薪ストーブを選ぶ前に知っておきたい二つの価値ー便利で頼りになる生活道具としての価値
薪ストーブを後悔なく選ぶためには、薪ストーブを導入したい、という動機について「価値」に基づいた整理、言語化が必要であると、前回のコラムで申し上げました(極めて多忙につき時間が空いてしまって申し訳ありませんでした)。
言語化するために、薪ストーブが例えばご自宅のリビングで存在することによって、どのような効果を「最も」強く期待しているのか?という問いに正直にお答えいただきたいのですが……少なくとも、ストーブなので暖かいことは期待にあるでしょうけど、単に暖かいだけであるなら、薪ストーブである必要もないことはおわかりいただけると思います。
薪ストーブのプロとして答えを申し上げますと、大多数の人は、薪ストーブが生活空間に存在することによって得られる「なんとも言えぬ贅沢さ、ゆとり、心が整う感」を求めています。これは販売側のイメージ戦略の賜物であるわけなのですが……
この価値の本質は、「生活のために絶対必要な道具」とは、ある意味で対極にある、まさに「調度品」に求めるものなのです。単に暮らしを回すだけであるなら、そこに存在する必要はないのだけど「あえて」ある。部屋を飾り、部屋の風格を醸し出す、たとえば絵画や彫像、もう少し身近では生け花のような価値です。
そんな調度品の価値を第一に求める場合、薪ストーブには、どんなことが要求されるでしょうか。生け花で考えて頂くとよく整理されると思います。生け花そのものが美しく、当然、花瓶や花台も、それ相応に鑑賞に堪えうるものでないと達成できません。生け花は生け花として、空間のあるじの精神性というか「本来あるべき姿」を具体的に体現できることが大切です。
同時に「暮らしのための生け花」というのは、暮らし全体の贅沢さや洗練が底上げされていない限り、本質的には、なかなか難しいこともおわかりいただけるかと思います。実際の暮らしの雑事・面倒ごととは離れるというか、台所事情を忘れさせるような象徴的な存在で、まずあるべきなのですから。
私の知る限り、薪ストーブに求められる大多数の方のニーズは、これに似ています。「リビングに炎がある」ということに尽きるのです。レンガ造りの暖炉にせよ、薪ストーブにせよ、外界からは最も離れたはずの場所に炎がある、それは、住空間の中にある植物、生け花と同じ効果です。
このような価値は「趣味のもの」と言ってもいいかもしれません。趣味のものは、趣味のものであるがゆえに、暮らしの雑事・面倒ごとから離れ、そこだけが豪華で、別世界に連れて行ってくれるものだったりします。「特別」な思い入れを伴うものなのです。
薪ストーブに、そのような価値を求める場合、最も大切なのはデザイン、雰囲気です。そして薪ストーブのデザインは、そのような価値に着目しても千差万別です。その中で選択を悩むのも楽しいものです。重厚な鋳物の質感を主体にしたクラシカルなものだったり、大きなガラス窓を主体にしたモダンなものだったり、ここはまさに趣味のものとしての選び方になってきます。
そのような場合の「選び方」における実際の考え方を上手にまとめて、動画で紹介している方がいらっしゃって、こちらの記事で紹介しております。ここで、その動画の内容を箇条書きにして再掲します。
- 薪ストーブは、一年の半分以上は、ただ置いてあるだけになる。
- 薪ストーブは、一たび設置したら使っていない間も仕舞うことができず、ずっとそこから動かせない。
- 薪ストーブは、想像以上に面積を食う。リビングでは邪魔になりやすい。
- 置いてあるだけのものが、もし、見た目が気に入らないもの、あるいはインテリアとして周りの同調していないものだったら、邪魔になるばかりで、見るたびにストレスになる。
- リビングでとても目立つものなので、デザインについての家族の意見も大事である。
- 機能、大きさ、色々あるけど、やっぱり見た目重視で選んだ方が良いと思う。
- なぜなら薪ストーブ本体の性能が良くても、煙突や薪の状態にも左右されるので、薪ストーブ本体の性能はそこまで影響しないと思われるので。
私は、この人の指摘に追加して、このような目的においては、外観デザインもさることながら「炎の美しさ」を重視すべきポイントに挙げておきたいと思います。生け花ならば、花瓶や花台も、あるいは葉っぱなどを含めた佇まい全体も大切ですが、やっぱり花そのものの美しさが大切であるように。炎の美しさとして代表的な薪ストーブは、こちらのような機種です。
