不動産競売でアパートを落札した際の注意点

久保隆明

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テーマ:不動産

不動産競売は市場価格よりの安価に不動産を取得することができるため、最近では不動産業者ではなく一般の方も裁判所の不動産競売で物件を取得される方が増えてきています。その中で質問されるケースの多いこととして、アパートを落札した際の入居者との関係についてです。

1.「3点セット」って知っていますか?

不動産競売に際して物件を落札しようとする方がまずやらなければならないことがあります。それは、いわゆる「3点セット」の熟読です。全国の不動産競売の情報は裁判所が運営するサイトから情報を入手することができます。下記サイトをご参照下さい。「3点セット」とは、次の文書のことをいいます。この3点セットを熟読しないとトラブルに巻き込まれる可能性もあり、大変重要な書類です。
①物件明細書
競売にかかる不動産の表示及び買受人(競落人)が負担することとなる他人の権利、物件の占有状況などの特記事項が記載されています。特に「買受人が負担することとなる他人の権利」の部分が重要です。
②現況調査報告書
対象不動産の「今」が記載されています。誰が使用しているのか、空き家なのか。物件の関係者からの聞き取り事項。対象物件の案内図、土地の公図や建物図面、そして現況(外観・内部)の写真が掲載されています。
③評価書等
不動産鑑定士による対象物件の評価額が記載されています。
(不動産競売物件情報サイト:http://bit.sikkou.jp/xxW00_sv_0000Action.do

2.「買受人が負担することとなる他人の権利」とは

①物件明細書に「買受人が負担することとなる他人の権利」という欄があります。この欄が「なし」と記載されている場合には、実際に使用(占有)している人がいたとしても、手続を踏めば法的に退去させることができます。仮にアパート1棟を落札し、9部屋のうち7部屋が既に入所していたとしても、この欄が「なし」であれば、それぞれの賃貸借契約は引き継がないこととなりますので、一斉に退去を求めることができます。(退去を望まない場合には、新たに入居者との間で賃貸借契約を締結し直す必要がありますので、注意が必要です。)
逆にこの欄に「賃借権の表示」があった場合には、競落したとしても、その占有者の使用を認めなければなりません。ただ、賃貸人としての地位を承継しますので、その後の賃料は落札者(新所有者)が受けとることができます。

3.旧所有者(旧貸主)に差し入れてある敷金はどうなるのか?

仮に入居者が旧賃貸人に敷金を差し入れていた場合、「買受人が負担することとなる他人の権利」に記載された賃借権は競落人に対抗できる(使用を継続できる)こととなりますので、この場合競落人が賃貸人の地位を承継します。従って賃借人が退去する際の敷金の返還義務をも承継します。敷金が10万円であれば、入居者が退去した場合は10万円を返還しなければなりません。本来であれば旧賃貸人からその敷金10万円を受けとり、そのお金を入居者へ支払うことになりますが、競売にかかる程経済状態が悪化した人ですから、敷金を回収することは難しく、現実的には競落人が敷金を負担することがほとんどです。
従いまして、アパートを競落しようとしている人は、引き受けなければならない賃借権がある場合、その敷金を自分が負担して支払う覚悟で参加しなければなりません。
一方で、「買受人が負担することとなる他人の権利」の欄が「なし」であれば、実際に入居している人がいたとしても、退去の際に、敷金を返還する必要はありません。

4.対抗できる賃借権とそうでないものの違い

賃借中の建物が競落された場合、競落人が引き受けなければならない賃借権かどうかは、賃借人(アパートに住んでいる人)が部屋の引渡しを受けた時期によって異なります。
①建物の第一順位の抵当権設定登記よりも前にアパートの引渡しを受けていた場合
この場合は、建物賃借権が抵当権に優先しますので、建物が競落されても新賃貸人は賃借権を引き継がなければなりません。
②建物の第一順位の抵当権設定登記よりも後に引渡しを受けた場合
この場合は、新所有者は賃借権を引き継ぎませんので、競落後引渡命令によって、簡易に建物の引渡しを受けることが可能です。もっとも、建物の賃借人は、競売における買受けの時から6ヶ月間は建物の引渡しを猶予されます。

5.余談:アパート入居契約の重要事項説明

アパートを借りるときに宅建業者が重要事項説明をします。その際に、抵当権等担保権の有無を説明されます。私も学生時代アパートを借りる際、この説明を受けたのですが、何で説明するかわかりませんでした。これまでのお話しで皆様もご理解いただいたと思いますが、既に抵当権が設定されているアパートに入居した場合には、入居者の意思に関わりなく競売により退去を迫られるリスクがあるということになります。私が退去を迫られる入居者の立場だったら、困りますよね・・・

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久保隆明
専門家

久保隆明(司法書士)

司法書士法人わかば法務事務所

成年後見のスペシャリストとしての経験に加え生前贈与・家族信託など、老後の資産活用を総合的に提案できるのが強み。先代から数えて司法書士業60年のキャリアと県内全域をカバーする法務ネットワークも併せ持つ。

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