お墓の本来の意味と意義とは…

私がお墓の仕事に就いて、早いもので35年が経ちました。

私がお墓の仕事(営業)をして三年目頃のことです。
あるお客様と出会い、墓石建立の契約をいただき、無事に墓石は完成しました。
墓地でのお引渡しには、奥様(ご依頼者)と娘さんと二人でお越しいただきました。
出来上がった墓石を見るなり奥様は、
「これでやっとお義母さんを入れてあげられる。石屋さん、ありがとうございます。」
と涙を流しながら感謝の言葉をいただきました。

後日、遺骨を納骨して集金に行った時のことです。
ご自宅では、ご夫婦揃って私を待っていてくれました。
お墓の話などしているうちに、奥様が亡くなったお義母さんのことを話し出しました。
「自分がお嫁に来た時、ここは知らない土地で身内も友人もいない場所でした。そんな私にいつも寄り添ってくれていたのがお義母さんでした。お義母さんがいなかったら、私はどうなっていたか。本当にお義母さんには感謝しかないんです。」

そして、こうも続きます。
「お義母さんが亡くなってすぐにお墓を建てる事ができなくて、何年も待たせてしまったけど、やっと、やっとお墓を建てることができました。遅くなったけど、ひとつ親孝行ができたような気持ちです。墓石もとても立派に作っていただいて、石屋さんにも感謝しています。あなたに作ってもらって、本当に良かった。」
と、お話いただきました。

私はまだ二十代の若僧でした。墓石を販売するための商品ととらえ、売上を意識して販売していた頃でした。そう考えると、このお客様の墓石は、大きな立派な高額なものとは言い難く、割とこじんまりとした、一般的な墓石でした。それでも、こんなに故人のことを想っているなんて、こんなに喜ばれ感謝されるなんて、すごい仕事、素晴らしい仕事をしているんだ、と思ったことを今でも鮮明に覚えています。

当時(30年ほど前)はお墓を新規で建てる、建て替える、土葬だった地域が、火葬を奨励し、集落単位での墓地の移転なども伴って、ある意味墓石建立ブームのような状態だったことを覚えています。田舎では、本家のお墓は分家よりも見劣りのしないものを建立するような風潮もあって、その当時建立された墓石は立派な見栄えのするものが多く建立されていたように記憶しています。
そのような墓石が今でも多く点在し残っています。

あの頃から、30年が経ち墓石の建立の様子は様変わりしてきています。

大きな立派な墓石を建てる方よりも、凝ったデザインのものや、先祖代々のお墓というよりは、特定の故人の方を偲ぶようなお墓が目立ってきたように思います。

また、ご供養の選択肢は墓石だけではなく、永代供養、樹木葬、海洋散骨、手元供養など、ずいぶんと多様化してきています。(おそらく50年ほど前のご供養、埋葬方法は墓石一択だったように思います。)

墓石を取り巻く環境の中で、最も変化が著しいのは、「墓じまい」をされる方が年々増えてきていることではないでしょうか。
30年前に墓石を建立した方々でさえ、現在になって墓じまいをされる、または墓じまいを検討している未来は、当時は想像もできなかったことではないでしょうか。

少子高齢化、核家族化が進行している現在では、お墓そのものの意味や、供養について、分岐点に差し掛かっているのかもしれませんね。

つい先日、次のような出来事がありました。
春先に、墓石建立の相談を受けました。ご相談者は80歳を超えた女性でした。
旦那様がお亡くなりになり、墓石の建立を考えているというご相談でした。

以前なら、喜んで営業をするところですが、私はこう質問させていただきました。
「お墓の承継者はいらっしゃいますか?」
最近では、墓地の永代使用権の権利についても、同じような質問をされる寺院や役所も増えてきているようです。
ご相談者は「大丈夫です!」とおっしゃっていただいたので、お墓の建立について、お話を進めさせていただきました。

打合せの段階で、ご相談者様の息子さん夫婦もいらっしゃって、とても仲の良いご家族であると感じることができました。最終的に、今年のお盆が初盆であることや、7月に百か日を迎えることもあり、それまでにお墓を建立し納骨することで、お墓建立の依頼を受けることになりました。

そして7月になり、お墓建立の工事も終わり墓地にてお引渡しをさせていただきました。
その際に墓地に来られたのは、ご依頼者様とその息子さん夫婦、その息子さんご夫婦の長男夫婦とそのお子様(双子の姉妹)と次男さんの計八名でお越しいただきました。

(えっ、こんなにご家族がいたんだ!)と内心思いました。
お孫さんたちは別に暮らしているが、市内に住んでいらっしゃるとのことで、声をかけたら、見に来られたとのことでした。

ご依頼者の方は、まじまじと出来上がったお墓を見て、涙を流しておられました。息子さん夫婦も、「いいお墓で良かったね。お父さんの居場所ができたね。」とご依頼者へお声をかけていました。

数日後、墓地において納骨、入魂供養の際のお手伝いとして参加させていただきました。
全てが終わり、お供えした団子やお菓子を墓前で召し上がりながら、ご家族団欒の風景を目にしました。故人が好きだったものをお供えしたのでしょう、故人の食べる時のエピソード、好き嫌いの話、お孫さんからは「へぇ~知らなかった」など、故人の思い出話に笑顔があふれていました。
私もお裾分けに預かり、その輪の中にいました。

その時、30年前の若かった頃の記憶が蘇ってきました。
30年たった今でも、お墓を前にして故人を思い出し故人を偲ぶ姿や想いは変わらない。
お墓の前で、手を合わせ故人を偲ぶ、顔も知らないご先祖様であっても、その方々が命をつないで今ここに自分がいることへの感謝。

墓じまいをされても、別の方法で供養を続けていく方法は多様に増えてきました。お墓を建立すること、お墓を片付けること、そこにはそれぞれの事情があって決断されることなのでしょうが、どんな決断、どんな方法であったとしても、故人への想いや感謝、ご供養する想いだけは変わらないでいてほしいと、あらためて感じる出来事でした。

コロナも落ち着いてきたのかな。今年のお盆は(も)ご先祖様に会いに行ってみませんか。

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