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北九州市の逆線引きについて

杉山信二

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テーマ:擁壁

斜面住宅地の開発制限記事
2019年1月1日の西日本新聞の一面に北九州市の斜面地開発抑制計画について「斜面宅地居住制限へ」と大々的に報じられましたが、3年4ヶ月が過ぎた新聞に「7割対象から除外」と事実上撤回となった記事が掲載されました。

住民からすれば、資産価値が下がることや今後住めなくなる不安などがあるため反発するのは当然のことだと思います。その結果として早々に7割もの候補地が除外される方針が固められたというものです。

しかし、本当にこれで良かったのかと考えた場合、私はかなり不安になります。それは、擁壁の寿命です。国土交通省の発表によれば、擁壁は築造から20年経過した頃から急激に老朽化が進み、50年以上のものは約4割で補修工事が必要とされています。北九州市の斜面宅地居住制限の候補地となっていた地域には現在の様な構造計算もされていない自然石の石積み(石垣)や強度的に不十分な擁壁(現在では承認されない構造)が数えきれないほど残存していて、既に危険な状態の擁壁もかなりの数があるからです。

これは「もしかして」の話ですが、斜面宅地居住制限が実施された場合、市街化区域として開発を許可していたものについて居住制限をするわけですから、のちに人が住まなくなった危険な跡地は行政が災害防止処置を行う可能性(居住制限を掛けたため)はゼロではないと思っていました。しかし、それを撤回したと言うことは土地の所有者が今後ずっと維持管理を行っていかなければならないという義務が残った(行政は手を出せない)ことになったわけです。つまり、あと数十年後に崩壊する可能性が高い擁壁(負となる可能性が高い財産)を子孫に残すことになるわけです。

例えば鉄筋コンクリート造の市営住宅などは70年から80年程度が寿命であるとして建て替えを行います。では、擁壁はどうでしょう。同じように鉄筋コンクリートで造られたL型擁壁などではアパートやマンションと同じように同程度もつかもしれませんが、背面に湧水がある場合などではもっと短い寿命になることも考えられますし、長くもって100年程度でしょう。また、擁壁の改修工事(造り替え)を考えた場合、擁壁の高さが高い場合などでは隣地の方と同時施工を行わなければ施工そのものができないことも少なくありません。その際に隣地の方が同意して共同で工事を行うのは簡単ではないと思いますし、家屋は解体した上で、新築が建てられるほどの工事費が必要となることも想像ができます。



「開発ありき」で造られてきた斜面の構造物を今後どう維持していくかは「個人の責任と判断のみ」になってしまうことになりそうです。

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杉山信二
専門家

杉山信二

九州防災メンテナンス株式会社

法面などの斜面の安定工法で培った技術を生かし、北九州市の住宅に多い石積みを安価に補強する工法を開発。同市の防災アドバイザーの推薦を受け、石積みの崩壊防止に実績を上げている。

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