「大好きな椅子の肘の取り付けが折れてしまったんです!」
目次
「お母さんが大好きな鳥取家具さんの椅子を持ってきました!」
「お母さんを引き取るので、この椅子もきれいで丈夫にして持っておきたいんです。」
「鳥取家具さんの椅子が大好きな両親で、実家は鳥取家具さんの椅子がたくさんあるんですよ。」
香川県観音寺市・N様から、お問い合わせをいただきました。
鳥取家具さんは残念ながら廃業してしまいましたが、私の大好きな家具メーカーの一つでして、私が若いころは、百貨店の新居浜大丸でしか販売されてなかったように記憶しています。
鳥取家具さんの特徴は、フレーム各所に曲木の技術が施されていて、シンプルかつ丈夫な構造です。
そのため、かなり古い椅子でも修理可能な椅子が多いです。
N様のご希望は「きれいに丈夫にしたい!」ということですので、
フレームのぐらつき修理、フレームの塗装修理、座面の張り替え修理のフルメニュのご依頼をいただきました。
修理作業①/フレームの分解作業
はじめに取りかかったのは、フレームの分解作業です。
座面を取り外してフレームを確認しますと、接合部のほぞが抜けかかっていました。
椅子のフレームを分解する時は、各接合部にマスキングテープなどを使いナンバー打ちをしておきます。
こうしておきますと、組み立て圧着時にまちがって組み立てすることがなくなるためです。
椅子の分解作業は、とってもむつかしいです。
無理して分解しようとすると、フレームを割ってしまうこともありますし、
慎重に遠慮しすぎると、キッチリ直りません。
N様の椅子は写真の通り、4分割に分解することができました。
修理作業中②/フレームの研磨作業
N様の椅子は、丸棒の部材と平面の部材が混在して構成されています。
そのため、電動工具のハンドサンダーは、写真のような2種類を用意しました。
◆丸棒部分は、サンダーの定番にスポンジを挟んだもの(写真右)
◆平面部分は、普通のサンダー(写真左)
◆写真左の割り箸のような棒は、背もたれタテ丸桟木の間を研磨するために用意しました。
「椅子の塗装作業には、2つの方法があります。」
椅子の塗装修理は、事前研磨がむつかしいため2種類の方法で対応しています。
①可能な限り生地出し研磨をして、改めて一から塗装する方法
②上塗り層だけを研磨して、補色→上塗り塗装する方法
どこがむつかしいかと言いますと、接合している境部分の研磨が確実に研磨できないことがあるためです。
N様の椅子の場合ですと、
4分割とはいえ分解できましたので、かなりの研磨作業ができました。
背もたれ笠木部分の研磨の状態です。
背もたれ脚部分の状態です。
背もたれの細い丸棒接合部の研磨は、根気のいる作業でしたが、こうしてきれいになったのを見ますとうれしくなります。
この椅子の主材料は、ブナ材です。
研磨しますと、ほぼ素肌の状態に戻りますので、作業前の写真と比べると色合いの違いがわかると思います。
N様、大切な椅子の仕事をご依頼いただきありがとうございます。土岐泰弘
修理作業中③/フレームの組み立て圧着作業
「この椅子もきれいで丈夫にして持っておきたい。」というご依頼で、大切なのはフレームの組み立て圧着作業だと思います。
宇和島高等技術専門校時代のM先生からは・・・
「接合部に付ける接着剤は両方に少しはみ出るくらい入れて、組み立て圧着後に濡れたウエスで完全に拭き取ること!」
と、よく聞かされたものです。
接着剤を付ける時の注意点は、
接着剤を多く入れすぎると、ほぞ穴の中で行き場のなくなった接着剤が邪魔をして、接合部が付かなくなることです。
どんな作業でもさじ加減が大切ということです。
そして愛用のソマックス製T型クランプを使いダイニングチェアの前後を組み立て圧着していきました。
組み立て圧着作業での注意点は、
ダイニングチェアのフレーム形状に応じた治具(当て木)を用意して、フレームを傷めないようにすることです。
N様がお持ちの鳥取家具さんのダイニングチェアのフレームは丸棒形状のため、内丸型の治具(当て木)に保護用のニードルパンチを貼り付けたものを用意しました。
この作業から、約12時間で完全乾燥しますので、しばらく養生しておきます。
修理作業中④/ウレタン塗装作業
ダイニングチェアの組み立て圧着作業が完全乾燥しますと、塗装室に移動させて、ウレタン塗装の工程に移ります。
鳥取家具さんの椅子を含めて、一般的な工業製品の家具塗装は、耐久性がありメンテナンスも楽なウレタン塗装の場合が多いです。
「よく、ウレタン塗装と自然塗料(オイル仕上げ)のどちらが良いの?」
という相談をお受けします。
これまた、宇和島高等技術専門校時代のM先生に教えてもらったことですが、
私の仕事では「塗料に限らずどんな材料でも、長所と短所があるため、目的に応じて使い分ける」ことにしています。
TOKI家具館メンテナンスが永年使っているウレタン塗料は、“大谷塗料さんのセーフティーワルツ” を季節によっての気温や湿度に応じて調合しています。
最初は、サンディングシーラーを拭き付けていきました。
N様のダイニングチェアはブナ無垢材のナチュラル色ですので下地着色はしないで、サンディングシーラー×3回、ウレタンフラット×3回で仕上げていきます。
「ウレタン塗装で大切なこと・・!」
サンディングシーラーなどを1回拭き付けると塗装表面に少々の “ケバ” が付きます。
ウレタン塗装の作業で注意していることは、拭き付け毎に “ケバ” を#400~#600くらいの研磨紙で、取り除くことなんです。
修理作業中⑤/座面の取り付けと基本メンテナンス作業
ウレタン塗装作業が終わりますと、事前に張り替えておいた座面を取り付けし、水平盤(ガラスの厚盤)の上で水平バランス調整や検品など基本メンテナンスを行い完成です。
修理作業後/香川県観音寺市・N様の椅子が完成しました。
「こんなにきれいにしてもらって 母も喜びます。ありがとうございました!」
仕上がった鳥取家具さんのダイニングチェアを引き取りに来店された時、こんなうれしいお言葉をいただきました。
お客様の笑顔やお言葉が私の励みとなっています。
N様、大切な椅子の仕事をご依頼いただきありがとうございました。土岐泰弘
「新居浜市SDGs推進企業に登録されました!」
TOKI家具館メンテナンス(会社名:有限会社土岐家具店)が、新居浜市SDGs推進企業 登録番号第38号に登録されました。
新居浜市経済部産業振興課のみなさま・新居浜商工会議所のみなさま、ご尽力いただきありがとうございます。
平成時代までは、大量生産 → 大量消費 → 大量廃棄 の時代でした。
お客様からは「家具って、使い捨てでしょ。」という言葉もまだまだ聞きます。
でも、使い捨てをこのまま続けていきますと、SDGs(持続可能)になりません。
令和時代になった現在、永く使える家具を注文に応じて必要な数だけ作り、メンテナンスを繰り返し永く使っていく!
「メンテナンスを繰り返すたびに、家具への愛着も増していくと想われます・・・。」
最後まで、お読みいただきありがとうございました。土岐泰弘