なお、こういう炎系の動画で難しいのは、音声と映像が切り離されていて、映像がスロー再生にされているものが意外と多いのです。それでは、実際の炎がわかりませんがら……これは等倍再生で間違いありません。
以上のように、薪ストーブと言えば期待される価値は、ここで述べたようなものを期待するのが大多数と申しますか、より正確には、販売側の大多数が、こちらの価値を主軸においているがために、普通には、調度品の軸で選ぶようにアドバイスすることが多いです。
そのような販売側のよくある説明は、「薪ストーブは、基本的にどれでも一緒」というもので、実際には「個性」、使い勝手や操作方法の違い、それから実用的な性能の違いは、前回の記事で述べたようにハードウェアとして具体的細部で異なるポイントが非常に多くあるがゆえに、結果的に相当生じるのですが(イメージしやすいのは、かつてのガラケーに認められたような、細かな違いの集積によって実用的な総合評価がかなり変わった経験と同じ)、それらは「好きで選んだのだから」という理屈により、人間側が薪ストーブに合わせて適応して暮らすことになります。
語弊があったら申し訳ないと思うのですが、このような「人間の方が薪ストーブの都合に合わせながら使う」ということ自体は、別に悪いことではなく、何度も申し上げる通り「調度品」としての価値を、薪ストーブ導入の第一とされているなら、そのような選択方が一番合理的ではあります。
ただ、総じて、炎が美しく鑑賞できる状態になるまで、暖房として機能するようになるまで、相当程度(たとえば立ち上げのためだけで20kg程度など)の薪や、時間(たとえば1時間程度)を要する場合が普通で、次回に述べるように「暮らしのための薪ストーブ」としての、例えば使いやすさのような価値を主に期待した場合は、思ったよりもずっと制約がある、使えないと感じられることになります。
また、そういう制約を充分承知の上でも、選んで後悔させられる、実際には火を入れなくなる「落とし穴」的な部分がありますので、注意(確認)した方が良いポイントだけ、以下に挙げておきます。
まず、炎の価値に関連して、見た目もそうですし、煙が非常に少ない、あるいは「何でも燃やせる」をうたっている薪ストーブの場合、火がつけにくい場合があります。着火してから順調に燃え始めるまでに、時間がかかり、煙が室内に逆流してくるリスクが非常に高い場合があります。
このリスクは、煙突にも非常に依存しまして、2階建てで、屋根抜き真っすぐ、オール断熱二重煙突とかの仕様なら良いかと思いますが、壁出しだったり、煙突の長さが短かったりすると、相当苦労するおそれがあります。
もう一点、モダンデザインでガラスが大きかったり曲がっていたり、炎の鑑賞の価値を強調した機種の場合に、薪や灰が扉を開けた時に手前側に落ちやすい、あるいは灰や木片がドア機構に挟まったり詰まったりしやすいために、実際の使用に際しては相当な注意を要すると申しますか、普段使いには支障をきたすケースがあります。
調度品の価値をあまりに重視しすぎた場合(そこに目を奪われ過ぎた場合)、こうした使い勝手、使い心地の部分において問題をきたし、それがストレスとなって、結局は使わない、文字通り「置き物」と化してしまう場合があります。そこは、メーカーに確認したり、当該機種をできるだけ実際に頻繁に使っていそうな方のレビューなどがあれば参考にするなど、注意なさったほうが良いとは思います。
ただ、いずれにせよ、以上の話はご自身の中で薪ストーブに求める第一の価値が「調度品」として価値である場合の話です。「そういう調度品としての価値が薪ストーブにより多くあった方が嬉しい」というのは、例えば「結婚相手が美男(ないし美女)である方が嬉しいけど……」というのと同様、ごく普通の人情であるとして、大切なのは、薪ストーブに求める「第一の価値」は何か??という問題です。
薪ストーブには「調度品」としての価値ではなく、それとは対極になりますが、日常の暮らしの中で、暖かいということの他に多方面多機能にも活躍する汎用品、まさに生活道具としての価値があります。導入する上で第一に期待するのは「暮らしのための(暮らしを成立させるための)薪ストーブ」という場合です。
その価値とは具体的にどんなものか、何に気を付ければ良いか、次回、解説いたします。