「母から譲ってもらった鏡台、大変美しい仕上がりにみとれています。」
「土岐さんで買った6脚の内、1脚だけ籐がやぶれたんです」
この椅子は、飛騨高山に工場を持つシラカワさんの ルーベンスチェアです。(シラカワさんの椅子は著名画家の名前から命名している椅子が多いです)
ルーベンスチェアは、私が20歳代のころから40年近くも生産されているロングライフ家具なんですよ・・・。
永年愛用してきた椅子を「さらに永く使いたい」と、愛媛県新居浜市・I様から、“お使いの6脚の中で籐がやぶれた1脚” の修理依頼をいただきました。
【お願い】数脚お持ちの内、1脚の籐張り替えをした場合のお願いです。
椅子の籐張り替え修理や塗装修理などでお使いの数脚の椅子の内、すべての椅子を修理しない場合に必ずお伝えしている大切なことです。
籐シートは自然素材のため経年変化していきます。
そのため、新しく張り込んだ状態と、10~20年お使いいただいた状態で、どうしても違いが出てしまうのです。
①色合いや艶の違いが出ます。
特に、今回ご紹介のシラカワ製ルーベンスチェアのように、生地色から着色塗装している場合、できるだけ近い色または純正ステイン(着色剤)で塗装しますが、微妙な色違いが出てしまいます。
生地色(ナチュラル色)仕上げの場合も、10~20年使っていますと日焼けや経年変化で “あめ色” になっているため、色違いが出てしまいます。
生地色(ナチュラル色)仕上げの場合は、張り替え後 しばらく使ってますと日焼けして少しづつ近くなっていきます。
②肌触りの違いが出ます。
ほぼ毎日、椅子に座わってますと背中で「スリスリ」しています。
籐シートを背中で「スリスリ」してますと研磨効果があり、10~20年お使いいただくと籐シートの表面は「ツルツル」になってきます。
新しく張り込んだ籐シートは、自然素材のため「イガイガ」しているものです。
張り替え修理中、表面研磨やささくれを整えるなどの調整作業をしていますが、どうしても肌触りの違いが出てしまいます。
③籐芯の直径サイズや打ち込み深さが違うことがあります。
張り替えた籐シートを押さえるために溝に打ち込む丸型の籐芯は、4mm・4,5mm・5mmが代表的なサイズで、特によく使うのが4,5mmサイズです。
できるだけ同じサイズの籐芯を使ってますが、溝の幅や深さ、角のアール形状によって籐芯が折れたり割けたりしないように臨機応変に選んでいますので、オリジナルと違う場合もございます。
籐芯の打ち込み深さは、接着剤の効きなど耐久性を重視して作業していますので、微妙に深く打ち込むことがあります。
この3点の微妙な違いが出てしまうことは、ご依頼いただくみなさまにお伝えしていることです。ご理解いただけますようお願いします。
修理作業中①/古い籐シートの剥ぎ取りと新しい籐シートの準備
ルーベンスチェアにはカゴメ編み(亀甲・小)の籐シートが張られていましたので、オリジナル通りの籐シートを用意しました。
剥ぎ取った古い籐シートは、「これが無いと色合わせできないため」色サンプルとして作業終了まで大切に利用しています。
ルーベンスチェアの背もたれは、座り心地を良くするために背中のデザインが三次曲面にカーブしています。
背もたれが三次曲面カーブの椅子は、平面的な椅子と比べますと、技術的に難度が高く作業時間も2倍近くかかるため慎重作業が要求されます。
修理作業中②/新しい籐シートの張り込み作業
◆新しい籐シートの張り込んでいきました。
籐シートの張り込み作業で一番慎重になるのが「できるだけ左右対称で水平に張っていくこと」です。
背もたれの三次曲面カーブに沿って籐シートを溝に差し込み、タッカー釘で仮押さえをしたところです。
◆籐シートの引っ張り代を切り取り、籐芯で整えました。
「できるだけ左右対称で水平に張っていくこと」ができあがりました。
この写真を見ますと、背もたれの三次曲面カーブがわかりやすいと想います。
背ウラから見ても、きれいに張り込みができました。
シラカワさんのなつかしいシンボルマークが残っていました。
修理作業中③/籐シート周りの養生作業
塗装作業の工程に入る前に大切なことは、籐シート周りの木製フレームを塗料で汚さないための養生作業です。
TOKI家具館メンテナンスでは、古新聞やカレンダーなど柔らかい紙とマスキングテープを使い養生をしています。
ウレタン塗装で吹き付けした時に「塗料が散るかもしれない」を予測して養生作業をしました。
ウラ面も表面同様に養生作業をしました。
こうしておくと、一連のウレタン塗装の吹付作業がスムーズに進みます。
修理作業中④/張り込んだ籐シートへウレタン塗装作業。
◆下地着色作業をはじめに行います
元の色合いに近いステイン(着色剤)を決めるために、3種類のステイン(着色剤)でテスト塗りしました。
テスト塗りは、籐シートを張り込んだ時に出た、引っ張り代の端材を利用しています。
剥ぎ取った古い籐シートを色サンプルとして、新しく張り込んだ籐シートに下地着色していきました。
◆ウレタン塗装作業で籐シートに補色・艶出し作業をします
ウレタン塗装は、大谷塗料さんのセーフティワルツのウレタン塗料を永年愛用しています。
もちろん、環境配慮型(トルエン、キシレンフリー)のウレタン塗料です。
ウレタン塗装はルーベンスチェアを塗装室に移動して、ウレタンサンディング×2回→補色作業→ウレタンフラット×2回の吹付作業を基本としています。
今回のウレタン塗装は、下地着色時に濃色にできなかったため、補色作業を慎重に進めました。
補色作業は「目的の色に近づけるため、色を足していく」作業です。
一度足した色を薄くすることはできないため、慎重作業が必要になるのです。
修理作業中⑤/フレームの水平バランス調整・掃除・脚先のフェルト貼りなど
水平盤(ガラスの厚盤)の上に、座面を取り付けしたルーベンスチェアを乗せて「ギッコン バッタン」などがたつきが出ないように調整作業をしました。
「ギッコン バッタン」していますと、数年先にぐらつきなどの不具合が起こる原因になります。
修理完成後/ルーベンスチェアの籐の張り替えができました。
シラカワさんのルーベンスチェアに、新しい籐シートがオリジナルに近い色で仕上がりました。
永く作り続けられているロングライフ家具は、定番の美しさがあると想います。
新しい籐シート(カゴメ編み/亀甲/小)もオリジナル通りのものを張り込みました。
愛媛県新居浜市・I様、ご依頼いただきありがとうございました。土岐泰弘
「愛媛経済レポートさんの取材を受けました」
人手不足の時代でありがたいことに、TOKI家具館メンテナンスの職人スタッフが3人に増員できました。
(20歳代の職人2名が増えたことで、平均年齢は現在37歳です)
当店の家具職人は、
家具製作に必要な職業訓練を受け、かつ国家検定 家具製作技能士有資格者と限定しています。
2024年(令和6年)8月5日号で、TOKI家具館メンテナンスの取材が掲載されました。
これから、開業医様を中心に法人向け家具修理やリノベーションのサービスをスタートするところの取材!
愛媛経済レポートさん、ありがとうございました。土岐泰弘