「大好きな椅子の肘の取り付けが折れてしまったんです!」
「もう40年使っているお母さんのミシン椅子を見てください。」
「フレームはボロボロで、座面も凹んで傷んでるんです。」
「でも愛着があるんで、なんとか直して使い続けたいんですよ・・・。」
愛媛県新居浜市・S様がミシン椅子を持ってご来店いただきました。
実物を確認しますとフレームはすべて合板で構成されていて、S様がおっしゃる通り廃棄寸前の状態です。フレーム接合部のダボは折れて、凹んだ座面にはカバーを画鋲で止めていました。
修理作業中①/フレームの分解作業
フレームの分解前に、マスキングテープで各接合部へ墨付け作業をして、分解していきました。
フレーム下部の貫の接合は、ダボ1本ずつとなってましたが、補強のためダボ2本にします。
合板で作られた2本の幕板は内部が砕けてしまっていました。
修理作業中②/各部材の調整作業・補強作業
内部が砕けてしまっている幕板には、新しい合板を挟み込み、たっぷりの接着剤で圧着作業をしました。
はみだした接着剤は、濡れたウエスで拭き取り約12時間の完全乾燥を待ちます。
貫を2本のダボで固定するための穴掘り作業をしました。
こんな時に役に立つのがドリルスタンドです。ドリルスタンドを使いますと、垂直に一定の深さで穴掘り作業ができるんです。
折れたダボも取り替えて、各部材の調整作業・補強作業ができあがりました。
修理作業中③/フレーム全体の圧着作業・補強桟木の取り付け作業
たっぷりの接着剤と共にフレーム全体を圧着しました。
当て木の仮固定にソマックス製ジュニアFクランプ、フレーム本締めにソマックス製T型クランプを使い圧着しました。
私が愛用しているソマックス製各クランプは、もう10年位前に製造中止になっているとのこと・・・。手仕事には、欠かさない道具なのでとっても残念です。
フレーム全体の圧着作業ができますと、座面取り付けと補強を兼ねた桟木を取り付けしていきます。
この写真は、ウォールナット端材から取った桟木を仮合わせしている様子です。
横方向の木ネジ固定用の穴、座面固定用の穴は前もって開けています。
補強用桟木の横方向を木ネジ固定したのちに、タテ方向を圧着しました。
補強用桟木のタテ方向は木釘で完全固定しました。
修理作業中④/ウレタン塗装作業
私が永年使っているウレタン塗料は、大谷塗料さんのセフティワルツという環境配慮型塗料です。
S様のミシン椅子は、50%艶消しにて仕上げていきました。
椅子フレームなどのウレタン塗装で一番気を付けているのが、表面とウラ面をできるだけ均一に拭き付けていくことです。
拭き付け塗装・刷毛塗り塗装にかかわらず、作業しにくいウラ面からの作業を心がけています。
ウレタン塗装は基本工程として、サンディングシーラー×3回 → 調色作業 → ウレタンフラット×3回 としています。
ウレタン塗装で大切なことは、拭き付け作業毎のケバ取り研磨作業です。
修理作業中⑤/座面の取り付け・水平バランス調整作業
新しく作った座面を補強用桟木から取り付けしました。
当初の座面取り付け用穴からの取り付けですと、幕板合板を傷めると思い無垢材桟木からの取り付けとしました。
水平盤(ガラスの厚盤)の上に、S様のミシン椅子を置いて「ギッコンバッタン」しないように水平バランス調整をしました。
「ギッコンバッタン」している状態で使ってますと、再びぐらつきが出てくる可能性があるため、この作業はとっても大切なんですよ・・・。
修理作業後/S様からありがたい「クチコミ」をいただきました。
先日母が長年使用していた椅子を修理して頂きました。40年以上前の物で痛みもありましまが土岐様の御好意もあり、素晴らしい出来栄えでリメイクされ、今までの思い出と共にまた自分の家族も引き続き使えるようになりました。
量産で気軽に新品が手に入る今の世の中ですが、このような形で家族何世代に渡り、思い出を重ねながらずっと使い続けて行けるのは土岐様の技術があってこそです。本当にありがとうございました。
S様、仕事とともにありがたい「クチコミ」をいただきありがとうございました。土岐泰弘