“ターゲット不明”の商品は誰にも届かない 〜ペルソナ設定で、届けたい相手を明確に〜

釜剛史

釜剛史

テーマ:壁を越えるイノベーション実践録

「誰に向けた商品ですか?」

そう尋ねたときに返ってくる答えが、「老若男女、誰でも使えるものです」というものだったら、黄色信号です。

たしかに、多くの人に使ってもらえたら嬉しい。けれど、“みんな”に向けた商品やサービスは、結果として“誰にも刺さらない”ことが少なくありません。

イノベーションにおいて重要なのは、最初に届けたい“ひとり”を決めること

そのための強力なツールが、「ペルソナ設定」です。



「誰でもいい」は、誰にも届かない

マーケティングの世界には、有名な言葉があります。

「マーケティングとは、誰に何をどのように届けるか、を明らかにすること」

この“誰に”が曖昧なままでは、商品の価値も、訴求も、改善ポイントもぼやけてしまいます。

たとえば、同じ「スープ」でも、

  • 忙しい共働きの女性が「朝、短時間で野菜を摂りたい」と思っているのか
  • 一人暮らしの高齢男性が「温かくて栄養のある夕食を簡単に済ませたい」と思っているのか

では、必要とされる価値や使い方がまったく違ってくるのです。

ペルソナとは何か?


「ペルソナ」とは、商品やサービスの典型的な理想顧客を、1人の人物として具体的に描いたものです。

以下のような要素を盛り込むと効果的です:

  • 年齢・性別・職業・年収・居住地
  • 1日の生活スケジュール
  • 家族構成
  • 趣味・価値観
  • よく使うサービスやSNS
  • 今抱えている悩み・不満
  • あなたの商品に出会う前後の変化


ここまで詳細に描くことで、商品の打ち出し方が大きく変わります。

ケース紹介:「なんとなくターゲット」から「ピンポイント提案」

あるサービス業の中小企業では、「若手社員の定着支援ツール」を開発中でした。

当初は「どの会社にも使える若手向け」として機能を盛り込みすぎ、特徴がぼやけていました。

そこでペルソナを設定。

  • 都内の中堅製造業で働く、入社2年目の24歳男性
  • 真面目で優秀だが、人間関係に疲れ退職を検討中
  • 本音を語れる相手が職場にいない
  • スマホでのコミュニケーションには抵抗がない
  • 「成長実感」が得られたときに気持ちが前向きになる


このペルソナをもとに、「思考の記録」「上司からの1対1コメント」「自分の成長グラフ可視化」という機能に絞り、訴求内容も「あなたの頑張りは、誰かが見ている」といったメッセージに一新。

結果、導入企業数が急増し、社内でも継続利用率が格段に高まりました。

ペルソナ設定のコツ

1.「事実」ではなく「想像」で構わない
 →最初から完璧を目指さず、仮説としてのペルソナをつくる。
2.実在の誰かを参考にする
 →過去の顧客、社内の人物、自分自身でもよい。
3.感情の動きまで想像する
 →「どんなときに困って、どうして買おうと思ったのか?」を具体的に描く。

まとめ:誰か1人に届けることで、共感が広がる

  • 「全員にウケる」は幻想。最初に届けたい“ひとり”を決めよう
  • ペルソナがあると、開発・販売・改善が一気に進む
  • 顧客の感情までを見つめることで、アイデアが“人に届く提案”に変わる




壁を越えるイノベーション実践録(32/50)

次回予告:
「そのニーズ、“本当に顧客の声”ですか?」

〜“思い込み”と“真のインサイト”を見極める〜

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釜剛史
専門家

釜剛史(イノベーションコンサルタント)

株式会社あくるひ

企業研修、コーチング、技術経営コンサルティングの三つのアプローチでイノベーションを実践的に支援。富士写真フイルムやトヨタ自動車での実体験を基に、「横から目線」でクライアントの愉快創造を活性化します。

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