カスタマーハラスメント対応のために知っておきたい関連法律 | アックスラーニング
最近面白いことを聞かれました。日本のコンタクトセンターの担当者からは「海外にはカスハラってあるのですか?」と。そして同じタイミングで外資のカスタマーサクセスに関するグローバル責任者から「日本人のいうカスタマーハラスメントついて、日本はどのような対策を取っているか」と。
そうなんです。日本国内で深刻化するカスタマーハラスメント(カスハラ)問題は、決して日本特有の現象ではありません。海外においても、程度の差こそあれ同様の問題が存在し様々な対策が講じられています。今回は、この数年間、外資系企業のカスタマーハラスメントサクセス部門等と日本法人の担当部署に対してコンサルティングをしてきた筆者の経験から感じた諸外国のカスタマーハラスメントに関する意識や対策についてご紹介したいと思います。なお、筆者はカスタマーハラスメントの研究家ではなく実務を担うコンサルタントですので、本稿はカスタマーハラスメントの学術的な考察ではないことをご承知おきください。
1.海外におけるカスタマーハラスメントの概念
日本のカスタマーハラスメントに相当する明確な一語の表現は海外に存在しませんが(カスハラは和製英語ですので)、海外では主に「Customer Abuse」「Customer Misconduct」「Customer Misbehavior」「Consumer Aggression」などの用語を用いていると思います。これらは、顧客が従業員に対して行う不適切な言動や要求を指し、企業にとって深刻な問題となっています。海外でも、顧客からのハラスメントはサービス業を中心に広く認識されており、労働環境や企業の評判に悪影響を及ぼす要因として注目されています。米国の小売協会(National Retail Federation)の調査によれば、接客業従事者の約70%が何らかの顧客からの不適切な行為を経験しているとされ、カスタマーハラスメントの問題への認識は国際的に高いと言えましょう。
2.世界共通のカスタマーハラスメント課題
まず初めに、カスタマーハラスメントについて世界共通の課題があるのか、各国のレポートを筆者が以下のように整理してみました。
❶感情労働のストレス:接客業はどの国でも「感情労働」であり、自分の感情を抑えて顧客に対応するストレスが蓄積しやすい
❷デジタル化によるハラスメントの新形態:SNSやレビューサイトでの誹謗中傷、不当な評価、脅迫など、オンラインでのハラスメントが世界的に増加
❸報告システムの不備:多くの国で従業員が被害を報告するシステムが整備されておらず、カスタマーハラスメントの実態把握が困難な状況があるが、顧客による器物損壊行為や従業員への傷害などは相当あると推測
❹メンタルヘルスへの影響:WHO(世界保健機関)の報告では、顧客対応業務におけるストレスは世界的な健康問題として認識されつつある
ただし、海外のカスタマーサポートや接客業に従事する方々は、日本のように顧客からやられっぱなしの受け身に回らず、「やられたらやり返す」感覚もあると筆者は感じています。ですので、店頭で顧客から水を掛けられた従業員がジュースを掛け返すようなこともあるようです。
なお、海外に住む筆者の友人数名に各国のカスハラ事情を聞くとこんな意見も上がってきました。
・そもそも製品やサービスの質が低く、クレームを言われても仕方が無いことが多い(ゆえにカスハラ以前にクレームが多い)
例)送られてきた新品の家具が壊れている、全く違う商品が届いた、電気ガス水道通信などのインフラが不安定、外国人差別
・海外は銃社会だから、人間関係のもつれから些細なことでも「殺されるかも」という緊迫感がどこかにある。しかし、日本にはそれが無いから、「何を言ってもいい」と言いたい放題な人がいるのでは?この点は日本人はグローバルスタンダードから外れている。
日本では「お客様は神様」という文化があると言われています。これはマスコミを中心に日本文化を過剰に表現しているに過ぎないと筆者は思いますが、「お客様と従業員と言う関係性で、従業員のほうが下と思い込み然るべき主張や対抗ができない」日本人がほとんどであると筆者は考えています。ちなみにこの言葉を世界標準にするならば「The customer is always right.」です。「この商品、壊れてるじゃないか!」なんて言われる製品が多い外国では顧客はいつも正しいという側面も間違いではないのでしょうね。日本では、こうした製品クレームなどは極めてまれになってきました。ゆえに些細なミスや誤りが過剰なまでの怒りに変わってしまうのかもしれません。
3.地域別カスタマーハラスメントの特徴と対策
北米(アメリカ・カナダ)のカスタマーハラスメントの状況
特徴
・法的アプローチが発達:労働安全衛生法(OSHA)の枠組みでハラスメント対策が進められている
