「技術」と「人」のあいだに扉を 〜“魔の川”を越える共創のしかけ〜
「このアイデア、面白そうだけど…市場ってどれくらいあるの?」
新規事業の検討で、必ず問われるのが「市場規模」です。
しかし、正確なデータがない段階で、どれだけ説得力ある数字を語れるか—
そこに企画者の力量が問われます。
そんなとき役立つのが、フェルミ推定という思考法です。
フェルミ推定とは?
「東京にピアノ調律師は何人いるか?」
こんな一見“突拍子もない問い”に対し、限られた情報から筋道立てて推計する技術。
物理学者エンリコ・フェルミにちなんで名付けられました。
この手法の本質は、“分解”と“前提置き”です。
使いどころ:数字のない領域で仮説を立てる
フェルミ推定は、市場の全体像が不明な新規事業や技術応用の初期検討で力を発揮します。
例えば、
- 「家庭用除湿センサーの市場規模は?」
- 「ペット向けサプリの年間需要は?」
- 「物流現場にこのロボットは何台必要か?」
といった問いに、ざっくりとした“見積もり”を提示することができます。
ケース紹介:地方製造業が挑んだ“DIY防音材”の可能性検証
ある中堅の製造業では、自社の吸音技術を活かして、
「自宅のリモート会議用に使える簡易防音材」を企画。
まずターゲットを“都市部の30〜50代の在宅ワーカー”に絞り、
以下のようにフェルミ推定を行いました:
- 首都圏の在宅勤務者数:約600万人
- うちZoom等で頻繁に会議する人:30% → 約180万人
- 音漏れや雑音に困っている人:20% → 約36万人
- そのうちDIY設置可能な商品に前向きな人:30% → 約11万人
- 年間平均購入額想定:1.2万円
→市場規模=約13億円
この試算をもとに、社内稟議が通り、MVP開発→ユーザーテストへと進みました。
フェルミ推定の進め方
1.ターゲットを明確にする
例:在宅ワーカー、中小物流業者など
2.構成要素に分解する
「全体人数 × 課題保有率 × 購買意欲 × 単価」など
3.仮の数値を入れてみる
公的データや経験値から“妥当な仮定”を設定
4.ロジックが通っているかを確認する
突飛な数値になっていないか、誰でも説明できるか
注意点:正確さより「思考の透明性」
フェルミ推定は、“正解”を出すものではありません。
大切なのは、仮説の構造とその裏付け。
聞き手が「なるほど、そういう前提なんですね」と理解・納得できることが肝です。
まとめ:数字を“つくる力”は、企画力そのもの
- フェルミ推定は、“情報が足りないときこそ”使える思考法
- 論理的に組み立てた市場推定は、社内説得力を高める武器
- 「見積もり」ができる人は、「可能性」を現実に近づける人

壁を越えるイノベーション実践録(46/50)
次回予告:
「“当たり前”を疑う力が、未来を変える」
〜視点を変えることでイノベーションが動き出す〜
新規事業の企画支援や、仮説検証ワークショップもご相談いただけます。
お気軽にお問い合わせください。



