いわゆる「墓守り」の法律
自筆証書と公正証書、結局どちらがよいの?
2019年7月1日に施行された40年ぶりの相続法改正。相続のルールが大きく変わりました。実はこの改正は段階的に施行されていったのですが、このほど自筆証書遺言書保管制度が2020年7月10日に施行され、全ての改正法が施行となりました。自筆証書遺言書の保管制度では、法務局が遺言書を保管することになるため紛失の恐れがなく安全性はとても高いと考えられています。一方で、同じく安全性が高いとされる公証役場で作成・保管する「公正証書遺言」がありますが、今後遺言書を作成するにあたり、「結局どちらを選択するべきか?」を司法書士の目線から考えてみたいと思います。
遺言書は作った方が良いのですか?
「そもそも」ですが、遺言書は作るべきか。司法書士の目線から答えるなら「作るべき」です。実際、多くの方が遺言書を作っておらず、相続手続きも相続人全員の合意のもと進められているのが大半だと思いますので「作らなくても大丈夫だった」というのが大半でしょう。わかば法務事務所にも年間100件を超える相続の相談を受けてつけていますが、遺言書がある場合は1割程度です。
ただ、ご相談をいただく1割程度はいわゆる「争族」であり、相続人間の協議がまとまらず、時間と費用がかかるケースがあります。預金を解約できない、不動産の名義が変えられず売却ができないなど、相続手続後の生活に大きな悪影響が出てしまうケースがあります。遺留分などの問題(相続人間の調整)は残りますが、とりあえず、預金や不動産などの相続手続が滞りなく進めることができる「遺言の存在」はとても大きなものです。
巷の「終活」ブームに乗り、自筆証書遺言は以前よりも多く書かれるようになったと思います。ただ、自筆証書遺言書には次のようなデメリットがあり、公正証書遺言の方が優れているとされていました。
自筆証書遺言のデメリット
・全文を自筆しなければならない。
・法律上の要件を満たしているか確認ぜず保管し、死後「使えない遺言書」であったことが判明してしまう。
・死後相続人が遺言書を見つけることができない(紛失)
・一人で作成できる分密室性が高いため「無理やり書かされた」「筆跡が違う」などの問題が浮上しやすい
・家庭裁判所での「検認」手続きに時間と費用がかかる
法務局における自筆証書遺言書保管制度のメリット
自筆証書遺言書保管制度を利用することで、次のような利点があるとされています。
・遺言書原本は法務局で保管(→紛失の恐れがない)
・法務局で遺言書の形式的な要件をチェック(→無効な遺言をstop!)
・家庭裁判所での検認手続きを省略できる(→手続の簡略化)
・低廉な費用(保管料1通につき3900円)
これからは全て自筆証書遺言がいい?!
自筆証書遺言のメリットが増えた!と思われるかも知れませんが、それでも次のようなデメリットがあるんです。
①自署することができないと利用できない。
財産目録などは印字でも良いなど緩和措置はあるものの、原則自筆証書遺言は全文を自署することが求められます。公正証書であれば、署名押印以外は公証役場が文書を作りますので、高齢や障害があり、自署することが難しい場合には、公正証書の方が優れています。
②遺言者本人が法務局に出向かなければなりません。
公正証書の場合も誰かが代理することはできませんが、公証人はご自宅や病院や施設まで出張していただけます。ベット生活で思うように動けないという場合には、公正証書の方が優れています。
③自筆証書遺言は一人で作成するもので客観性に欠ける。
公正証書の場合は、証人2名の立会のもと、公証人が遺言者が口述したことを聞き取って遺言書を作成しますので、客観性に優れています。「無理やり書かされた」などと文句をつけてくる相続人が現れることが予想される場合には、公正証書の方が優れています。
④検認制度は省略できるけど、同様の手続あり?
検認制度は、遺言書の存在を相続人全員に周知し、その遺言書を確認してもらう機会を与える制度です。したがって、亡くなった人の相続人全員を確定させる戸籍謄本や住民票を揃えなければなりません。それに時間と費用がかかります。自筆証書遺言書保管制度を利用すると検認手続きは不要となるのですが、亡くなった後法務局に遺言書情報を請求する場合には、検認手続きの場合と同様に、亡くなった人の相続人全員を確定させる戸籍謄本や住民票を揃えなければならず、遺言の存在も全ての相続人に通知される仕組みとなっています。となると検認制度も不要、亡くなった人の相続人全員を確定させる戸籍謄本や住民票を揃える必要がない、公正証書遺言の方が死後速やかに相続手続きに移行できることから、メリットが高いと考えられます。
自筆証書vs公正証書 どちらに軍配!?
以上から、現時点では(費用はかかるものの)司法書士としては、公正証書遺言を相談者には勧めることになろうかと思います。ただ、遺言書を作成することがより身近に感じられるような制度ではあると思います。相談者の方が使ってみたいという場合には、きちんとサポートさせていただきます。