい業界を比較分析し、効果的な「カスタマーハラスメント対応研修」の必要性について解説します。
1.カスタマーハラスメント対策が打ちにくい業界の特徴
1. 小売業・飲食サービス業
小売業や飲食サービス業などの小売店では、カスタマーハラスメント対策を導入が難しい傾向にあります。
具体的な障壁:
・アルバイトやパートタイム従業員、外国人労働者が多く、研修体制やカスハラ判断、緊急対応の実施が困難
・接客の現場では瞬時の判断が求められるため、マニュアル化が難しい
あるコンビニエンスストアや飲食店では、深夜に来店した酩酊状態の客が商品を投げつけるなどの行為があっても、どうやって対応するかスタッフが分からず、ひたすら謝罪するだけのケースが報告されています。このような状況下では、一日程度のカスタマーハラスメント対応研修を受けたとしても、現場での実践に結びつきにくいという課題があります。
2. 医療・介護業界
医療機関や介護施設では、患者やその家族が極度のストレス状態にあることが多く、感情的な言動につながりやすい環境があります。また、認知症や密室で一対一の対応、異性とのかかわり等、様々な様子が関わり、伝統的にカスハラが発生しやすい業界です。
対策導入の障壁:
・医療サービスの公共性から顧客(患者)を選別できない、NGがだしにくい
・認知症等があり話し合いによる解決が困難
・対応研修等はしており「患者からの暴力」へも備えをしているが、いざ暴力行為を目の当たりにすると限られたスタッフで拘束等対処することが難しい
ある総合病院では、救急外来での待ち時間に苛立った患者家族から看護師が暴言を受ける事例が報告されています。患者家族の緊急事態と個人的な不満の狭間で、医療スタッフはカスタマーハラスメントに適切に対応するための明確な指針を持ちにくいケースが多いのです。ただ、医療・介護業界は、カスハラに対しては最も先進的かつ具体的な研修が進んでいる業界でもありますので、有事の際に研修内容や対策フローに従って対応ができれば良いのですが、心理的にも肉体的にも負担が多いことは事実でしょう。
3. 公共サービス部門
公共交通機関など公共性の高いサービスを提供する業界では、サービスの性質上、全ての市民に対応する必要があります。
カスタマーハラスメント対策の難しさ:
・ 「行政サービスは全ての市民に平等に」という原則
・クレーム対応の透明性確保の要請と個別対応のバランス
・公務員等に対する「税金で給料をもらっている」という批判
ある公共交通機関では、遅延や運休時に現場スタッフが過剰なクレームの矢面に立たされることが多く、組織としての対応方針と現場の裁量のバランスが難しい状況があります。
2.カスタマーハラスメント対策が打ちやすい業界の特徴
一方、行政窓口、コンタクトセンター等はカスタマーハラスメント対策が打ちやすい業界です。しかしこれは、IT技術等の仕組みを導入し、組織的な対応が発揮されればの話であって、担当スタッフ一人一人がカスハラ客に対峙しなくてはならない状況のままの状態ではカスハラ対応は困難なままで間違いありません。
特に、自治体等の行政機関は、施設の問題、組織対応の問題、そもそもの接客サービスの問題等、行政サイドのサービスレベルに課題があってカスタマーハラスメントを引き起こしているケースも筆者の調査では多数ありました。一方、あからさまな暴言や暴力行為をする利用者を「市役所への来庁を出禁にする」のように住民サービスが受けられないようなことをしてもよいのか等、対応が非常に悩ましい点も多いです。また、災害等の補償などで隣の家との補償額に違いが出て納得できないという利用者への説得は大変に困難なケースとなりましょう。そこで、大事になってくることが、事前のケース別シミュレーションというわけです。このシミュレーションの精度を上げることによって、カスハラ対策は打ちやすいものになってきます。
3.業界別カスタマーハラスメント対策の比較分析
カスタマーハラスメント対策の導入しやすさには、以下のような要因が影響しています。
・顧客接点の性質:対面/非対面、継続性/一時性
・業界の競争環境:競合の多さ、顧客獲得コスト
・サービスの必要性と代替可能性
・組織文化と従業員保護の優先度
・法的、制度的な枠組みの存在
・顧客の期待値とサービス提供能力のギャップ
・記録、証拠の保存容易性
・従業員の雇用形態と研修体制の充実度
業界別カスハラ対応研修カスタマイズのポイント
小売・飲食業向け:
・短時間で実施できるシナリオ別シミュレーションの導入
・具体的な声かけ例と禁句集の作成
・緊急ボタンの設置とその利用判断の研修
公共サービス部門向け:
・法的根拠に基づく対応の徹底
・記録と報告の標準化
・複数人対応の技術
・メディア対応を含めた危機管理
カスタマーハラスメント対応能力を上げるために:
・デジタルツールを活用した対応記録システムの使用法
・感情分析AIの判断基準と人間判断の併用
・非対面コミュニケーションでの感情伝達技術
・サービス設計段階からのハラスメント防止策
・組織横断的なサポート体制の構築
カスタマーハラスメント対策の導入しやすさは業界によって大きく異なります。しかし、どの業界においても、従業員の健康と安全を守り、健全な職場環境を維持することは企業の社会的責任であり、また人材確保・定着の観点からも重要な経営課題です。厚生労働省も「職場におけるハラスメント対策マニュアル」において、顧客等からの著しい迷惑行為への対応の重要性を指摘しています。
効果的なカスタマーハラスメント対応研修の実施は、どの業界においても対策の第一歩となります。研修を通じて従業員の対応スキルを向上させるとともに、組織としての対応方針を明確にし、従業員を守る姿勢を示すことが重要です。そして社会全体としても、過度な顧客至上主義から脱却し、サービス提供者と利用者が相互に尊重し合う関係性を構築していくことが求められています。そのためには、企業の取り組みだけでなく、消費者教育や社会的啓発活動も重要な役割を果たすでしょう。
顧客満足と従業員保護は二律背反ではなく、両立可能な目標です。適切なカスタマーハラスメント対策を講じることで、最終的には顧客にとっても質の高いサービスを持続的に享受できる環境が整うのです。各業界の特性を踏まえた効果的な「カスタマーハラスメント対応研修」の実施を通じて、すべての従業員が安心して働ける社会の実現を目指していくことが重要です。
◆参考Webサイト◆
カスハラ専門コラム: https://www.ax-learning.jp/column/customer-harassment
カスハラ講演会ラインナップ: https://www.ax-learning.jp/lecture/customer-harassment
厚生労働省: https://www.mhlw.go.jp/
あかるい職場応援団: https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/
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