「アイデアが出ない病」の処方箋 〜創造性を刺激する“ずらし”と思考の技術〜

釜剛史

釜剛史

テーマ:壁を越えるイノベーション実践録

「どんなに考えても、良いアイデアが浮かばない」
「ブレストをしても、似たような案ばかり」
「発想がどうしても内向きになる」

これは新商品・新規事業の企画現場で、誰もが一度は直面する悩みです。
しかし、それはあなたに創造性がないからではありません。

多くの場合、原因は「考え方の枠が固定されている」ことにあります。
そこから抜け出す鍵が、“ずらし”の技術です。



「正しさ」よりも「意外性」を出す


アイデア出しが行き詰まる最大の原因は、
「正解を出そう」としてしまうこと。

特にまじめで論理的な人ほど、以下のような思考パターンにはまりがちです。

  • 顧客ニーズは何か?
  • 社内リソースでできることは?
  • 競合との差別化は?

これらはもちろん重要です。
でも、それだけでは「新しさ」は生まれません。

一度、“問い”そのものをずらしてみましょう。

「ずらし」の技術3選

1. 立場をずらす(誰の目線で見るか?)

例:
「高齢者向けのサービスを考える」→「高齢者の“子ども”の目線で考える」
→ 介護に悩む子ども世代の“罪悪感”を癒やす商品アイデアへ

2. 時間軸をずらす(いつの視点で考えるか?)

例:
「今の顧客のニーズ」→「3年後の社会変化に適応するには?」
→ 未来シナリオを描くことで、先取りのコンセプトが生まれる

3. 機能をずらす(何の役に立つか?を再定義)

例:
「傘は雨を防ぐ道具」→「傘は人を“見守る”道具(=GPS付き子ども傘)」
→ 機能再定義でまったく別の価値提案へ

ケース紹介:思考のずらしが生んだ商品


ある家庭用品メーカーでは、「新しい洗濯洗剤を開発してほしい」というテーマでプロジェクトが立ち上がりました。しかし、市場はすでに大手が席巻しており、機能も出尽くした感がありました。
そこで開発チームは、“洗剤そのものを進化させる”という発想から一歩引き、「洗濯という行為全体を見直してみよう」と思考の軸をずらしました。
すると浮かび上がってきたのが、「洗濯物を干すときにシワが気になる」という顧客の声。
この“干す工程”に着目した結果、「干すだけでシワが伸びる」成分を配合した洗剤を開発。従来の「汚れ落ち」訴求ではなく、“アイロンがけからの解放”という新しい価値を前面に打ち出したのです。
この商品は共働き世帯や子育て中の主婦層にヒットし、従来の洗剤とは異なる“家事の手間を減らす生活提案型商品”としてブランドの新たな柱となりました。
“洗う”という視点に固定されていた思考を、“干す”という別の工程にずらしたことで、イノベーションの扉が開かれた好例です。

アイデア出しを活性化するワークの工夫

  • NGワード禁止ルール:「それ、前にもやった」「でもコストが」などを一時封印
  • アイデア“交換”ゲーム:自分の案を他人が改造するワークで視点をずらす
  • 異業種ニュースブリーフィング:他業界の最新動向からヒントを抽出する習慣化


まとめ:創造性は“ずらす力”で開花する


  • アイデアが出ないのは、視点が固定されているから
  • 「誰のため?」「いつの話?」「何の役割?」をずらしてみる
  • 正解探しより、“意外性”の芽を育てよう




壁を越えるイノベーション実践録(29/50)

次回予告: 「本当に売れるのか?」の壁を越える 〜リーンスタートアップで進める商品開発のススメ〜

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釜剛史
専門家

釜剛史(イノベーションコンサルタント)

株式会社あくるひ

企業研修、コーチング、技術経営コンサルティングの三つのアプローチでイノベーションを実践的に支援。富士写真フイルムやトヨタ自動車での実体験を基に、「横から目線」でクライアントの愉快創造を活性化します。

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