そのニーズ、“本当に顧客の声”ですか? 〜“思い込み”と“真のインサイト”を見極める〜

釜剛史

釜剛史

テーマ:壁を越えるイノベーション実践録

「顧客がこう言ってたから」「ニーズがあるって聞いたから」

商品開発や新規事業の現場で、よく聞く言葉です。
しかしその「声」、表面の“要望”で止まっていないでしょうか?

イノベーションを成功させるには、顧客の言葉の奥にある「本当の動機=インサイト」を見極める力が欠かせません。



表面的な“ニーズ”と、深層の“インサイト”

たとえば、顧客がこう言ったとします。

「もっと大容量のバッテリーがほしい」

そのまま受け取ると、「じゃあ、バッテリーを大きくすればいい」となります。

でも、よく聞くと本当に困っているのは…

  • 充電のタイミングを忘れること
  • モバイルバッテリーを持ち歩くのが面倒なこと
  • 充電が切れて仕事に支障が出ること


といった 「手間・不安・失敗体験」だったりします。

つまり、求めているのは「大容量」ではなく、「気にせず使える安心感」かもしれないのです。

インサイトを見抜く力が、企画の質を変える

「〇〇が欲しい」と言っている人に、〇〇をそのまま提供しても響かないことがあります。

人は、自分の本当の願いに気づいていないことが多いからです。

インサイトとは:

  • 言葉になっていない本音
  • 潜在的な感情
  • 過去の経験に基づく価値観

この“無意識の欲求”を捉えたとき、顧客は「そうそう、これが欲しかった!」と強く共感します。

ケース紹介:ある清掃用品の開発現場で

あるメーカーでは、家庭用のお風呂掃除ブラシの開発を進めていました。

「手が届かない場所が掃除しづらい」という声を受け、長さや角度を調整できる仕様を検討していたのですが、
実際にインタビューや観察調査を重ねると、見えてきたのは別の本音でした。

「実は、“掃除しなきゃ”と思いながら放置してしまうのがストレスなんです」
「目に見える場所だけ掃除して、“やった感”でごまかしてしまう」

つまり、機能の問題ではなく、心理的なハードルがボトルネックだったのです。

そこで、視認性の高いカラフルなブラシと「1日1箇所だけでOK」と書かれたカレンダー付きのセットを開発。

結果、使い始める人の数が2倍に増え、継続率も大幅にアップしました。

インサイトを掘り当てる3つの視点

1. なぜ、それがほしいのか?

5回“なぜ”を重ねると、本質に近づきます。
「こうしたい」→「なぜ?」を繰り返すことで、表層のニーズを超えていけます。

2. 過去に似た場面で困った経験は?

過去の“つまずき”や“恥ずかしい失敗”には、強い感情が残っています。
そこから潜在的な価値観が見えてきます。

3. 実際に行動している姿を見る

観察は最強のリサーチ。
言葉と行動が一致しないことはよくあります。
現場を見ることで「気づき」が生まれます。

まとめ:「声を聞く」から「心を読む」へ

  • ニーズとインサイトは違う
  • 言葉の奥にある感情や価値観に着目する
  • 思い込みに頼らず、行動・体験に耳を澄ませる




壁を越えるイノベーション実践録(33/50)

次回予告:
「“それ、もう他社がやってるよ”にどう向き合う?」

〜後発だからこそ生まれる差別化の視点〜

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釜剛史
専門家

釜剛史(イノベーションコンサルタント)

株式会社あくるひ

企業研修、コーチング、技術経営コンサルティングの三つのアプローチでイノベーションを実践的に支援。富士写真フイルムやトヨタ自動車での実体験を基に、「横から目線」でクライアントの愉快創造を活性化します。

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