人は宇宙最大の資源です
年の瀬も迫るある日、思わぬ出来事がありました。
日付が変わろうとする深夜、
「福岡の〇〇警察署ですが
との電話がありました。
「○○さん(私の知り合い)が無銭飲食し自首してきています。連絡先があなたしかわからなかったのでご連絡しました」
ということだったのですが、要するに彼には身寄りもなく、お店側も料金を支払ってくれればいいと言っているし、彼は酔っ払っているしということで、なんとか料金支払って引き取りに来てもらえないかとの相談でした。
聞けば、所持金は210円。今日入って来ると思っていたお金が入らず支払いができなかったもよう。先の見通しも持てない現状から刑務所に入ることを覚悟して、自ら通報したようです。
彼は服役経験者です。日頃から二度と再犯はしない、刑務所には戻らないと覚悟して日々の生活を送っていました。お金に対する計画性のなさやだらしなさがあり、面倒くさがりでいつも逃げてばかり、責任感も浅くあきらめと投げやりの人生です。周りから見ればどうしようもない人間です。
でも今回は逃げずに自分のしたことの責任を取ろうとしたんです。あの彼がですよ。たしかに。逃げてつかまるより自首した方が罪が軽いと考えたのかもしれませんが、今までの彼の言動からすればとりあえずは逃げてしばらくったって自首するんじゃないかなと思います。でも、今回は逃げなかったんです。
そこで私は、とりあえずは○○警察署に行くことにしました。深夜、1時間、車を運転し、警察署につくなり、支払いをお願いされ、まずはお店へ出向き彼の無銭飲食代を支払い、お店の方に謝罪して許してもらった後、身元引受の書類を書き彼と面会したのは、時計の針が2時を大きく回っていました。
彼は、ばつの悪そうなそれでいて強がっているような、そんな態度でした。
私は一言だけ
「きつかったな。よく逃げんだったたい」
とだけ言いました。
帰りの車の中、彼は大粒の涙であふれ会話になりませんでした。情けなく思ったのか、苦しかったのかはわかりません。ただ、彼の中に今のままの自分ではいけない。だけどどうすればいいかわからない。そんな、ぐちゃぐちゃな思考が渦巻いていたのかもしれません。
私は、別れ際
「今度、市役所に相談に行かんね。そして自分のすべてを正直に話さんね。立ち直ろうとする意志があるなら、そのことをしっかりと伝えることがたいせつばい。今度は、人生から逃げんで自分で道を切り開かなんといけんと思うよ」
とだけ伝え別れました。
数日後、彼から電話がありました。
「今日市役所の福祉課に相談に行きました。自分のこと全部正直に話して、もう一度がんばりたいって一生懸命お願いしたら、住む所をお世話してもらえました。生活保護をもらいながら4か月で人生立て直すチャンスをもらえました。めちゃくちゃ嬉しいです。ありがとうごました。」
彼の声は、今までの言い訳と逃げばかりの暗く不貞腐れたような口調ではなく、明るく前に踏み出そうとする若者のようでした。
齢50歳。これからの人生も決して甘くはないでしょう。
でも、逃げずに諦めずに新しい自分の道を作って行ってほしいと願う年の暮れとなりました。