「経世済民」が基本方針です、と言われても

佐藤昌徳

佐藤昌徳

テーマ:政治問題

高市早苗首相が国会の所信表明演説で、こう述べました。
「私が貫く志は、『経世済民』です。」



続けて、「世を経(おさ)め、民を済(すく)う」と説明し、「経済」の力で国民の暮らしを守り、希望ある未来を切り拓いていく、と。
なるほど。
立派な言葉です。
ただ、これを聞いて「さすが総理大臣、素晴らしい国家観だ」と感心する前に、私は少々首をかしげてしまいました。
いや、それは総理大臣として当たり前のことではありませんか、と。

「経世済民」とは何か

「経世済民」とは、「世を治め、民を救う」という意味です。
「経世」は世の中を治めること。「済民」は民を救うこと。
そして「経世済民」あるいは「経国済民」を縮めたものが、今日使われている「経済」という言葉の由来とされています。
つまり、本来の「経済」とは、株価が上がったとか、GDPが何%成長したとか、企業収益が過去最高になったとか、そういう数字だけの話ではありません。
国をきちんと治め、そこで暮らす人々の生活を成り立たせる。
これが出発点です。

経済学を学び始めれば出てくる話です

この「経世済民」という話は、何も総理大臣になって初めて知るような高邁な政治哲学ではありません。
経済学を学び始めた学生が、「そもそも経済という日本語はどこから来たのか」という話の中で接するような基本的な話です。
私も経済学部で経済を勉強した人間ですが、「経済とは経世済民である」と聞けば、
「ああ、そうですね」
という程度の話です。
もちろん、基本だから重要ではない、ということではありません。
むしろ基本だからこそ重要なのです。
ただし――。
日本国の内閣総理大臣が、それを改めて自らの政治の大看板として掲げるとなると、話は少し違ってきます。

八百屋さんが「野菜を売ります」と宣言するようなもの

少し意地悪な言い方をすれば、
総理大臣が「私は経世済民を目指します」と宣言するのは、八百屋さんが「当店は野菜を売ることを基本方針とします」と言うようなものではないでしょうか。
病院が「患者を治療します」。
学校が「子供を教育します」。
消防署が「火事を消します」。
そして政府が、
「世を治め、民を救います」。
いや、それがあなた方の仕事でしょう。
という話です。
もちろん政治の原点を確認する意味で「経世済民」という言葉を使うことには意味があるでしょう。
しかし、一国の首相の所信表明演説なのです。
われわれ国民が聞きたいのは、「政治とは国民のためにある」という政治学入門の話ではありません。
では、この国をどうするのですか。
では、この国をどうするのですか。
そこです。

「民を救う」と言うなら、何から救うのか

物価は上がった。
食料品も上がった。
電気代も上がった。
建築費も上がった。
社会保険料の負担も重い。
働いても働いても、「去年より暮らしが楽になった」という実感を持てない人は少なくないでしょう。
地方に目を向ければ、人口は減る。
若者も減る。
空家は増える。
相続した土地は売れない。
インフラを維持する人もお金も足りなくなってくる。
私自身、不動産の仕事をしていると、この国で進んでいる人口減少や地方経済の縮小を、毎日のように目の前で見せられます。
東京で政策資料を眺めているだけでは見えにくいでしょうが、地方では既に「将来の問題」ではありません。
現在進行形の問題です。
だからこそ「経世済民」と言うのであれば、
何から民を救うのか。
どうやって救うのか。
そのために何を変えるのか。
誰に負担を求めるのか。
いつまでに結果を出すのか。
そこまで語っていただきたい。

四字熟語なら、私でも言えます

政治家の演説には、ときどき立派な四字熟語が登場します。
「経世済民」。
実に格調高い。
しかし、四字熟語を唱えただけで経済が良くなるのであれば、政治ほど簡単な仕事はありません。
私だって明日から、
「経世済民」
「国民本位」
「地方創生」
「所得倍増」
と毎朝唱えます。
残念ながら、それで福島の土地が高く売れるわけでも、空家が減るわけでも、若い人が増えるわけでもありません。
政治も同じでしょう。
言葉ではなく、結果です。

「経世済民」は目標ではなく、政治家の職務では

私は、高市首相が「経世済民」という考え方を掲げること自体を否定するつもりはありません。
むしろ政治が経済成長の数字だけを追うのではなく、国民生活を良くするためにあるのだという原点を確認することは大切だと思います。
しかし、それは総理大臣としての「壮大な目標」というより、
そもそもの職務ではないでしょうか。
首相が「経世済民」を掲げたことを評価するのは、まだ早い。
評価すべきは、その言葉ではなく、その後です。
実質賃金は上がったのか。
若い世代が将来に希望を持てるようになったのか。
子供を産み育てることへの不安は小さくなったのか。
地方で普通に働き、普通に家を持ち、普通に老後を迎えられる社会になったのか。
人口減少に歯止めがかからなくとも、人口が減ることを前提として地方が持続できる仕組みをつくれたのか。
それができたとき初めて、
「ああ、高市さんの言っていた経世済民とは、こういうことだったのか」
と分かるのだと思います。

もっと頑張ってもらわないと困ります

「私が貫く志は、経世済民です。」
結構です。
反対する理由はありません。
ただ、一国民として申し上げれば、
総理大臣から「世を治め、民を救います」と改めて宣言されて、こちらが感激しなければならない話でもないでしょう。
それは政治を志したときから当然持っていていただかなければ困るものです。
まして、総理大臣なのですから。
「経世済民」という看板を掲げた以上、これから問われるのは、その看板の立派さではありません。
その下で何をやったのか。
国民の暮らしがどう変わったのか。
地方がどう変わったのか。
日本の将来にどんな道筋をつけたのか。
そこを見ていきたいと思います。
「経世済民です」と言われて、「なるほど立派ですね」で終わるほど、今の日本は余裕のある状況ではありません。
高市首相。
せっかくそこまでおっしゃったのですから、ぜひ「経世済民」を言葉ではなく結果で見せてください。
もっと頑張ってもらわないと困ります。

\プロのサービスをここから予約・申込みできます/

佐藤昌徳プロのサービスメニューを見る

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

佐藤昌徳
専門家

佐藤昌徳(不動産業)

株式会社ビーティーアール

不動産鑑定事務所に23年間勤務するなど不動産業に35年以上携わり、様々な物件を見てきた経験が強み。「難しい相談にも誠心誠意対応する」をモットーとする。

佐藤昌徳プロは福島放送が厳正なる審査をした登録専門家です

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

空き地、空き家の売却からお片付けまで、不動産のプロ

佐藤昌徳プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