・訴訟リスクへの高い意識:企業が従業員保護を怠ると高額な損害賠償に発展するケースがあり、防衛的な対策が一般的
・「ゼロトレランス方針」の普及:不適切な顧客行動に対して毅然とした対応を明示する企業が増加
対策例
・Ban List(入店禁止リスト)の活用:繰り返し問題行動を起こす顧客を記録し、入店拒否する仕組み
・従業員エンパワーメント:従業員が自身の判断で対応できる権限を与える企業が増加
・カスタマーコード・オブ・コンダクト:利用規約に顧客の行動規範を明記
・セキュリティ体制の強化:防犯カメラ、警備員の配置など物理的対策
・アメリカの小売店は、攻撃的な顧客に対して従業員が「自分の安全を第一に考え、その場を離れる権利がある」ことを明文化し、企業文化として定着させている
ヨーロッパのカスタマーハラスメントアプローチ
特徴
・EU労働安全衛生指令の存在:職場の安全と健康に関する枠組み指令により、第三者(顧客)からの暴力・ハラスメントも対象に
・社会対話とコレクティブアクション:労働組合と経営者の対話を通じた解決策模索が特徴的
・公的キャンペーンの活発化:特に北欧諸国では政府主導の啓発活動が盛ん
対策例
・「尊重のための行動計画」:小売・接客業界全体で顧客への啓発を行う国家プロジェクト
・「静かな時間帯」導入:一部スーパーでは感覚過敏の人向けに刺激の少ない買い物環境を提供し、顧客ストレス軽減
・「黒タグ」システム:一部チェーン店で従業員が困難な状況に直面した際、同僚に黒いタグを見せることで支援を要請できる仕組み
・「Respect for Shopworkers」法案:小売労働者への暴力・脅迫に対する特別法の制定
アジア諸国のカスタマーハラスメントの現状
特徴
・階層意識の影響:多くのアジア諸国では社会的階層や「体面」の考え方が強く、サービス業への尊重が不足する場合がある
・「無理難題」文化:特に中国・韓国では「お金を払っているから何でも要求できる」という認識が根強い
・SNS炎上リスクの高さ:アジアではSNS利用率が高く、対応の不満がすぐに拡散するリスクが大きい。特に日本では匿名でのSNS悪口が世界の中でも高い
対策例
・「感情労働者保護法」:2018年に改正された産業安全保健法で、感情労働者の権利を明確化
・「ブラックリスト」システム:オンラインプラットフォームでの悪質ユーザーの登録・共有システム
・「Kindness Movement」:政府主導の国民運動として、サービス業従事者への敬意を促進
・エスカレーション・プロトコル:段階的に上司や専門チームが介入する明確な手順の確立
・「顧客からの暴言・暴力に従業員が対処するためのマニュアル策定」「従業員の休憩権利の保障」「心理カウンセリング提供」を義務付けており、法的枠組みとしては東アジアで最も進んでいます。
4.日本企業が導入すべき国際的ベストプラクティス
・組織文化の転換
「お客様は神様」から「相互尊重」「主張すべきことは主張する」へ:欧米企業では「顧客も従業員も同等に尊重される」文化への転換が進行中。そもそも諸外国は、コミュニケーションの授業がこども時代からあり、顧客に言い負かされることが少ない。
・経営層のコミットメント:米国企業では経営者が明確に従業員保護を宣言する例が増加
・実践的トレーニングの導入
小売業では「怒りの段階に応じた対応技術」の研修が標準化
シナリオベース学習:実際の事例を基にしたシミュレーションが効果的とされる
AI顧客スクリーニング:問題行動履歴のある顧客を自動検知するシステム導入
ウェアラブルパニックボタン:従業員安全確保策として普及
顧客行動規範の明文化:サービス利用条件としての行動規範を示す
報復禁止ポリシー:報告した従業員が不利益を受けないことを保証
以上のように、カスタマーハラスメント対策は海外の事例から学べる点は多いです。アメリカのようにストレス管理のためのトレーニングやヨーロッパのような法的枠組み、アジア諸国の啓発活動は、日本でも有用です。特に法律の整備と労働組合の支援は不可欠です。労働者のメンタルヘルスを守るために、会社としても積極的にハラスメント対策を講じ、さらには国としても法的バックアップを強化する必要があります。
◆参考Webサイト◆
カスハラ専門コラム: https://www.ax-learning.jp/column/customer-harassment
カスハラ講演会ラインナップ: https://www.ax-learning.jp/lecture/customer-harassment
厚生労働省: https://www.mhlw.go.jp/
あかるい職場応援団: https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/
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