リウマチで履ける靴がない方に
下肢の緊張性の麻痺と内反足が進行する難病のため、大学病院の主治医の指示で矯正用の支柱付き下肢装具を装着された方に対応した例です。
装具を作製した義肢装具士から装具用の既製靴を購入して歩行を試みたものの、足底の胼胝が痛く、また、装具と擦れて水ぶくれができるなどで歩くことができず、義肢装具士に何度か訴え、パットを付けるなど対処はされたが、全く改善せず、外出ができないで困っておられました。
医師からは「矯正のために装具はいつも着けるように」と指示されているので、これを付けて痛くなく歩ける靴を作って欲しいとの要望でした。
日本の補装具の制度では、下肢装具が必要な場合は、装着したまま既製靴が履けるような装具を作製することが基本とされていますが、国の指針では、障害と装具の状態によっては、装具を装着して履くことができる靴(靴型装具)を一緒に作製し、「二つの装具の組み合わせ補装具」として認められないわけではないのですが、現実には、下肢装具と靴型装具の組み合わせはほとんどないようです。
この方に提供した義肢装具士も「装具を付けたままでも脱ぎ履きできるのだからこの靴で良いはず」と言わんばかりに、装具に合った靴を作る話は全く出なかったそうです。
確かに履くことはできますし、脱ぎ履きはしやすいものの、合皮のアッパーや靴底の素材が柔かく、靴としての支える機能が全くないため、歩くたびに足が傾き、安定せず、痛みや擦れの原因が靴にあることは歴然としていました。
「できることなら、装具を付けているように見えないもの、また、麻痺のない側は好きなデザインにして、装具の側も出来るだけそれに近いものを」とのご希望もあり、足部の装具部分をすっぽり覆えるデザインにしました。
その上で、しっかりした革と芯材を用いてアッパーを作製し、靴底はフレアー形状、高さ調整など、種々の機能性を付加し、安定性を確保できる靴に仕上げました。
これにより、歩容が安定しただけでなく、痛みや胼胝が軽減し、長時間歩くことができるようになりました。
ご本人が何より驚かれたのは、装具用の靴として購入した靴を履いたのでは痛くて全く歩けなかったが、靴を履かずに歩く場合も痛みがあり、それは装具のためと思っていたが、この靴を履くとその痛みもなく歩くことができる、ということでした。
装具の良し悪しについては、私たちにはわかりませんが、このような場合は、装具を着けた状態を前提に、可能な限り安定した歩行ができるように靴を作製することが私たちの仕事ですから、その結果、靴を履かない状態より履いた方が痛みなく歩けると言われて、安堵いたしました。
自費でしか作れないのなら、交互に履いて長持ちさせるためにも、見た目もおしゃれなものを何足か作りたい、と希望され、2足目、3足目は、希望の色や素材を使用し、さらに満足していただいています。
装具を着けて歩く時間が増えたためか、その後、足部の内反変形の進行が抑えられているなど、医師からも治療効果が認められているそうです。
同じ装具を着けていても、履く靴によって歩きやすさや痛みが全く違うことに、ご本人もご家族も驚かれています。
それにつけても、自分は自費で作製できたから良いものの、病院で医師の指示で下肢装具を作ったにも関わらず、それを着けて歩ける靴が提供できないのでは、充分な治療をしていることにならないではないか、と、日本の医療、福祉制度の現状に対しては、大変憤慨されています。
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