プロトタイプが動かすチーム 〜形にしてみて初めて見える“本当の課題”〜

釜剛史

釜剛史

テーマ:壁を越えるイノベーション実践録

「とりあえず、仕様を固めてからでないと」
「まずは全体像をちゃんと計画してから」
—そう言って、アイデアが“計画の檻”に閉じ込められてしまうことは少なくありません。

でも、イノベーションは計画からは生まれません。
動きながら考えること。つくりながら学ぶこと。
それこそが、新しい価値を生み出すための本質的なプロセスです。

その起点となるのが、プロトタイプ(試作品)です。



なぜ「形にすること」が重要なのか?

アイデアは、頭の中ではどこまでも“正しそう”に見えます。
ですが、実際に形にしてみた瞬間から、矛盾や違和感、思わぬ課題が一気に顕在化してきます。

これは、「考える」から「感じる」への転換とも言えます。

  • チームメンバーの理解のズレが明らかになる
  • 想定していた顧客ニーズがずれていたことに気づく
  • 「なんかワクワクしない」という直感的な違和感が見える


つまり、プロトタイプはアイデアの鏡です。
形にすることで、初めてそのアイデアの本質が見えてくるのです。

ケース紹介:ペーパープロトタイプがもたらした気づき

あるIT系企業の新規事業開発チームでは、
「中小企業向けの業務自動化アプリ」を構想していました。

最初の段階では、機能も豊富に盛り込み、洗練された設計を考えていました。
ところが、ペーパープロトタイプ(紙に画面を描いただけの簡易試作品)を持って、
実際のユーザーにヒアリングに行ったところ—

「これ、うちの経理担当には複雑すぎて無理かも…」
「このボタン、何に使うの?」
といった率直な声が多く聞かれたのです。

その結果、設計思想を根本的に見直し、
“機能を削ぎ落とす”ことで使いやすさを追求する方向へと舵を切ることになりました。

プロトタイプを活かす3つのポイント

1. 完成度は“低くていい”

大事なのは「完成品」ではなく、「気づきを得る」ことです。
ラフな図や紙でも、十分に価値があります。

2. とにかく早く見せる

できるだけ早く、関係者やユーザーに見せて反応をもらいましょう。
“恥ずかしさ”を乗り越える勇気が、成功の第一歩です。

3. チームで“触れる”

プロトタイプをチームで共有・体験することで、
認識のズレや温度差が浮き彫りになり、議論が深まります。

プロトタイプは、組織を巻き込む装置

プロトタイプには、もうひとつの効能があります。
それは、“対話を生む”ことです。

  • 経営層との共有資料として
  • ユーザーの共感を得るツールとして
  • 他部門を巻き込むスイッチとして

形あるものは、人を動かす力を持っています。

まとめ:プロトタイプは、アイデアに命を吹き込む道具

  • 頭の中だけで考えず、“形にする”ことで気づきを得る
  • 完成度よりもスピードと柔軟性が重要
  • チームや関係者との対話の触媒としても機能する




壁を越えるイノベーション実践録(38/50)

次回予告:
「社内ヒアリングの“落とし穴”」

〜ニーズを聞いても、いいアイデアが出てこない理由〜

アイデア発想の初期段階から関われる「共創型伴走支援」もご好評いただいています。
ご関心のある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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釜剛史
専門家

釜剛史(イノベーションコンサルタント)

株式会社あくるひ

企業研修、コーチング、技術経営コンサルティングの三つのアプローチでイノベーションを実践的に支援。富士写真フイルムやトヨタ自動車での実体験を基に、「横から目線」でクライアントの愉快創造を活性化します。

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